私はこの日は一人で病院に行くために、バスを待っていた。有給休暇や公休が終わり息子は会社にいった。
父とおやつに食べようと、バナナと菓子パンを持っていた。
今日あたりシャワー浴かもしれないな、なんて思いながら、久々に明るい気持ちになっていた。が、バスが来ない。もともと観光シーズンは予定時刻よりは遅れるが、朝の9時前に遅れることはあまりなく、周りの客もイラついていた。15分ほど遅れてバスに乗った。病院近くの交差点で交通事故があったらしい。
私は、昨日尿の管から解放され自由のきくパジャマになった父のことに想いをはせた。まさか、徘徊して病院から脱出し交通事故にあったのでは?と、取り越し苦労をしてしまった。
以前、知り合いのお父様が、度々にげ出し家に30分かけて歩いてきたと言う話を聞いたことがあった。バスが後二駅ほどで病院に着く時に、突然携帯電話がなった。
見ると病院からで、小さな声で、今バスの中で、もう直ぐ病院に着くことを、身をかがめながら、伝えた。
胸騒ぎがしたが、看護婦の声に緊急性があまりなかったので、交通事故ではないと思えた。バス停から少し早足で病室に向かった。父の部屋の前に担当看護婦と看護師長がニコニコして立っていた。
「今日、退院出来ますよ。」と言われた。
早くても明日だと医者は言っていたのに。
私は、明日なら息子もいたのに、と思いながら、介護施設に車の段取りをつけてもらい、返事を待つ間に、荷物をまとめ、父を着替えさせ、一人でドタバタしていた。
午前中にお迎えに来てくれそうなので、昼の食事を断り、清算してもらい、レンタルパジャマの会計をすませて、車に荷物と父と私を詰め込んでもらって、実家へと向かった。おやつのバナナと菓子パンは実家で父と分けあい食べて、私は昼のバスで山を下り自分の家に帰った。父はすんなり自宅に馴染み、母の用意した昼ごはんを食べて、おやつも食べて、トイレの場所も忘れていないようだったし、介護が無駄ではなかったことを確認できた。それで、充分だと思った。