20年ぐらい前、リゾートホテルとラブホの客室清掃のパートをしていました。


どちらも直接お客様と絡む事が少なくても、

“きれいな部屋で気持ち良くお客様が過ごしてくれたら嬉しいなぁ”

とやりがいを感じていたので、職場の人間関係は別としても、私はこの客室清掃の仕事は意外と好きでした。


リゾートホテルの繁忙期には、たくさんの学生アルバイトさんを入れ替わり立ち替わりで仕事を教えました。


前日一緒に仕事をした子かどうかも分からないぐらいたくさんの学生アルバイトさんを見たので、バイトに来てくれて何日目かと、誰の班でどの仕事を教えてもらったのかを確認しながらの毎日でした。


学生アルバイトさん達に、

「バイトの日は、∀さんの班で仕事がしたいです」

と言ってもらえた時は、言葉に出来ないぐらい嬉しかったです。


そう言ってくれた当時の学生アルバイトさん達、こちらこそ一緒に仕事してくれてありがとね。


みんな今頃、あの頃みたいに頑張ってるかなぁ?


連泊して下さるお客様の部屋の清掃の時は、お客様が部屋にいる状態で清掃をさせてもらう事もあるんだけど、

「こんなに早く丁寧にきれいにしてくれてありがとう。

今日も気持ち良く過ごせるから嬉しいわ!」

と言ってもらえた時は、

“客室清掃の仕事をしていて良かった!!”

と心の底から思いました。


嬉しくて無料のお菓子とお茶を、内緒でサービスしてしまっていた事も、今ではとてもいい思い出です(笑)


閑散期のある日、帰り際に上司から

「ちょっと相談があるんだけど…」

と声をかけられました。


“何かやらかしてしまった!?”

と思っていたら、

「新しく学生アルバイトさんが来てくれるんだけどね…」


“閑散期なのに学生アルバイトさんを雇うの?”

と思っていたら、

「他の班長さん達からは断られたから、もう∀さんしか頼めないんだけど…」


「何があったんですか?

言ってもらえないと分かりません」

私の言葉に、上司が言いにくそうに話し始めました。


「新しく学生アルバイトを雇ってもらえないかと、学校と親御さんから頼まれて…」


…学校と…親…??


「片足のない子にバイトを経験させたいと親から頼まれたと学校から連絡があってね…。

僕は学校側に仕事の内容は話したんだけど、断られ続けてるからお願いするところがもうないんだって親御さんから泣かれたらしくてね…。

無理を承知で、学校側も連絡してきたんだよ…。

学校側からも、何とかその子にバイトを経験させてやってくれないか?と強く言われ続けて、僕も断れきれなくてね…」


しばらく沈黙の後、

「事故か病気で片足がない状態だと思うんですが…少し不自由とかではなく、完全に片足がない状態なんですか?

義足は使用されてるんですか?

義足を使用されているのなら、まだ何とかなるかもと思うのですが…」

の私の問いに

「義足は持っていなくて、松葉杖らしい…」

との上司の答え。


「3日でいい。

経験させてやってくれないか?

それなら断れるから」


差別するような言い方や、偏見な見方や考え方はダメだけど、きれいごとも言ってられないとも思いました。


「その子のご両親に、どんな仕事か見てもらう事は出来ませんか?

階段での移動も多いし、何よりあっちこっちずっと動いています。

万が一があっては困ります」

と言ったら、上司は

「僕も聞いたんだけど、片足はないけど1人で出来る子なので大丈夫の一点張りで…」


悩んだ末に、

「分かりました。

ただ私からの報告だけでなく、必ず自分の目でも確認して下さい」

と答えを出しました。


翌日の仕事前に、出勤だったパートさん達から集中砲火を浴びた私。


「何で断らないの!?」

「私はあの子のお世話はお断りだから!」

「私も!

気を遣うし無理!!」

「私達は反対したのに!」

「絶対∀さんが責任持って教えてよね!」


『皆さんはいつも通り作業して下さい。

私が責任持って教えます』


…私だって自信がある訳じゃない…

と思いながら、

「ごめんね。

じゃあ行こうか」

と、その子を連れて作業の説明をしながら、他の人の仕事風景を見せました。


その日一緒の班だった人達は、その子を視界に入れる事はしませんでした。


淡々と作業の進み具合を報告しながら、私の指示を待つだけです。


その子には、私の補助を手伝ってもらいました。


部屋の入り口までは松葉杖を使っても、部屋の中ではけんけんで器用に移動をしていました。


…ハラハラしながら見守りました。


ほんとに初めてのバイトなのだろう…。


家でのお手伝いと違って、頑張った分だけ給料が発生するという喜び。


頑張った分だけやってくる疲労感。


今まで断られ続けてきたのであれば、嬉しくも感じた事だろう…。


緊張と不安があるであろう中、私にはその子がイキイキ、キラキラして見えました。


本当に楽しそうだった。


ベッドメイキングの時はさすがに危なそうに見えたけど、体験もしてもらったし、一通りの作業はしてもらいました。


飲み込みも早く、一生懸命取り組む姿勢でその子の真面目さは伝わってきました。


…ただ…

本人がいくら

「大丈夫です!」

「出来ます!」

と意思を伝えてくれても、見ている側からしたら

“せめて義足があれば…”

と思う場面ばかりでした。


ゆったり広々とした作りの施設ではなかったので、余計そう感じてしまったのかもしれません。


すれ違うお客様達でも、一瞬足を止める方達ばかりでした。


それでも約束通り、私は3日間面倒を見ました。


私の答えは、

【学生アルバイトさんの立場では難しいかもしれないけど、職種を選ぶ必要があるのでは…?】

です。


上司は作業中、何度か見に来ていました。


そして

「検討しましたが、継続はやはり厳しいと思います」

と、学校に伝えました。


学校側からご両親に伝えてもらったけど、ご両親の方は受け入れてもらえたので断られるとは思ってなかったようです。


何度も学校側に頭を下げていたと聞いています。


私は今でも、あの時の自分の答えが正しかったのかどうか分かりません。


20年以上経った今でも、ふと思い出します。


あの時のその子のキラキラしていた顔を、私は忘れてしまってはいけないと思っています。


助け合いながらでも、一緒に仕事が出来る輪が広がれば…とは思っています。


その上でのフォローは、必要だと思います。


偽善だと言われても仕方ないけど、私はこの時の事は忘れる事が出来ません。


ただその子が今、

あの頃と同じようにキラキラした笑顔を見せて頑張ってくれていたら…

とは思っています。