Funeral Wreath -43ページ目

【リリア】

*グレン×ジャック


真っ白な世界へ


リア】


目蓋を閉じると、そこは黒い世界だ。
漠然とした不安と絶望に想像が膨らみ重い負担に苛まれる。

土の中はそれと等しい。
死者は不安だ。だからきっと,墓前に供えられた花に安堵する。

安堵し,光が見えると暗闇から出て来れる。
「彼が居ないと,随分と寂しいものだね」
『Lacie』と刻まれた墓の前で静かに目蓋を閉じる。
墓の周囲は草花に囲われ、大切にされている事を伺わせる綺麗さだった。
しかしこの美しさが一層の哀愁を感じさせる。
「待ってね。もうすぐ来るだろうから」
懐中時計を開くと「彼」の作曲した「彼女」の曲が流れる。
彼らの時を繋いだのは自分なのに少し寂しい気がするのは醜い嫉妬なのだろうか。
蔦の絡まる十字をそっと撫でると温かで,穏やかな時間が流れるような気がした。
「ほら。彼が来たよ」

「来ていたのか」
「やぁ、グレン」
ゆったりとした足取りで現れたのは黒髪の青年。
手には綺麗な白百合の花を携えている。
一見無表情だが,親しい者には今彼が穏やかな表情をしていると分かるだろう。
余り感情の露出がないがそれ故に僅かな違いに敏感になる。
「彼女がお待ちかねだよ」
「そうか」
にっこりと笑顔で言えば,ぽつりと返して少しだけ間を置き墓標へと手を伸ばした。
花を墓前に供えると,自分と同様にしばし目蓋を閉じて黙祷する。
言葉は何もない。
それでも深い愛情を感じる仕草だった。
「喜んでるね」
「…分かるのか?」
「女性の気持ちは分からないといけないよ」

少し笑って言うと、彼から困ったような雰囲気が伝わった。

「君に愛された人なら、余計にね」

彼がほんの少しだけ悲しげな目で足元に置いた百合を見つめる。

不味い事を言ってしまったかと思い一瞬いたたまれない気持ちになった。

罪悪感に苛まれ一人でうーうー汗をかいていると、ふとグレンが此方を向く。

「行こう」

「へ?もういいのかい?」

背を向けてすたすたと歩き出してしまった彼を追う。

一度だけ振り返った墓の前では、百合の花が柔らかに揺れていた。


屋敷への道を歩きながら思ったことを口にする。

「やはり私は居ない方がよかったかな」

「何故そう思うんだ」

「いや、君の大事な人との時間だし――」

「お前は違うのか」

言葉を失くす。と同時に顔面の温度が急上昇を始めた。

本人を目の前に言うのだろうかそれを。真面目な顔で言う所が性質が悪い。

「…あ、ありがとう」

彼は背を向けたまま何も言わず、私は何も言えず。

だが悪い空気ではない。むしろ心地よささえ感じながら私は彼を追った。


あれから数日、数年?

時間の感覚が戻らない日を送っていた。

私の友人はこの世に居ない。

そうだ。この世に居なくとも彼は何処かに居る。

訪れるべき場所も無く、足は無意識に「彼女」の墓へと向かった。

手に白い百合を持って。

季節柄、以前より草花が散って些か寂しい光景が広がっている。

「―――ごめんね」

貴女の大事な人を奪ってしまった。

この場に来る事の適わない身にしてしまった。

(彼もこんな気持ちだったのだろうか)

墓前に花を供え、彼と彼女の事を想う。

自分が言ってはいけない事ではあるが、寂しかった。

だが私は再びあの日のように彼を追うことになる。

少し色の褪せた景色に涙が一滴、落ちて消えた。


「彼と私は唯一無二の友人である」

よく語り合い、唯一無二の作品を作り上げた。

「彼と私は恋仲である」

幾度と無く、唇も、身体も重ねた日々があった。

「彼と私は―――」




彼と私は、命を奪い合った仲である。




リア】END








*ジャックが自分を犠牲にする少し前のお話