グラスハート 13
第2話 「旋律と結晶」
あらすじ&感想 考察
オーヴァークローム野音ライブの前座にぶっ込まれたTENBLANK初お目見え。オーヴァークロームの客たちの前で藤谷バンドがどんな音を見せるのか。裏手で落ち着かない様子の桐哉。気になるかと有栖川にわれて「気に触るだけ」と強がる。
★この初ライブ自体もかなりの改変なんだけど(原作はZ-OUTのフェスでオーヴァークロームと共に出る)、ドラマ版は原作にあった桐哉から朱音への絡みがあれこれ削られているので、TENBLANK初ライブ前にあった桐哉から朱音への「無理やりキス事件」は当然ありません。でも朱音のドラムを気に入ったり、朱音の藤谷への想いを何となく感じてちょっかい出したり、確執のある藤谷との間に上手く入ったり、原作にはない桐哉と朱音の素敵なオリジナル展開もあるので全く支障はありませんでした。だけど初ライブ前のある意味挑発的な無理やりキスからの朱音の怒りと、それを目撃してしまった坂本の怒り、そしてこの怒りを「音楽で勝つ」と坂本に宣言する朱音が滅茶苦茶かっこよかったので、そこが無いのは残念です(笑)でもドキュメント(佐藤健Document of GLASS HEART)にて、健さんも当初は桐哉と朱音のいざこざがあったみたいな話をしているので、最初は無理やりキスがあったのかもしれないですねー。結局ドラマ版ではライブ前は桐哉は藤谷と接触するだけになりました。このドキュメントは佐藤健YouTubeでシリーズ化してくれているんだけど、結構動画で紹介されている演出が本編では違うので、変える前のものを色々見れるという意味でも、現場の試行錯誤が垣間見られてとても貴重です!!⬇⬇⬇
藤谷がまず「初めまして、テンブランクです」と挨拶をする。「テンブランク、、、」朱音が呟く。ここで初めて自分のバンド名を知るのだ。そして高岡、坂本、朱音の順にメンバー紹介して、最後に自分の名前を言い終えるその瞬間に朱音が激しくドラムを叩き出した。高岡が曲完成の時に漏らした「ドSなドラム」が会場に弾けまくる。1曲目の「MATRIX」からフルスロットル。高岡のギター、藤谷のベース、坂本のキーボードがうねりながら激しい旋律を重ねていく。聞いたこともないバンドの前座に興味も関心もなく、野次さえ飛んでいた観客席がにわかにざわつき始めた。オーヴァークローム以外気に入るもんかという意地をテンブランクの演奏が簡単に叩き潰していく。そのうち1人2人と立ち上がって体でリズムを取り始める。そして1曲を終えるまでに観客のほとんどが立ち上がっていた。「こんなもんじゃ困るんだよ」甲斐は観客の反応とは関係なく吐き捨てる。ドラムがネックかと井鷺もニヤつく。しかし順調に滑り出したはずの朱音が、突如緊張に襲われ始めた。観客の熱気がそうさせたようだった。MATRIXが終わるや否や鼓動が高鳴り出す。周りの音も次第に遠のいていった。でもリズムを刻まないと音楽が成り立たない。雑念を振り払うように必死にスティックを叩き下ろす。高岡も坂本も朱音の緊張を肌で感じた。「どうしよう!」動揺で顔が歪む朱音。その時、前でパフォーマンスしているはずの藤谷が朱音のドラムの前に立った。
「朱音ちゃん、もっと暴れてよ。もっとっ!」瞬時にステージに戻る藤谷。その「もっと!」の怒号に朱音は緊張を解き放った。リズムを刻める幸せを、仲間と音を鳴らせる幸せを噛み締めた。そこからはもう楽しくてしょうがない。テンブランク結成してから1番の音を鳴らし続けた。藤谷を呼んだというその「朱音の音」をめいいっぱい鳴らして、初ライブは大盛況で幕を閉じた。その様子を最後まで眺めていた井鷺は隣のユキノに尋ねた。テンブランクはどうだと。「藤谷直季は驚くほどいい」ユキノも彼らを気に入ったようだ。「ああ、彼はとても素敵だ」しかし井鷺の言葉を額面通りにユキノは受け取らなかった。意味深な井鷺の微笑みに「潰すつもり?」と尋ねる。「いや、自由に羽ばたいてもらう。、、今は、ね」
★ドキュメント(第2話)によると、健さんはライブの冒頭の朱音目線にこだわっていて、正しく原作通りで素晴らしかったな。最初はそれぞれが紹介と共にチャラリンと楽器を鳴らす感じだったみたいなんだけど、それを無くして、しかも第2話は朱音からみんなを見てる視線が原作のライブ通りで。原作では病み上がりの藤谷が倒れかかったりしてるのを高岡と坂本で支えて、楽しそうに抱き合いながら歌ったりして、それをドラム位置から移動できない朱音が、そこに加われなくて悔しいやら、でも楽しさもあって「負けねえぞ!」ってドラムを鳴らすから。あの朱音のドラムから始まるのかっこよかったな!で、7月31日配信後翌日にTENBLANKはアルバムを発売、配信していて、その中で中核を成す「Grass Heart」や「旋律と結晶」と同じくらいに冒頭のこの「MATRIX」が凄く好評みたいで、配信のダウンロード数とかに現れてました。かっこいいよね!本当に。ほかの楽曲もどれもかっこいいから、ドラマ版が大人気だった香港や台湾でもアルバムも1位に輝いたくらいで。もちろん日本でもBillboard Japanのhot albumでも1位獲得しました!本当に凄いことです!そして2ヶ月間もTOP10に君臨。なんて快挙なんだ!で、この初ライブのドキュメント(Document of GLASS HEART vol.2)も凄くいいんです。