英国刑事ドラマ「刑事フォイル」に魅せられる
海外とくに英国刑事ドラマについては、先日、「主任警部モース」のことを書いたのだが、それと好対照の紳士的な刑事の姿として、「刑事フォイル」がある。第二次世界大戦で、英国および英国民が命を賭してヒトラーに抗戦する中、一人の上級刑事が英国紳士の理想像を保ちながら、陰謀渦巻く戦時下の殺人事件などを解決して行く姿は、テーマ曲とともに哀愁を漂わせ、我々現代の日本人の心にも感動をもたらしてくれる。==以下、AXNやNHKのホームページ、Wikipediaなどを参考にして纏めた。==ドラマ「刑事フォイル」□ 原題:「Foyle's War」□ 制作:2002年10月~2015年1月。英国ITV第1シリーズ(S1) 2002年10月27日-11月17日(4回)・・・2002年英国アカデミー賞テレビ部門(英語版)のプロダクション・デザイン賞にノミネート。第2シリーズ(S2) 2003年11月16日-12月07日(4回)・・・2003年英国アカデミー賞テレビ部門(英語版)の最優秀ドラマシリーズ部門にノミネート。第3シリーズ(S3) 2004年10月24日-11月14日(4回)第4シリーズ(S4) パート1 2006年01月15日-01月22日(2回)第4シリーズ(S4) パート2 2007年02月11日-04月15日(2回)第5シリーズ(S5) 2008年01月06日-04月20日(3回)第6シリーズ(S6) 2010年04月11日-04月25日(3回)第7シリーズ(S7) 2013年03月24日-04月07日(3回)第8シリーズ(S8) 2015年01月04日-01月18日(3回)□ 配給:[米国] PBS(2003)[日本]AXNミステリー(2014)・・・2015/12/05(土)より全28話を再び放送中。各シリーズをシーズンと呼び変え、かつシリーズ4のパート2をシーズン5と呼称している。その後は番号が一つずつズレて、シリーズ5をシーズン6、シリーズ6をシーズン7、シリーズ7をシーズン8と呼び、シリーズ8はファイナル・シーズンと呼んでいる。NHK-BSプレミアム(2015)・・・2015/08/30(日)~2016/03/20(日・祝)、全28話を各話前編・後編に分けて放送。*【概要】舞台は、第二次世界大戦の最中の英国南東端、ドーバー海峡に面した美しい町ヘイスティングズ Hastings, East Sussex, England。この小さな田舎町に忍び寄る戦争の影。戦時下だからこその悲しい殺人事件や犯罪を生む…。サセックス警察本部ヘイスティングズ警察署のクリストファー・フォイル警視正Chief Superintendent(マイケル・キッチン)。一人の人間として揺るぎない信念を持ち、次々と起こる事件に真摯に立ち向う!戦争の悲惨や不条理も生々しく描き、これまでの刑事ドラマとは全く異なる奥行きを持った作品として、イギリスでロングランのヒットシリーズとなった。専属運転手のサマンサ(サム)・スチュアート(ハニーサックル・ウィークス)とポール・ミルナー巡査(アンソニー・ハウエル)の助けを借りながら、戦争の混乱を巧みに利用し逃げる犯罪者を捕えようと奮闘する。妻を亡くしているフォイルは物静かで几帳面、理知的かつ誠実で正直だが、敵を優しく見ることもままある。扱う事件は主に、戦争による不当利得者・ブラックマーケット・殺人に関わるものなどである。イギリス軍や諜報部の高官らと度々対立することもあるが、フォイル自身は全く気にかけず、正義を追求することに固執する。思想的には、警察幹部としては珍しくリベラルなためマークされている。*【スタッフ】□ 企画・脚本: アンソニー・ホロヴィッツ。小説家・脚本家、コナン・ドイル財団公認で「シャーロック・ホームズ」の続編「絹の家」「Moriarty(原題)」を執筆した、ミステリー界の注目の人。テレビドラマは「名探偵ポワロ」「バーナビー警部」などの脚本を手掛ける。ロンドンのチャリング・クロスにある老舗書店フォイルズを思い出し、同店の女性オーナー、クリスティーナ・フォイルの名を男性名のクリストファーとすることにしたと言う。