【angelus】
*オズ×ギルバート
『全ての罪は許される』
【angelus】―祈り―
幼くして父に見放され、若干15歳にして大切な者の肉体を刺す感触を知る。
異世界から戻ってみれば10年後で、またも多くの死を目撃した。
更に言えば自分の命にさえタイムリミットが付いていたというオマケ付きだ。
笑顔でやり過ごす事が当たり前になっていた事に気付いた今、漸く自分は
それなりに凄絶な人生を送っているのだと他人事のように思った。
そしてそれを、実に下らない事だとも。
「ギル、それ新聞?」
「ん?ああ」
椅子から飛び降り、部屋に戻ってきた従者が手にしている物に駆け寄った。
「読むのか」
「いや、ちょっと見せて貰うだけ」
読書は好きだが新聞は好きという程でも無い気がする。
彼が意外そうな顔をするのも然り。それでも今は何となく興味が湧いた。
朝早いのでこれは朝刊だ。その場でばさりと広げて全体を見てみる。
ギルバートはコーヒーを淹れに台所へ向かっていた。
紙面は有名人のスクープだとか政治問題、後は猟奇殺人の話が主だ。
「・・・暗い」
「そういう時代だからな」
仕方ない、と彼は椅子に腰かけ煙草をふかす。
喜びを与えてくれる様な記事を見つけられず、結局新聞は彼に返した。
(まぁ・・見つけたって、どうする訳でもないけどさ)
ふかされた煙草の煙がすうと空気に混じり、姿を消して行った。
「――・・・教会へ行こう」
「は?」
「教会って言うか礼拝堂?俺が還ってきた所」
「何でまた」
「いいからいいから」
何やらごたごた言っている彼を問答無用で引っ張り連れ出す。
愛用のコートを掴もうとする彼にもう要らないだろうと説いて
暖かい日差しへ二人踏み出して行った。
其処は以前にも増して廃れている様だった。天井には大きな穴がある。
壁は草花の蔦が今にも飲み込まんと言う程侵食していた。
崩れ転がる瓦礫に躓かぬよう、光の降り注ぐ十字架の元へ歩む。
「・・・・変なの」
「どうかしたか?」
「綺麗な教会より、よっぽど神様がいそうな気がする」
「・・居るんじゃないのか?」
何故と訊けば彼は視線を床へ逸らして答えた。
「お前が帰って来たからな」
「――そっか」
差し込む光が緑の葉を照らす様は本当に現かと少なからずの疑念を抱かせる。
錆びついたこの十字架にも、やはり神は住まっているのかも知れない。
祭壇の目の前に立つと足元の花に気付き、危うく踏みそうな足を咄嗟に脇へ避けた。
「・・・・・・・・あ」
「どうした?」
後ろから彼が訊いてきた。だがそれを感じながらも何か答えようとは思わない。
束になって咲いているその白い花の内、2本を指の先で摘み取った。
白い花は割合何処にでも咲く、シロツメクサだ。
「ねぇギル」
突っ立っている従者を手招きする。
素直に歩いてきた彼が隣に立つと、その手を取り少し紅潮した顔を見やった。
辺りは無音で、触れた皮膚から彼の鼓動だけを感じた。
「―――しよ?」
「は!?」
この上無いほど盛大に顔を真っ赤にさせながら彼は動揺し、
不謹慎だの罰が当たるだの何を考えているんだ等と喚いた。
「落ち着けって・・よく聞いてギル」
声のトーンを落とすと彼はびくりとして大人しくなった。緊張しているのだろうか。
その様子に苦笑を堪えながら、片手に持っていた白い花を一つその手に乗せた。
一呼吸置いて想いの全てを言の葉に乗せた。
「――俺と、結婚してくれますか?」
「――――!」
今度は言葉を発せられ無かった。絶句、と言うに相応しい反応だ。
しかし此方も心底真面目な告白故に、沈黙をされるのはやはり気恥ずかしい。
「・・・・・・オ、」
「ずっと一緒にいるって事。結婚って言う形の、想いの約束だ」
彷徨っていた視線がかみ合った。
掌は汗でしっとりと湿り始めている。顔は今にも湯気を出しそうだ。
「で、返事は?」
「・・・・・・・」
彼は手の上の花を見つめる。空いている手は握られたり閉じられたりしていた。
だが暫くの沈黙の後上った顔は、今にも泣きそうな笑顔を湛えていた。
「――――あぁ、勿論だ」
「うん、今日一番のニュースだ!」
ねぇ神様、背徳と云う名の罪は許されますか?
【angelus】―END―
*シロツメクサ=約束