2曲目の「旋律と結晶」で朱音は健さんがドキュメントで発言している「発動する」を発揮するんだけど、「とにかく「ここの」朱音が肝だから。ここが成功したらドラマも成功だし、ここがダメなら普通のドラマ、朱音も普通で終わる」と。その健Pの朱音への指導が熱い熱い。またエキストラへの指導や始まりと終わりのあいさつ等なども、プロデューサーを超えた仕切りが本当に凄くて。監督や現場の助監督さん、音楽制作陣、脚本家会議、エキストラ指導。全部に深く関わってる様子が凄い。しかも柔軟でなところがまた良き。監督やスタッフと大人の喧嘩を繰り返したと言ってたけど、ドキュメントからも伝わる妥協のなさと、色んな意見に耳を傾ける寛容さが、新しく出会う健さんでかっこよいのだ。
朱音は通いだが、高岡や坂本は藤谷ハウスに住んでいる。朝朱音が藤谷ハウスに来ると当然高岡達のモーニングルーティーンに遭遇する。高岡尚の元追っかけである朱音はそんな場面に遭遇してはドギマギ。坂本は初めてのライブを終えて朱音には少し優しくなっていた。朱音の音に振り回されるのが好ましく無かったが、ライブを終えてみると意外と気持ち良かったのかもしれない。2人になった時に、何度か嫌な言葉を並べたことを朱音に謝りかけたその時、遮るように創作中藤谷が登場する。メモを片手に何かを唱えながら朱音や坂本達をすり抜けていく。「先生、3つくらい顔があるような」朱音の言葉に「音楽用と撮影用と人間用のマスクがあるかも」と説明する高岡。その後藤谷は3人にシングル配信が決まったことを告げた。「これはもう誰からも文句は言わせないし、つまり我々にとっても後には引けないってことなので、みなさんどうぞよろしくお願いします。ということで、レコーディングは3日後です」そう言ってくるりと背を向けた藤谷に3人は驚きの声を上げた。野音で歌った「旋律と結晶」をアレンジするらしい。時間のなさを高岡や坂本は嘆いたが、何より初めて藤谷とレコーディングする朱音を2人は少し案じた。それは藤谷も百も承知だ。でももうTENBLANKは動き出してしまった。そのスピードを緩める訳にはいかない。藤谷は朱音を送る道中、朱音の学校やその生活が変わるかもしれないと謝る。藤谷は「爆発的に」売れることを目指しているし確信して動いている。何故「急激に」「爆発的に」なのかはこの先明らかになる。途中商業ビルの大きな電工看板に櫻井ユキノの広告を見つけた朱音。いい声だと藤谷も応じた。「はい、曲もいいんですよね。プロデュース井鷺一大でしたっけ?」そう言って藤谷を見たが藤谷はぼうっと見上げたまま「朱音ちゃんもすぐにこんなになっちゃうよ」と小さく答えるだけだった。
★井鷺一大と櫻井ユキノとTENBLANK。そこにオーヴァークロームも引き込んで、TENBLANKの歩みは加速度的にスピードを上げていきます。藤谷の計算の中ではすでに引き返せないとこに来ていて。藤谷に残された時間も関係してます。いや、残された時間でまず病院行きましょ!!とグラスハートを1周し終えた人なら誰もが思うんだけど、それでも行かないということは、藤谷がいかに一分一秒をこのバンドに捧げているかに尽きると思う。即入院となれば、例え数ヶ月で戻って来れるとしても、TENBLANKが中途半端に終わってしまう。絶大な人気を誇る有名なバンドならファンは帰ってくるのを待つかもしれない。でも、駆け出しのバンドの休養を誰が待ってくれるだろうか。藤谷はこの時、無邪気な笑顔のこの女の子をそのブレイクの渦の中に連れていこうとしている自分に、恐らく少し躊躇していたかもしれない。健さんの芝居とその横顔は、そんな憂いを帯びてました。だから「朱音ちゃんもすぐにこんなになっちゃうよ」という台詞は、2周目には原作よりも少し重めに聴こえたな。あと、高岡や坂本はライブシーンも演奏シーンもかっこいいんだけど、普通の会話の高岡の物腰の柔らかさや坂本の少し何か言いたげな顔が抜群に素晴らしいんですよね。本当に上手い役者さんたちがあってドラマって説得力を増すんだな、と。こういう何気ない顔や台詞とかが本当は大事なんです。
レコーディングは高岡の想像通りすんなりとは進まなかった。これはいつものことだ。自分へのダメ出しも凄いが、特に朱音に藤谷はOKを出さなかった。同じ箇所の繰り返しで甲斐が朱音の疲労を心配して藤谷に助言するが、朱音は慌てて藤谷の元に駆け戻った。「大丈夫です!直すとことか駄目なとことか、もっと言ってください!」まだまだ自分は出来る。このバンドに賭ける思いは朱音も負けていない。もう戻る場所はないのだから。しかし健気な朱音に藤谷は辛辣だった。「じゃあさ、俺の知ってる朱音ちゃん連れて来てよ、ここに」静かに返す藤谷に朱音は別の部屋で1人考え込んでしまった。心配した坂本が飲み物を朱音に差し出し、隣に座って話し始めた。「真に受ける必要なんて無いよ、藤谷さんの言うことなんて。あんな人、自分の音楽で頭がいっぱいで人としては最低だから」冷めた横顔の坂本に朱音は驚いた。坂本のメンバーへの思いを聞くのは初めてで、しかも藤谷に対して辛辣すぎた。「坂本くん先生のこと嫌いなの?」「嫌いとかじゃなくて、敵」坂本は躊躇無く言い切った。「俺ずっと1人で音楽やってきてさ、打ち込みで曲作って、それネットに出して、それだけでも楽しかったんだ。