□ プロデューサー:ジル・グリーン(2002-06)、サイモン・パスモア(2002-03)、キース・トンプソン(2004-06)。□ テーマ曲/オープニング曲:作曲: ジム・パーカーJim Parker・・・コナン・ドイルの事件簿/ドクター・ベルの推理教室 (2000)、トム・ジョーンズ (1998)、バーナビー警部 (1997~2011)など。発売日2005/10/31、レーベルHarkit。Amazonで購入◇【主演】■ クリストファー・フォイルChristopher Foyle: マイケル・キッチンMichael Kitchen (声・山路和弘)ヘイスティングズ署の警視正(S1-S6) → 保安局(Security Service MI5, S7-S8)。どんな事件に対しても、真摯に立ち向かう。妻に先立たれており、一人息子のアンドリューがいる。第一次世界大戦に従軍した時の自らの辛い体験から、戦地にいる息子のことをいつも心配している。趣味はフライフィッシング(発祥の地テスト川などの鱒釣り)と上質なモルトウイスキーを嗜(たしな)むこと。ゴルフも少々。シリーズを通して何度も辞職を繰り返している。S5の最後、戦争遂行に重要なためであると言う官僚の干渉によって二人の殺人犯の逮捕が邪魔された時に辞職する。後任が殺されたためにS6で職務に復帰する。戦後にも引退するが、複雑な事件に巻き込まれた時に復帰する。S6の最後には、再び引退し、おそらくは戦争中に政治的な未解決事件の決着のために米国行きの船に乗っている。S7の初めにはイギリスに戻り、MI5に勤め、労働党の政治家と結婚したサムが下級職員として同僚になる。□ イギリス紳士の理想像 He is a perfect English(British) gentleman.主人公フォイルの言動を見ていると、イギリス紳士の理想像が体現されているように思える。どんな場面に出くわしても決して狼狽(うろた)えたり慌てふためいたりすることがなく、静かに物事を処理する冷静沈着。心の中には喜怒哀楽が渦巻いていても、声を荒げることもなければ喜怒哀楽が表に出ることもなく、敢えて抑えて面(おもて)に出さない。勿論、冷酷な人間という訳ではない。英語に「上唇をギュッと閉めているbite one's lip」という表現があるが、そうした姿こそが、まずはイギリス紳士の大事な条件なのだ。但し、彼とても生身の人間。況してや刑事として犯罪捜査に当たっていれば、喜怒哀楽を感じることは当然である。そんな時、彼はどうするか、わずかに表情を崩したり、口元をゆがめたり、あるいは目をショボつかせる。こうした表情の微妙な変化こそが、このドラマの優れた魅力なのである。【マイケル・キッチンMichael Kitchen 略歴】1948/10/31 Leicestershire州Leicester生まれ。 Royal Academy of Dramatic Art (RADA) 、1970年代から俳優活動を始める。第58回アカデミー賞作品賞ほか7部門を受賞した映画「愛と哀しみの果て」(Out of Africa, 米国1985年)では主人公の友人Berkeley役を熱演。ドラマ「主任警部モース」(Inspector Morse#23の詐欺師Russell Clark役、英国1992/03/25)や映画「プルーフ・オブ・ライフ」に出演。*【主な共演者たち】■ サム・スチュアート Samantha Stewart: ハニーサックル・ウィークス Honeysuckle Weeks (声・山根舞)フォイルの専属運転手(S1-S6) → 保安局(S7-S8)。「サマンサ」という明るく陽気で知的な若い女性。陸軍の輸送部隊(MTC)に所属していたが、車を運転しないフォイルの運転手として抜擢(ばってき)される。必ずしも美人とは言えないけれど、明るく元気でかわいらしい。年配のフォイルにサムの組み合わせが実にいい。本来、捜査には口を出せない立場だが、自分の意見を積極的に発言し、それが捜査のヒントになることもある。