【誘惑】1 | Funeral Wreath

【誘惑】1

*ルーブレ←レイム(オペラハウス後)





こつ、こつ、

階下に響く足音二つ。

求める人がやってくる。




【誘惑】1



「ルーファス様、お連れいたしました」

「入れ」



二人の人間が部屋に入る。

夕刻で薄暗いが、表情を読むには大事ない。

レイムの後ろに続く客人はパンドラの制服を纏っている。

ひどく不機嫌な面持ちだ。

予想と違わぬ客人の様子に満足げに笑う。


「ご苦労だったなレイム。下がってよいぞ」

「は、失礼致します」


従順で生真面目な彼は恭しく礼をし、下がる。

扉を閉じるその時、彼が客人に気遣うような視線を送るのを

ルーファスは見逃さなかった。



「久しぶりじゃの、ケビン=レグナードよ」

「・・・何の用です?バルマ公」


この世の終わりと言わんばかりの不機嫌さだ。

眉間に寄った皺が浅くなるどころか、より深くなる。


「何を不貞腐れておる。今宵は客人として呼んだのだ・・・警戒せずとも

 適当に掛けるがよい」

「いいえ結構デス。柄にもない気色の悪いことをしないで頂きたい

 ですネ」

「ふん、相も変わらず可愛げの無いことよ」


日ごろの行いが警鐘を鳴らせているのか。

頑として気を許すことはしない。そこが気に入っていると云えば

否定はしないが。

二人の間のテーブルには紅茶と洋菓子が綺麗に並べられている。

一人腰かけながら用意されたティーカップを取った。


「茶ぐらい付き合わんか。仮にも貴族なら応ずるのが礼儀であろう」

「・・・・・・・・・・・」



さすがに世話になっている侯爵家の名を想ってか、黙って椅子に

手をかけた。沈黙のままその動作を見つめる。


そしてふと気が付いた事を口にした。


「今日の制服は借りものか?少々汝には大きそうだが」

「・・・・・ええ、レイムさんのですヨ。先日誰かさんがビリッビリに

 してくれたものですカラ。・・・支給されるのは明日ですが、今夜急に

 呼び出されましたのでネ」

「あぁ、そうであったの。我の扇は切れ味が良くてなぁ」


くすくすと含み笑いで至極愉快そうに聞けば、

不愉快そうに皮肉を交えて応じてくる。何とも奇妙な茶会である。


「時に帽子屋よ、一周した刻印の醜い事よの・・・そうは思わんか」

「・・・貴方も暇なお人ですねバルマ公。そんな趣味の悪いことを

 聞く為にワタシを呼び出したんですか?」


瞳に呆れと殺気が籠る。

やれやれと言うようにルーファスは腰を上げ、テーブルに手をついて

身を乗り出す。ブレイクが怪訝そうにその顔を見上げる。


「・・・・・・なんデス?」

「お前もよく知るように、情報こそが我を満たすものよ・・・

 今の我が求めるのはココの情報だ」


言いながら閉じた扇をとん、とブレイクの胸に突き付ける。


「・・・意味が解りませんが」

「そうか。では汝に解りやすいように説明してやろう」

「!?」


グイとスカーフを力一杯に引かれて引き上げられた身体は

勢いをそのままに傍にあった長椅子へ押し倒された。

仰向けになったブレイクに影が落ちる。


「ッ―乱暴ですネ・・・いいんデスカ?公爵がこんなコトして」

「減らぬ口だ・・・我が直々に説いてやるのだ、・・・しばし黙っておれ」

「―ッ!」



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「・・・・・・・・・・・・・。」


退室を命じられて外へ出たはいいが、どうにも不安なレイムは

廊下に立ちつくしていた。


(良くない。・・・良くないんだ、盗み聞きなんてっ)

(だが先日あんな事があったばかりの2人を放っておいていいのか!?)

(・・・不安だっ堪らなく不安だ!どうしたらいいんだ、考えろレイムッ;;;)


哀しいかな。真面目さ故、主人への礼儀と友人への気遣いが

理性を混乱させる。当分結論は出そうにない課題を延々と脳内で

繰り広げていくばかりだ。



「~~~~~~~~~~~~~っつつッ!?」



両手で頭を抱えながら苦悶していると、背にした扉から

なにやら大きな物音がした。


「な、・・・・ザークシーズッ」



散々足を引っ張っていた理性は

気付けば音もなく消え去っていた。








≫続きます;

 さて、帽子屋さんはどうしましょう;