余計な雑音入らないし、だからバンドなんて俺には向いてない。でも、藤谷さんが俺のこと誘ってきて、、」「それは坂本くんの音を先生が認めたってことだよね?」「でも、あの人、何でも1人で出来るんだよ。ベースだけじゃなくて、ギターも。鍵盤だって俺より上かも。だから、藤谷さんがバンドを組む理由が俺にはわからない」坂本はそう言うが、でも朱音は藤谷の思いを少しだけ知っている。「1人じゃ鳴らせない音がある、、、その音を求めてる。だから、高岡くんに会いに行って、坂本くんを見つけて、朱音ちゃんを探したんだよ?」あの時の藤谷の言葉が全てなはず。朱音はどれだけ藤谷がこのバンドに賭けているかを知っている。だからこそ、藤谷の望む音を叩きたい。「だけど、なんか倒したくなって。絶対倒してやると思って。だから、ここにいる」坂本は強い気持ちで迷いなくそう言い「つまり、西条だって倒してやったらいいじゃん」と続けた。お前も負けるなと坂本は言っているのだ。「それって励ましてくれてる?」「はぁ?いや、俺は俺の話を勝手にしてるだけだし」「坂本くんって優しいね」朱音がニッコリと笑った。「もうあんたのそういうバカポジティブなところ、ほんと無理」
★健さんのレコーディング風景が秀逸過ぎますね。このあとも何回か出てくるけど。終盤には病気で痩せこけた中でのレコーディングは壮絶でしたけどね。こういうシーンは実写ならではで。ライブもそうだけど、レコーディングの丁々発止な様子とか、目に映るもの、その声色、機器を操作する手先とか、目で受ける興奮がありますよね。バンドとしてのリアリティはライブだけではなく、音作りやレコーディングなんかも大事なわけです。健さんレコーディング風景にもこだわったんだと思うな。
あと坂本が藤谷を「絶対倒してやると思って。だから、ここにいる」って言ってるの、同じように原作でも朱音を励ます場面で「叩きのめしたい」って言ってるんだよね。でもドラマ版の坂本はきっと原作ほどこれという理由があって嫌っているというか毛嫌いしてる訳じゃなくて。というのも、原作では坂本は数あるデモテープから藤谷にその存在を見つけ出されて、そのデモテープを藤谷がかっこよく編曲しちゃって、挑戦状みたいにして坂本に送り付けてきて「バンドやらないか」って誘ったくだりがあって余計火花散らしてる感あったから。この「曲を勝手に編曲事件」はドラマ版の4話に違う形で登場します。
「テンブランク発見!」ユキノが突然TENBLANKのレコーディングスタジオに現れた。映像や広告の中にいた歌姫が自分の前に簡単に現れる。こうして徐々に藤谷直季の業界での地位やその顔の広さを目の当たりにしていく朱音。他のメンバーのいる前で藤谷の顔に自分の顔を5cmまで近づけて「才能あるイケメンって、ずるくてお気に入り」とユキノが藤谷を挑発する。いや、それとも誘惑か。藤谷は表情1つ変えない。井鷺一大も続いて現れ、テンブランクのライブを2人で見に行ったことを告げる。「歴史の目撃者になれる、またと無いチャンスだからね。テンブランクはこれからのロックシーンを根底からひっくり返すことになる」そう言って井鷺は嬉しそうに藤谷を見つめた。「イチダイさんも今日はこのスタジオ?」藤谷は顔色を曇らせていた。「あぁ、ユキノのアルバムを製作中でね。でも、表題曲がいまいちハマらなくてさ」「でね、テンブランクの藤谷直季とフューチャリングするのもいいかなって」嬉しそうにユキノが言うのを「俺、そんな話聞いてないけど」疎ましそうに藤谷が返す。「あぁ、まだ頼んでないから」と井鷺は笑顔だ。「でも君ならね、きっと受けてくれると思う。藤谷直季のことなら、僕には手に取るようにわかるんだ」井鷺のギラついた視線から、藤谷は先に視線を逸らしてしまった。井鷺たちが立ち去ったのを確認して、甲斐は藤谷に近寄った。「ねぇ、絶対ダメよ、、井鷺に深入りしたらまた、、」甲斐の言葉を藤谷が遮る。「甲斐。ありがとね、いつも。大丈夫だから」
★ユキノが登場する時は、特別な音楽が流れますね。キラキラと存在感を醸し出してますが、これ特に朱音目線のユキノなんですよね。視聴者に、というよりも。それだけ、ユキノが朱音にとって特別な存在なのだという演出なんだと思います。ちょこちょこ原作との違い書いてますが、ドラマ版は坂本の設定変更(というか家族とかバックボーンの削除)、桐哉の設定改変(こちらも変えたというよりはいくつかのエピソードが減らされたのと鮎見が登場しなかった。あと6話の刺される所の内容が変わった)に加え、もちろんユキノや井鷺も原作の設定とは色々変わってるんですね。だけど最初に言っておきますが、全10話で改変を経て、より見やすくなったり、実写化で見応えのある演出になったり、オリジナル部分が秀逸過ぎたりと、そこは全く問題なかったと思ってますし、もちろん若木先生も納得の改変なわけだから、配信前や配信後の若木先生の力強いコメントが届けられたわけで。そしてユキノの井鷺との関係は、原作では井鷺の藤谷への嫌がらせでユキノを取り込むのを阻止するために、藤谷が率先してユキノを手がけて行くんだけど、本作ではユキノは最初から井鷺に取り込まれてる。どちらにしてもユキノは藤谷の才能に惚れ込んで、TENBLANKから藤谷を独り占めしたくなる。そして、どちらにしてもTENBLANKのことは好きで、朱音の事も好きで、複雑な想いを抱えたまま終盤まで向かい、終盤原作ではとんでもない策略をユキノ1人がTENBLANKに仕掛けてきて、最終的にTENBLANKが解散に追い込まれてしまう。ドラマ版では終盤ユキノがTENBLANKを救う。どっちの話も衝撃的でした。そしてどっちの話も私は好きです。ただ原作でユキノがTENBLANKに仕掛けてきた罠によってTENBLANKが危機に追い込まれた時、あのライブ後の居酒屋で朱音が藤谷にキレるんですよね。あそこが原作では1番泣いたし、1番悲しくて苦しかったので、本当に原作も読んでもらいたいんですよ。まあでも解散するのはきっかけはユキノだけど、あれは4人で出した答えだからね。