サムはフォイル付きの運転手だが、こんな役柄が登場した背景には第一次世界大戦で男性が戦地に行き、その穴を埋めるように女性が国内の様々な職種に進出したことがあるのかもしれない。バスの運転手に女性がなったこともあった。そうだとしてもドイツ軍の空襲が相次ぐ中で、犯罪捜査という危険な仕事の一翼を担うのは大変である。それをサムは嬉々としてこなし、時には危ない橋も渡る。それがこのドラマの大きな魅力となっている。このサムが、物語が進むにつれて存在感が強まる。サムはアンドリューと親しくなり恋愛関係になるものの、反対を恐れてフォイルから関係を隠す。アンドリューが戦争の記憶に苦しむ時には救いの手を差し伸べる。S4でアンドリューと別れ、アメリカ人の兵士と恋愛関係となるが、プロポーズは断る。だが二人の関係はノルマンジー上陸作戦の後まで続いている。S6でアンドリューとの関係が復活するように見えるが成就せず、裕福な芸術家のハウスキーパーとなっている。制服を脱ぎ、フォイルの運転手の仕事を失って目的を失っているように見えたものの、フォイルがMI5に勤めてからは再び彼の運転手となり、かつての暗号解読者のアダム・ウィンライトと恋に落ち、シリーズ最後(S8)に求婚されて結婚する。■ ポール・ミルナー Paul Milner: アンソニー・ハウエル Anthony Howell (声・川島得愛)ヘイスティングズ署の巡査部長(S1-S5)。警察を離れ、軍に入隊し出征。戦地「トロンハイムの会戦」(1940年ノルウェー)で左脚を失う。帰還後は生きる気力を失っていたが、緻密な捜査能力をフォイルに見込まれ、フォイルの部下として復職する。妻のジェインとの関係はシリーズを通して悪化する。二人は長く別居し、その間にミルナーはイーディス・アッシュフォードと交際し始める。ジェインはウェールズの実家から戻ってミルナーとやり直そうとするがある事件の真相に迫ったために殺されてしまう。その直前、ミルナーは離婚したとイーディスに嘘をついている。S6の最後で、イーディスは娘を出産しクレメンタインと名付けられる。S6の冒頭で、ブライトン地域を管轄する警部補に昇進している。フォイルとサムが絡む最初の事件を捜査する際、ミルナーは自分の職務に慣れてない様子を見せ、二人に対して無礼な態度を取ってしまう。事件解決後、フォイルからこのために非難されることになるが、直ぐに赦(ゆる)されている。■ アンドリュー・フォイル Andrew Foyle: ジュリアン・オヴェンデン Julian Ovenden (声・福田賢二)フォイルの一人息子。若くハンサムで勇敢な青年。父のクリストファーを尊敬しているが、時に対立することも。オックスフォード大学在学中に召集され、空軍にパイロットとして入隊する。だが戦争によって自分も命を落とすのではないかと恐れている。S6で訓練士官としてデブデンに駐留した時はサムと恋愛関係となるが、転属された後に別離の手紙を書き、関係は終わる。少佐に昇進してマルタに配属となるが、病気で視力が悪化して帰国させられる。その後、S6の最後まで姿は見られない。サムに冷たい仕打ちをしたことを詫び、縁(よ)りを戻そうとし、サムの心も雪解けし始める。だがS7では、サムはアダム・ウェインライトと恋仲となっている。S7ではアンドリューはロンドンにいるとされる。→ 株の仲買人(S8)◇【主な舞台】英国イングランド地方の南東端、英仏海峡を望む町ヘイスティングズ Hastings, Sussex, England。取り立てて特色のある町ではなく長閑(のどか)な場所。なぜこの場所が舞台として選ばれたのか。一つには海を隔ててすぐ向こうがヨーロッパ大陸であること。ドイツ軍による空襲、あるいは上陸作戦の恐怖が身近に感じられる場所なのだ。しかもヘイスティングズは軍港をもっている訳ではなく、平和な日常生活が営まれている町。そこに戦争の恐怖が襲って来るとともに、思いもしない犯罪が起きる。この点が大きな見所。だがもう一つ。イギリス人にとってこの町の名前は遠い記憶を呼び起こすものなのだ。