昨年10月発行の内館牧子さんの作品です。
「老害の人」
内館さんの老後小説3部作とでも言うのか
「終わった人」「すぐ死ぬんだから」「今度生まれたら」に続く4作目は、
85歳の父親の老害ぶりに手を焼く戸山明代(54歳)が主人公です。
花札、双六、カルタやトランプなどの家庭用ゲームを扱う雀躍堂の2代目である父・戸山福太郎は、
10年前に明代の夫である純市に社長の座を譲ってからは、
母とふたりでのんびり余生を送るつもりだったのが、
5年前に母が病で亡くなってから会社に顔を出す事が増え出した。
家庭でも娘や娘婿に大声で自慢話を繰り返す福太郎だが、
会社に来るとお茶を出した女子社員を皮切りに35人の社員たちの机の周りを歩きながら、
自分の過去の経営手腕とその成功例を自慢しまくり、
立派な老害ぶりを発揮しているおじいちゃんです。
『老害には色々な種類があるが、昔の自慢話はその典型でおそらく第1位だろう。
第2位は世代交代に抗うで、いつまでも現役でいたがり若い者にポジションを譲らない』
福太郎には老人仲間が4人もいて、病気自慢(大病を克服した話)や、
体力と趣味(俳句や撮り鉄に出掛ける元気さ)自慢の夫婦、
『こんなに食べられない』『早くお迎えが来てほしい』と繰り返し、周りにかまってほしい老女。と、
5人で集まると人の話は全く聞かず、自分のパートをひたすら奏でる老害クインテットが始まるのです。
54歳の明代はまだまだ先の話と思いながら、
友人に孫が生まれてから彼女の孫自慢に辟易してしまい(孫自慢の老害)
自分はこうならないぞ!と決意します。
いつもはサクサク読み進める内館作品なのですが、
老害クインテットの辺りから読むのが苦痛になりました。
特に『かまってちゃん』のおばあちゃんは、
母(実母&義母)も含めて何人も見ているし、後で仲間に加わる、
『ぼっちランチのクレーマーばあちゃん』もよくいるタイプなので読むのが辛い。
中盤で、新規の取引先相手に余計な発言をして契約が白紙になってしまい、
みんなに迷惑をかけたのに平気な顔の父親に対して
明代が我慢の限界から『もう二度と会社に行かないで!!』と言います。
『トップに居座り若い人に譲らない老人、しがみつく老人は迷惑なの!
挙げ句に下らない説教話に持っていくから老害と言われるのよ』
よくぞ言ってくれました。これは実の娘だから言えるのでしょう。
そして反論する福太郎の言葉にも説得力があります。
『俺たち老人は先の戦争で仲間や家族を失い、焼け野原の中から立ち上がってきた。
食うものも食わず、体をいじめ抜いて働いて今の日本を造ったんだ』
『年取った人間はそんなに悪いのか、そんなに邪魔か?どうしてほしいのかはっきり言ってくれ』
頭では分かっていても、言葉にして言われると明代も何も返せません。
物語としては、
明代の長女・梨子がいつの間にか結婚して子供を出産していたり、
大学駅伝の選手を目指していた高校生の長男・透が農家に丁稚奉公したいと言い出したり、
ちょっと現実的ではない(個人的な感想です)展開に進んで行きますが、
『高齢者にとって大切なのは、きょういく(今日行く)ときょうよう(今日用)』
という言葉が胸に刺さりました。
母を見ていても『今日は病院』『明日は美容院』と予定がある事に嬉しそうでしたから…
見守る家族も、尊敬といたわりが欠かせませんね。
私も周りの若い人に迷惑や負担をかけないようにキチンと老いを認め、
興味あるものに臆せず挑戦して行く立派な高齢者になりたいなと思いました。
余談ですが、
福太郎が老害クインテットのメンバーと始めたサークルの名称が『若鮎サロン』で
お揃いのTシャツを着ている表紙のピンク色があまりに目立つので、
電車で読むときはカバーを掛けました(^_^;)
これは私の持論で、友人たちからは『決めつけるな』と言われるのですが、
老害を撒き散らす人のイメージ(白髪頭で中肉中背のメガネ老人)がドンピシャです。笑