それからも藤谷の朱音への厳しい特訓は続いた。「もう1回、、」「はいっ」「違う、そんな音、いらない」「はい」「もう1回」スタジオだけではなく、朱音は帰宅後も部屋で叩き続けた。藤谷が納得いかないのは朱音のドラムだけでは無い。自分の曲作りも煮詰まっていた。スタジオで1人激しく鍵盤を叩き続ける藤谷。朱音、甲斐、坂本、高岡も見守っていたが、勢いのあまり鍵盤を床に叩き落としてなお、藤谷はその激しさを止めることは無かった。狂気じみた姿を見慣れている高岡も流石に危険を感じて中に入っていく。そして力付くで藤谷を鍵盤から引き離した。脇を抱えられながらぼうっと高岡を見上げた藤谷。「あれ、、俺、どっかいっちゃってた?」「火星よりは手前でとどめたんじゃない」坂本たちもスタジオの中に足を踏み入れた。その場が静まり返った。「やめようよ、こういうの。よくないって!」坂本が悲しそうに進言する。「今のままやったってこのメンバーでプレーしたら自然と音が変わってくるんじゃないの?完成したものを無理矢理直そうとするから感覚がおかしくなるんだよ。なんでそんな簡単なことがわかんないの!?」「やだ、、」うつむいたまま藤谷が呟いた。坂本も譲らない。「何駄々こねてんすか。これであんたがぶっ壊れたら元も子もないでしょ!」「だってこれで歌いたくないんだ俺はっ!!」藤谷が叫んだ。そして息を切らしながら力なく続けた。「自分で満足できないもの、、人に聴かせて、、誰が好きになってくれんの、、俺達の音、、テンブランクの曲、、誰が愛してくれんの、、」藤谷が曲作りにおいて一切の妥協を許さないのは付き合いの長い高岡が1番理解していた。その信念で素晴らしい楽曲が出来上がる場面にも遭遇して来た。しかし、今はそのまま好きにはさせておけない。今はテンブランクというバンドのメンバーの一人だから。その1人の暴走を止めるのは年長者である自分の役目だった。高岡が静かに藤谷を諭す。「一つだけわかっといてほしいんだけどさ、先生。あんたが作業伸ばせば伸ばしただけ、しわ寄せ全部こっちにくんだよ。それなのに若い2人は文句の一つも言わず頑張ってるよね。心配までしてくれてさ。そういう気持ち、全部放り出したとしても、絶対やる価値があるって本気でそう思えるなら、、プライドにかけてやり遂げればいいよけ。けど、もし今のままの曲やったって誰もあんたのこと責めたりしないよ」藤谷はそれでも譲らなかった。「俺、、ちゃんと歌いたいから、、絶対作れるから、、時間ください、、ごめんなさい」
★藤谷がキーボードを壊すシーン、ここでは「旋律と結晶」に苦戦しているけど、原作ではZ-OUTとの最初のTENBLANKとしてのライブで3曲作るうちの「グラスハート」(藤谷が10代にこしらえて井鷺一大に奪われてしまった作品として出てくる)をもう一度リメイクするのに苦戦して2回もキーボードを壊してしまったってことで。2回目の後は失踪してしまって(笑)、ずぶ濡れで帰って来て(ドラマ版では朱音がさした傘から「旋律と結晶」が誕生した)、熱出しながらライブを成功させた。原作の内容が確かにドラマ版では台詞も行動も再現はされるけど、ちょっとアチコチ移動してることが確かに多いです。それはどうなんだ?って戸惑ってる原作ファンの方もSNSで見かけたなぁ(その方はドラマ版は一応肯定派でしたけど)。でもとにかく藤谷が壊れてしまって、高岡達が駆け付けて、高岡や坂本に叱られる台詞はほぼ原作通りで。坂本に怒られた藤谷が「だってこれで歌いたくないんだ俺はっ!!」って抵抗したけど、その言い方とか子供っぽくてすごい良かったな。駄々こね感が。天才の融通の利かさな感も。でも「自分で満足できないもの、人に聴かせて、誰が好きになってくれんの、俺達の音、ブランクの曲、誰が愛してくれんの」ていうのは恐らく原作になくて、オリジナルかな。すごいドラマ版の藤谷らしいよね。そのあとの高岡の「若い2人は文句も言わずに」ってのが原作にもあって、高岡らしくて好きなのよね。本当に町田くんは原作から抜けでたような声のトーンが素晴らしくて、落ち着いていて。TENBLANKの要ですからね。その揺るぎない安心感は。そして「俺ちゃんと歌いたいから、絶対作れるから、時間ください。ごめんなさい」っていう原作通りのセリフに繋がって。この短い時間で藤谷の楽曲制作へのこだわりや自己を追い込んでいく苛烈さを描写しなくちゃいけなかったから、ここは健さんのお芝居の力技だったなと思いました。そして町田くんと志尊くんの地味だけどキャラクターそのまんまって位の芝居の数々がね。ほんと、これは原作読まないと伝わらないから。ほんと、凄いんだから。
■佐藤健 俺どっか行っちゃってた?
