【幻想の果て】
*ブレイク×ギルバート×ブレイク
降り積もる雪は私ごと包み、
共に今にも消えてしまいそうだった。
【幻想の果て】
雪の降る中一人立ち尽くしす男がいた。
彼は此方に気付いたのか、ゆっくりとこちらを振り返る。
「オヤ、ギルバート君ではありませんか」
「・・・仕事の締めに来た」
そう言って差し出すのは1枚の紙切れ。
仕事の報告書だ。
「はいはい。御苦労さまでした」
「ブレイク」
紙を受け取るその手を掴む。
白い肌はやはり酷く冷たかった。
「何デス?」
「今までずっと・・・此処にいたのか?」
問い詰める様に聞けば僅かに目を丸くし、
すぐにそれは自嘲的な笑みに変わった。
「ええ、まぁ」
「もう少し自分の身体を労わってやれ」
「オヤオヤ、君に言われるとはねぇ」
彼はくすくすと笑い、空いている方の手で
コートの肩に積もった雪を払った。
はらはらと落ちたそれは直ぐに下に積もる雪に馴染んで消えた。
「まだ手を離しては頂けませんか」
苦笑混じりに言われてようやく自分がブレイクの手を持ったままな事に
気がついた。だが、そう言われても尚その手を離そうとは思わなかった。
「離しても、ちゃんと帰ってくるか?」
「はい?」
「この手を離しても・・・お前が此方に帰ってくる保証はあるのか?」
「・・・・・・・・・」
返事は無い。
掴んだ手を額を当て、祈る様に包む手に力を込めた。
「――保証は出来ません」
沈黙を破った言葉は予想していた答えだった。
だが、それでもこの予想が外れることを何所かで期待していたのだ。
裂けそうな痛みを胸に覚えながらもゆっくり顔を上げえれば
ふっと視界を塞がれた。
「―――――な、」
「『何情けない顔をしてるんですか』って言いたかったんですが」
視界を塞ぐ指は震えて見えた。
「今はワタシの方がよっぽど酷い顔でしょうカラ」
今は駄目です、と彼は笑った。
否。きっと彼は泣いている。
涙を流していなかったとしても、その心は涙を流しているはずだった。
不安だ。彼の顔が見えない事が酷く心を不安にさせる。
「・・・自分だけ見せないのは、ずるくないか」
「老人の数少ない頼みくらい聞いて下さいヨ」
「いつも腐るほど聞いてる気がするが・・・」
「気のせいデス」
笑う声。いつだって笑っているその声が、
全てではなくとも偽られた物である事くらい気付いていた。
目の前に翳された手を除けようとすれば
そうはさせまいとでも言うように胸に抱き込まれてしまう。
頬に触れる布越しに、微かな温もりを感じた。
「ギルバート君、ワタシの心臓はちゃんと鳴っていますカ?」
「・・・・・・・・あぁ」
「安心なさい。生きているウチはちゃんと帰って来ますよ」
酷く優しい声だった。泣く子供をあやす様な声だ。
「・・・当たり前だろう」
「ええ、そうですね」
冷えた手が髪を撫でてきた。
その仕草に何故だか酷く泣きたいような気持になる。
「この世にはまだ仕事があるのですヨ。だから、そう簡単には死にません」
――なら、その仕事が終わったら?
そう聞きたくても、唇が固く動きを閉ざしてしまう。
肝心な事はいつだって言葉にならなかった。
抱きしめる腕が解かれ、彼と向き合う。
「俺は、また・・・来年のこの雪をお前と見たいんだ・・・」
伏し目がちに呟いた言葉。
その言葉に、彼はひどく綺麗に笑ってみせた。
――何時もは綺麗に見える雪が、今年は酷く怖かったんだ――
【幻想の果て】
貴方がいつか溶けて消えてしまうのではないかと、
心配で堪らないのです。