1066年、当時イングランドを支配していたハロルド2世率いるアングロ・サクソン軍が、フランスのノルマンディー公ギヨーム2世率いるノルマン軍に敗れる。その場所に因んで、これを「ヘイスティングズの戦い」と呼び、イングランドを支配するのが「ノルマン王家」のギヨーム2世はウィリアム1世となる。今に至るイギリス王室の誕生である。その意味で重要な町なのだ。*【時代的背景】□ 時代設定: 1940年5月~47年1月。□ ダンケルクの戦い―イギリス軍を本気にさせた悲劇。1940年5月、ドイツ軍は破竹の勢いで連合軍を北フランスのダンケルクまで追い詰めた。イギリス海外派遣軍とフランス軍、合計35万人が殲滅(せんめつ)寸前の危機に瀕した。このとき、イギリス首相チャーチルは、35万人の兵士たちを何としてもダンケルクから救出しようと考え、軍艦だけでなく、民間の漁船・ヨットあるいは艀(はしけ)までも使って救助に向かわせた。もちろんイギリス空軍もドイツ軍に反撃し、カレー(注:フランス北部の都市)でドイツ軍に包囲されていたイギリス軍はドイツ軍の注意を反らすべく陽動作戦を採用した。こうして、イギリス軍兵士の大半が帰還することになり、兵力を温存することができた。もちろん多くの武器、弾薬が失われたし、陽動作戦に活躍した3万人の兵士も命を落としている。しかしこれだけの犠牲を払ってでも多くの兵士を帰還させられたことで、イギリス軍は反撃に移ることができたし、何よりもこの壮絶な悲劇があったからこそ、決死の覚悟でドイツ軍に立ち向かえたのだった。ダンケルクの撤退作戦を背景に描かれた第3・4回「臆病者」は、刑事フォイルのシリーズ中、もっとも凄まじく、加えて父と子の親密な関係を見事に描き出して、涙を誘うエピソードとなっている。□ アメリカ参戦を望むイギリス。第二次世界大戦では、連合軍の主力として戦ったイギリスだが、戦いが長引くにつれて、徐々に息切れして行く。勿論、イギリス軍の士気はそれでも挫(くじ)けることなく、国民も苦しい状況を堪え忍んでいた。そのイギリスにとって、頼みの綱となるのはアメリカであって、チャーチルはこのアメリカの参戦を強く望んでいた。アメリカからは武器や食糧がもたらされていたが、それ以上に欲しかったのはアメリカ軍の参戦。しかし、この時のアメリカ大統領はフランクリン・ルーズベルトで、彼はイギリスの勝利を望んでいたものの、議会や世論は参戦には消極的だった。そんな中、1941年6月に、独ソ戦が始まり、ドイツがイギリスよりも、先にソ連を押さえ込もうとしたのである。しかもこの年の12月には日本が英米両国に宣戦布告をする。その結果、アメリカは否応もなくヨーロッパ戦線に関わりを持たざるを得なくなり、こうしてチャーチルが望んでいたアメリカの参戦が実現した。アメリカの参戦により、連合軍は大きな力を得てドイツを打ち破るのだが、その代償は大きなものだった。戦後になると、アメリカから受けた援助の見返りとして、多額の金銭を供出せざるを得ず、イギリス経済は疲弊して行く。また、やがて始まる米ソを中心とした冷戦時代の中で、イギリスの国力は大きく失われて行く。□ バトル・オブ・ブリテンとイギリス空軍。実際の戦闘場面が出てくることは少ないが、戦争に大きな関わりをもつものとして、空軍がよく登場する。これは言うまでもなく、フォイルの息子アンドリューが空軍パイロットだから。しかし第二次世界大戦という背景を考える時、この空軍の存在は実に大きなものがあった。先ず、ドイツ軍は戦闘機によってイギリス本土爆撃を行っているし、ロンドン空襲ではこれによって大きな被害が出ている。また、空からの爆撃を受けて、ロンドン市内では地下鉄の構内が防空壕として使われたことは有名である。ドイツ空軍による激しい攻撃を受けて、これに立ち向かったのがイギリス空軍で、「バトル・オブ・ブリテン」のいわば主役として活躍したのが、「スピットファイア」と呼ばれる戦闘機だった。この戦闘機は次々に改良を加えて、その性能を高めたが、いずれにしても「バトル・オブ・ブリテン」における勝利の立役者として高い評価を得た。◇