https://youtu.be/AcEvQAgbmSE?si=jxf-Mlb2pD3Oyu7s
屋上で1人藤谷は佇んでいた。「僕は君の音に興味がある」自分の音をいつも喜んでくれた。自分もそうだった。「いい曲だね、これ。イチダイさん」だけど終わりは来た。「藤谷!藤谷聞いてくれ!」「待ってと言ってるだろうっ!!」「こんな所いたら風邪ひきますよ」朱音が心配してやって来た。乱れていた心を落ち着かせることが出来たのか、藤谷はやっと穏やかな顔を朱音に向けた。「会いたくない人に会っちゃったからかな、、」「井鷺さん、ですか?」自分の音楽を評価してくれた人だった。一緒に音楽をやるのが楽しかった。でも、、、「あの人をクズにしちゃったのは俺だから」朱音には藤谷の言葉の意味は分からなかった。でも藤谷の今の一言で2人の間柄が少し分かった気がした。「ごめんね、俺みんなに思いやり足りてなかったよね。ごめんね」高岡の言葉が思い出された。若い2人は頑張ってる。心配までして。朱音はこれ以上藤谷が自分のことで悲しむのを見たくはなかった。必死に言葉を繋いだ。「あの、わたしは全然大丈夫っていうか。むしろ私が下手なのが悪いんです。それに、周りの人が藤谷さんのせいで苦労するのはもう普通っていうか。当たり前だけど。でも、藤谷さんの苦労を他の人が引き受けるわけにはいかないから。誰も代わってあげられないから!」朱音の心が胸に沁みる。また俺のこと心配してる。でも藤谷は嬉しかった。「うん、、、俺さ、人に酷いことを沢山してるし自覚もあるんだけど、一つだけはっきりしてるのは、にも関わらず俺が幸せなことなんだよね。俺のせいで不幸になる人はもちろんいるけど、俺の作る音は、少なくともそれと同じ数か、それ以上の人間を幸せにできる」自分を奮い立たせるように藤谷は話した。「だから、いいよね?」そして朱音に言うのだ。「もちろん、俺は朱音ちゃんのことも幸せにするからね」そしてもう一度「絶対に幸せにするからね」と言い残して藤谷は屋上を去っていった。
★私、原作で好きなシーンいくつもあるんだけど、例えばこの後に出てくる「横断歩道ハグ」とここに出てきた「幸せにするからね」。これはもう、ほんとうにね、大好きなんです。はやり、原作もドラマ版もこの作品が音楽ドラマと銘打ちながらも、やはり根底にあるのは人の想い。音楽への想いと同等か、それ以上かもしれない大切な人への想い。それを象徴しているのが「幸せにするからね」と「死なないでください」なんですよね。ただ是非原作も読んで頂きたいんですよね。この「幸せにするからね」は、原作では井鷺一大が勝手に(甲斐の陰謀で)スタジオに見学に来て、色々な想いか募る中で高岡と藤谷2人のレコーディングを終えて、甲斐との経緯なんかを朱音に語ったりした後に出た台詞なんですね。ドラマ版で甲斐のことがクローズアップされるのは3話4話で、前編通してドラマ版では藤谷から朱音に甲斐のことを話すシーンはなかったんだけど、原作ではその辺の自分の落ち度みたいなものを振り返り、だからこそちゃんとしなきゃと思う自分を「変だよね、好きなことやってるのに、余計なものがたくさんあるよね」って呟いたのを、でも私は先生のそういう真面目によろよろしてるとこも好きだからと朱音が返すとこ、好きで。そして原作では「わたしは全然大丈夫っていうか。むしろ私が下手なのが悪いんです」とかのくだりは朱音の心の声になってた。それを藤谷を励ますためにドラマ版ではキチンと台詞にしてる。削った部分も今後の展開で使われたりして、例え台詞があちこちに飛んで、逆にどうなんだと思う方がいたとしても、恐らく若木先生は、この限られた時間で、朱音や藤谷の気持ちや言葉が、使う場面は変わっても、その想いをどうにかこの作品で日の目を見ようとする努力と熱量を感じて、結果許して下さったのかな、と思ったりしてます。健Pの背中を押してくれたのかな、と。原作では「絶対幸せにするからね」と言われた朱音はこの瞬間に「この人が死んだらすごくいやだな」て思うんですね。世界の終わりが来ても生き残っててくれなくちゃ困ると。ジョン・レノンの再来になんてならなくていいからと。原作の藤谷は幸せにするからねのあと、明るく最後に「おいでよ朱音ちゃん、ここに置いてっちゃうよ?」って朱音を呼ぶんです。これも明るくて好きなんだけど、ドラマ版の藤谷は余韻を残したまま立ち去ってしまうので、ちょっとシリアスというかロマンチックな感じでしたね。
高岡は藤谷と朱音を送る車中でレコーディング前に藤谷が井鷺と会っていたことを朱音から聞く。後ろで藤谷は疲れて眠りこけている。「できれば会わせたくなかったんだけど」高岡も井鷺と藤谷との確執は知っているようだ。「また違う顔でした、藤谷さん」井鷺が去った後の藤谷を思い出して朱音は呟いた。「藤谷にはいろんな顔があるけど、根っこは一つだと思うよ?」高岡は案じる朱音にそう話した。
