「オオカミが来るぞ~」と叫ぶ少年を、
私は無視する事が出来なかった。

だってもしかしたら、
本当にオオカミが来るかもしれないと思ったから。

「オオカミが来るぞ~」と少年が叫ぶ度に、
私はドキドキしながら身構えて、
ヤリやテッポウや、果てには核兵器まで用意しようとした。

そして結局、来なかったオオカミに少年が
「来なくて良かったね」と微笑むと、
「そうか、来なくて良かったんだ、良かったね。」と
少年と手を取り合って喜んだりもしたのだった。

そんな少年を、私は好きだったし、
少年が微笑んでくれる姿が嬉しかったりもしていた。







でも、
真実を
知らされた。








少年は、私の隣人には、
「ライオンが来るぞ~」と、言っていたらしい。

別にまあ、オオカミでもライオンでも良いのだが、
何だか騙された様な気がしたよ。

ちょっと淋しくて、かなり悲しい。






騙すつもりはなかったんだろうとは思うのだけれど、
真面目にとりあった私の時間は返っては来ない。

それでも、まあ、もしかしたら、
少年の孤独を、少しでも解消したのかなあ?と思えば、
それはそれで良いのかもしれないけれど・・・。





やっぱりね、
他人の不安につけこんじゃあ、
いけないよ、と思う






所行がバレたオオカミ少年は、最近はまた別の場所で、
違う「ウソ話」をしているらしい。
それを聞いた私は、何だかとても複雑な気持で、

どうしてそんな「ウソ話」を続けるのか、
そんな「ウソ話」をしてまで誰かに振り向いて欲しいのか、

もう一度会って問いただしたい気持はやまやまだけれど、
私にはもう、そこまでの情熱が残っていないのだよ、
オオカミ君。





例えばモンゴルかなんかの砂漠の山に大きな穴でも掘って、
「王様の耳はロバの耳~!!」と叫んだら、
どんなにか気分が良いだろうなあ、とは思うけどね。





ああ、何だかまた、愚痴ばかり。
読んでくれた君には申し訳のない話だね。
でもどうか、これだけは覚えていて欲しい。





偽善者には気をつけて!