高岡に送り届けられたことをモモコは朱音に茶化すが、朱音の表情は暗い。「幸せっていうのに、寂しそうだった、藤谷さん、、すごくギリギリな、それこそ、1歩間違えれば壊れそうなところで勝負してるっていうか」結成して間もないバンドだ。天才藤谷直季達と色々な試行錯誤の最中だろうと、モモコも朱音に寄り添う。「彼はそんなイメージあるかもね。突然消えちゃうような、、」自分ではない人物からの言葉に急に実感を増す朱音。「やめてっ!消えちゃうなんて、、先生が」そして「音楽が怖い」と呟く朱音をモモコが励ます。「そういう時はさ、とにかく、叩いて叩いて叩きまくるしかないよ!!」そしてあかねは叩き続けた。朝から夜まで。最後まで諦めない。藤谷に負けたくなかった。
その日スタジオに行くとすでに先客があった。あの桐哉がひとりピアノを弾いている。綺麗なメロディだ。朱音の存在に気がついた桐哉は「よう、野望娘」と声をかける。「野音ではお世話になりました」「そうだな、世話したわ、、」「オーヴァークロームレコーディングですか?」すると桐哉が突然手をやめずに「叩けよ」と朱音を挑発した。「叩けって、ほらあっ!」有無を言わせないその圧に、朱音はドラムを叩き始めた。桐哉の鳴らす音に合わせるということだろうか。朱音なりにリズムを刻むが、しばらくして突然桐哉は激しく鍵盤を叩いて演奏をやめた。「お前って藤谷に惚れてんの」唐突な桐哉の投げかけに慌てる朱音「な、なんでいきなりっ!」「すっげえ藤谷っぽい叩き方してるから1回ぐらいヤってるのかと思った」カッとなる朱音「私は純粋に!音楽を!」「純粋?」桐哉は畳み掛ける。「お前、俺に啖呵切ったの忘れてねえよな、野望娘。お前、オーヴァークロームに喧嘩売っといて、自分のと夫は暑さに忘れてちゃ世話ないぜ」そこまで言われてようやく朱音はここ数日の自分の不甲斐なさを悟る。桐哉は見透かしていた。全てを。藤谷が寂しそうに、悔しそうに言った台詞を思い出す。「俺の知ってる朱音ちゃん連れてきてよ、ここに、、、」桐哉は自分のドラムの音に、藤谷に近づこうと染まろうとするのを見透かしたのだ。「だから先に忠告してやったろ。藤谷に近づくっていうのは、藤谷を壊すか自分が壊れるかのどっちかなんだよ、、、諦めろ!」「諦めません、、」食い下がる朱音。諦めない。諦めてなるものか。桐哉も朱音が簡単に諦めないのを知って煽っている。あのフェスで聴いた朱音の音がまだ耳に残ってる。「ついてこれるなら叩けよ」桐哉が再びセッションを開始する。「ただし!藤谷くせえ音を出したら殺す」朱音は桐哉のピアノに、今度こそ自分らしさをぶつけた。桐哉の音に負けないようにひたすら叩きつける。「下手くそ!」と桐哉の声が飛ぶ。どちらの音も段々と激しさを増していく。しばらくして「リズムがよれた」と言って桐哉は鍵盤から手を離した。「腹減った、奢れよ」と告げて1人帰っていく。朱音も慌てて後を追った。
★ここのセッション、最高に良かったよね。優ちゃんも菅田くんもマジ演奏なんで(音源は分からないけど)、菅田くんもここのシーンのピアノを物凄く練習されたとかで。Document of GLASS HEART vol.5「シトラス」でも大変だったと語られてます。このシーンはTENBLANKもオーヴァークロームも使うレコーディングスタジオでたまたま居合わせた桐哉と朱音がセッションをすることになってますが、原作では朱音がオーヴァークロームのスタジオ兼事務所みたいな地下室?でセッションしたんじゃなかったかな。いや、その前に楽器屋だ、桐哉の知り合いの楽器屋で朱音と桐哉で長時間セッションして、意気投合してそのままラーメン屋になだれ込んで、オーヴァークロームのバンド名の由来なんかを教えてもらったりしたんじゃなかったかな。オーヴァークロームって正式名称はもっと長いんだけど、それは明かされないというか、無い設定になったのかな。まあ、原作には朱音と桐哉のあれこれがもっと10倍くらいあったので、それでもうんとエピソード減らされても原作にあった桐哉と朱音の関係性とか、逆に良く表現出来たなって感心する。やはりそれが出来たのは「音楽」の力だなって思うんだよね。このセッションの菅田くんと優ちゃんの本気の演奏のかっこよさで、藤谷を挟んだ2人の繋がりが清々しく浮かび上がったんだよね。健さんの信じる「音楽の力」が、言葉や背景を補ったんだと思う。そういうとても重要なシーンでした。
朱音が美味しそうなラーメンを前に息を飲む。いざ食べようとするのを「ラーメンに玉ねぎ入れねえなんて冒涜だろ」と向かいの席の桐哉がボヤく。言われるがままにラーメンに玉ねぎのみじん切りををひとさじ。「藤谷が1回音楽やめた理由知ってっか」桐哉がふと呟いた。「先生が音楽やめたことなんてあるんですか」「昔一緒にやってた奴に曲盗まれてな、、、でもその取ったやつの方が、自分のセンスも音楽性もズタボロにされちまってな。ざまぁねえな」桐哉が嘲笑する。井鷺一大の話を朱音は知らない。「天才の音は凡人を不幸にする」桐哉が呟いた。「あれ、、、」桐哉は店先に何かを見つけて立ち上がった。そのまま店の外へ歩いていく。朱音も慌てて外に出ると、そこには藤谷がいた。「よお、天才」桐哉は藤谷をそう呼んだ。振り返って2人を見る藤谷。「こんな偶然てあるんだ、面白いよね」
「井鷺一大と組むんだって?」恐らく、ラーメン屋に戻って慌てて食べ終えて、2人と藤谷は並んで歩いている(そのまんま残して来ないよね?ちょっと気になった笑)。桐哉は怒っていた。会ったら蔑んでやろうと、問い詰めてやろうと思っていたのだろう。「お前、プライドないの?売れるためならなんだってするって?」「俺は自分の考えてることがあってそれをうまくやりたいだけだよ」藤谷は静かに答えた。「事務所も甲斐もすっ飛ばして藤谷直季の巨大なコネ利用してんだから、ふざけてるよな」桐哉は更に煽るように吐き捨てるが、藤谷は穏やかなトーンのまま「どうせ何やったって俺の名前が真っ白に消えてくれる訳じゃないんだから、だったらドロドロに汚れるくらい利用した方がマシだよ」そう自分を皮肉るように答えた。藤谷は桐哉が何に怒っているのか分かっている。でも引き返せない。「随分吠えるじゃねーか。そんな死にそうなツラしながらよ。うまくやってるつもりが命削って言うんじゃねぇの?」それは桐哉の鋭い忠告だった。藤谷は小さく笑うことしか出来なかった。その態度に桐哉はキレてしまった。「お前本気で死んじまえば?!そんなに自分の歌が大事なんやったら、書けるだけ名曲書いてさっさと死んじまえよ。そしたら間違いなく伝説の天才になれるぜ」「ジョンレノンみたいに?そういう手もあるよね、、、」無論朱音には2人の会話が理解出来ない。井鷺一大と藤谷が組むことを桐哉が何故ここまで嫌悪するのかも、それに汚れるくらい利用すると言い放つ藤谷の真意も、藤谷を案じながら死んでしまえと言ってしまう桐哉の真意も。そして最後に藤谷がジョン・レノンみたいにと答えた時に恐ろしさを覚えて朱音は凍りついた。車のクラクションが身体中に鳴り響いた。「朱音ちゃん?」藤谷が朱音を案じて声をかけた。「私、用事があるんで帰ります、、ごめんなさい!」朱音は2人から逃げるようにその場を後にして歩き去った。朱音は2人のやり取りが怖かった。業界人の言葉の応酬に加え、前から疑問に思っていた2人の関係。桐哉の藤谷への憎しみと執着。それを全部受け止めつつ、悲哀を隠さない藤谷。そして「死」という言葉。きっと何もかもに終わりがあって、命も、TENBLANKも。いつか、終わる。「朱音ちゃん、ちょっと待って!」横断歩道のど真ん中で藤谷は朱音を捕まえた。息を切らして藤谷がコートのポケットからデータを取り出す。「これ、聞いておいて。ベース、取り直して、坂本くんに打ち込み入れといてもらったから、、、」朱音にとっては宝物のようなTENBLANKの音。自分の音。でも、この時ばかりは嬉しさが湧いてこなかった。「朱音ちゃん?」「私は先生の音で叩いちゃダメなんですか、、」せっかくのTENBLANKの音も、自分が鳴らせなければ意味が無い。虚しいだけだった。「このままじゃ、先生の求める音にならないですか!?」朱音の真っ直ぐな気持ちが藤谷の心を揺らした。静かに朱音に問いかける。「朱音ちゃんはさ、例えば。、、例えば、明日俺が何かの間違いで死んだとして、TENBLANKがなくなったら、もう一生ドラムは叩かないで生きるの?」それは、朱音が自分(藤谷)に惑わされずに朱音の音を大事にして欲しい気持ちと、もし自分がいなくなっても「藤谷直季」や「TENBLANK」とは関係なく朱音の音を失って欲しくない気持ちが吐露させたものだった。それほど、藤谷にとっても朱音の音はもはや宝物なのだ。藤谷は小さく笑って「ごめんね、例え話、また明日」そう言って朱音に背を向けた。朱音も背を向けて歩き出す。先生がいなくなる、、TENBLANKがなくなる、、藤谷の言葉が木霊する。ママの言葉も思い起こされた。「彼はそんなイメージあるかもねー。突然消えちゃうような」歩道を渡りきった時ハッと後ろを振り向くと、歩道の向こうから藤谷がこちらを見ていた。その姿を見た時、朱音は信号の色を気にせずに走り出してしまった。ちょうど赤に変わるところで、朱音が渡りきる前に車は走り出した。クラクションが鳴り響く中、藤谷は慌てて朱音の手を引っ張って抱きしめた。その背中を車が駆け抜けていった。ギリギリのところで。朱音は藤谷に叫んだ「叩くよ!先生がいなくなっても!テンブランクがなくなっても!私だけの音、絶対つかんで、叩いて見せますよ!!」藤谷が欲しかった答えを朱音は口にしていた。「だけど、、ジョンレノンみたいにいなくならないでください」
そして再度レコーディング。すっかり自分の音を取り戻した朱音は気持ちよく叩きまくった。ガラスを挟んで「うん。これ使わせてもらうね」満足気に藤谷がOKを出し、高岡と坂本も胸を撫で下ろした。後日朱音のスマートフォンに藤谷から配信第1弾「旋律と結晶」が無事に届いた。
★私が原作で好きなシーン5つ選ぶとしたら、①横断歩道で赤で走ってくる朱音と藤谷の「死なないでください!!」は絶対入るんですね。あとは②「朱音も幸せにするからね」と。てことはドラマ版第2話凄い!!あとは③ドラマ版では削除された終盤の居酒屋で朱音が藤谷にキレるシーンと(1番好きだった)、更にこれもドラマ版では削除された④終盤藤谷と朱音が最後に(泣)手を繋いで心の中で別れを告げるシーン(号泣!)と、あとは⑤藤谷と高岡のバンド加入までの諸々。2人が駅のホームや宿泊するホテルとかで藤谷を誘ったり高岡を誘ったりする一連のくだり(ドラマ版ではまた全然違う形で高岡と藤谷のオリジナルがあって、これも本当に良かった!!)。だから、あ〜!横断歩道&赤信号やってくれてありがとう!!って思ったし、しかも、原作にはなかった「俺が何かの間違いで死んだとして、TENBLANKがなくなったら、もう一生ドラムは叩かないで生きるの?」からの「叩くよ!先生がいなくなっても!テンブランクがなくなっても!私だけの音、絶対つかんで、叩いて見せますよ!!」が最高に素晴らしいオリジナルセリフだったと思うんですね。この「俺が死んだとして」というのは、ドラマ版の終盤に藤谷の病気が判明することの伏線で、このTENBLANKを結成する時に藤谷は死も覚悟していて、でも自分の音に執着する朱音を心配する気持ちがそう言わせたんだろうけど、そこで朱音が「叩いて見せますよ!」って藤谷にアンサーする所が泣けるんですよね。ほんとに、バンドに恋愛要らないとかどうのこうの批判もありましたけど、上っ面しか見てないとそう映るんですねぇ。このドラマの本質は紛れもなく「音楽」なんですよね。藤谷が死んでも、大好きなTENBLANKが無くなっても、私は叩くんだ、自分の音を鳴らすんだ、という朱音の覚悟と、藤谷の自分の死をも厭わない音楽やTENBLANKへの愛がこのドラマの本筋なんです。だからバンドものに恋愛要らないと巷でチラホラ見た感想を疑問に思うんですよね。音楽を作る。皆で音楽を奏でる。それは推しバンドがある人にとっては、とても崇高なことであると思うんですね。そこに恋愛は要らんやろという気持ちも分かる。でも、やはり音楽は「人間」が生み出すものだから。人間はロボットじゃない。音楽マシーンじゃない。ある意味、どんな職業よりも孤独だったり、ある人は不器用だったり。だから、崇高な「推し」にファンが理想像を求め過ぎるのもどうなのかなと思ったり。ましてや、このドラマ版の藤谷と朱音は、3年前のフェスで衝撃的な出会いを経て、求め続けたお互いの音に再びめぐり逢い、強烈に惹かれてしまったとしても、責められることだと思えない。所謂「バンドの恋愛もの」という象徴的なテーマに対する嫌悪みたいなのがあるかもしれないけど、グラスハートはそんなベタな憂慮とは一線を画す作品だと言えると思う。少なくとも最後の10話のライブまで見てもらえれば、そう思って貰えるはずなんですけどね。あと原作は坂本と朱音と藤谷の三角関係がTENBLANKの音楽的価値を盛り上げて行くところがあって、それを3人が理解しながら音楽活動を進めていて(藤谷や坂本から生まれる音楽に影響を及ぼす的な)そこがまた凄く深いんですよねぇ。心理描写も細かくて、ギュンギュンこころにささりました。小説ならではですよね。
あとね、ざらめさんの歌声がまたギュンギュンくるタイミングで降りて来ましたね!健さんがやりたかったこと。確実に沢山の人の心を動かしてます。これ、YOASOBIさんのイクラさんの声でももちろん素敵なんだけど、ざらめさんだから余計に切ないのかな。そんな気がします。朱音が振り向いた時、藤谷がこっちを向いていて、その立ち姿が凄く情緒が溢れていて好きなんだな。健さん、ストーリーが進む事に痩せていくんだけど、元々普段より体重も落として藤谷直季に挑んでいて。コートを羽織っていてもシュッとした細すぎる立ち姿が、なんか藤谷らしくて。余計なもの全部研ぎ澄まして、音、だけの人になってる、みたいな。海外の方にもウケたのは、やはり台詞のないシーンでも、立ち姿や目線や仕草で藤谷直季というカリスマ音楽家を演じきれていたからなんだろうなと思います。説得力を言葉で説明するのではなく「醸し出す」って、とっても大事なことですもんね。
■第2話「旋律と結晶」メイキング
Document of GLASS HEART ep.2
■Official lyric video『旋律と結晶』
https://youtu.be/CDJzPVWdSKA?si=OQru-IE1shkiFf9-
■挿入歌
TENBLANK『MATRIX』
作詞/清 竜人、作曲/大濱健悟
TENBLANK『旋律と結晶』
作詞/野田洋次郎、作曲/飛内将大
ざらめcoversong
YOASOBI『アンコール』より
