KADOKAWAの「小説野性時代」11月号に、

恒川光太郎・著の「サージイッキクロニクル」が掲載されていた。


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これは、「スタープレイヤー」(2014年8月)の続編として、
今月2015年12月発売の長編小説「ヘブンメイカー スタープレイヤーⅡ」に先行した内容だった。


恒川氏は、ホラー小説からファンタジー小説へと変化している作家。

【恒川(つねかわ)光太郎の略歴】
1973年8月18日東京都武蔵野市生まれ。大東文化大学経済学部卒業。2002年頃、沖縄県に移住、塾教師。2005年、「夜市」で第12回日本ホラー小説大賞を受賞・・・高橋克彦氏に「発想の転換」の才能を持つ人物だと評された。「風の古道」の漫画化・・・ネモト摂(木根ヲサム)・作画で2006年週刊ヤングサンデーに連載。「夜市」で第134回直木賞候補。2006年、「雷の季節の終わりに」で第20回山本周五郎賞候補。2007年、「風の古道」を「まつろはぬもの~鬼の渡る古道~」と改題し続編シリーズ化、単行本として収録。「秋の牢獄」で第29回吉川英治文学新人賞候補。2008年、「草祭」で第22回山本周五郎賞候補。2010年、「南の子供が夜いくところ」、「竜が最後に帰る場所」2011年、「金色の獣、彼方に向かう」で第25回山本周五郎賞候補。2012年、「私はフーイー 沖縄怪談短篇集」。2014年、「金色機械」で第35回吉川英治文学新人賞候補。遂に第67回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。「スタープレイヤー」。2015年、「ヘブンメイカー スタープレイヤーⅡ」。


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■ 「スタープレイヤー」 (KADOKAWA単行本2014年8月)

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RPG(ロールプレイングゲーム)的な興奮と神話世界を融合させた異世界ファンタジーの新シリーズ。

斉藤夕月(34歳・無職)は、2001年3月、路上で突然、目の前に現れた男に籤(くじ)を引かされ、一等賞を当ててしまう。
フルムメアが支配する異世界に飛ばされた夕月は、スターボードから入力すると、「10の願い(スター)」を叶えることができる力を与えられる。「スタープレイヤー」に選ばれたのだ。
「10の願い」として何を選ぶかを考えるうち、案内人の石松から説明を受け、先ずは衣食住を調(ととの)えた夕月だった。
だが次第に一計を案じ、或る復讐を企てることを思い付く。自らの暗い欲望。
折しも、マキオと名乗る別の「スタープレイヤー」の男が訪ねて来て、交流が始まる。
そして2人は国境の村クンルンへ遠征に向かう。
クンルンに到着すると、隣国ラズナの兵に取り囲まれてしまうが、アメリカから来た守備隊長ラナログの取り成しによって歓迎される。
その後、マキオのタワー村にラズナ王国の王子が亡命して来る。
国家民族間の思惑や争いに否応なく巻き込まれ人間の様々な欲望と思惑が交錯する世界。
国造りに奔走するうち、人の抱える祈りの深さや業を目の当たりにする。
夕月自身もまた、殻を知らず知らずのうちに破って行く。
しかし、何とアメリカ出身の守備隊長ラナログの裏切りに遭うのだった・・・。


□ NHK-FM「青春アドベンチャー」枠でラジオドラマ化

「スタープレイヤー」(2015年6月1日~12日、全10回)

演出: 木村明広(NHKオーディオドラマ班)・・・「様々な時代や場所が混在する世界を描くのは、実写では難易度も高く時間も掛かることでしょう。
オーディオドラマなら、出演者の芝居と音と音楽で、聴取者の想像の余白を残しながら番組化できると思い、企画しました。音声表現にとても向いている物語でありつつ、映像でも見てみたい原作だと思います。」

脚色: 堀田りえこ。

声の出演:
冴えないアラサー女性・斉藤夕月に田中敦子。夕月協力者・マキオに吉見一豊。
その他、藤元英樹、井上倫宏、峯村淳二、冨樫かずみ、渋谷はるか、平田裕香、など。


異世界内限定で「10の願い」を叶える権利を得た夕月。最初こそ、万事に対して「えー!」と驚きの声を上げるなど多少の戸惑いはあったものの、早々に状況に順応し、気軽に願い(=スター)を消費し始める。
叶えられる願いの数が10個もあり、そう簡単には無くならないので、気軽に使ってみようという気持ちも分からないでもない。
世界を征服したり贅の限りを尽したりとかのゴージャスなものではなく、美人になってみたり、自分の生家を再現した庭を造ったりと、仄々(ほのぼの)としたもの。
このまま仄々路線で行くのかと思っていると、4つ目の願い辺りから、夕月が心に抱えていた「闇」が現れ始める・・・。


*


■ 「ヘブンメイカー スタープレイヤーⅡ」(KADOKAWA単行本2015年12月)


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「ヘブン」と「サージイッキクロニクル」のパートが交互に語られる。

異世界を舞台に突然、召喚された主人公たちが、何でも叶えられるという余りにも大きな、それでいて極めて漠然とした力を手に入れ、戸惑いながら成長して行く。

スタープレイヤーとは神になる行為。神である筈のスタープレイヤーが、特定の人間なのだ。
人間は愚かでいつも道を誤る。特に力を得た時、そこに生じる責任を重く受け止めないならば、その過誤で起こりうる被害は甚大。

事故死した筈の死者の町で目を覚ました鐘松孝平を主人公にした「ヘブン」の章と、
第1作の斉藤夕月と同じく、現世でスターボードを突然に授けられスタープレイヤーとなって異世界にタイムスリップして来た佐伯逸輝を主人公にした「サージイッキ・クロニクル」の章とが、
交差して描かれる。
人間が持っている価値観がこの謎の世界に多様性を持ち込み、神話の世界で神々が創造するが如くに振る舞うのだった・・・。


□ 「ヘブン」のパート


異世界・フルムメアで「10の願い」が叶うスターボードを手に入れ、戸惑いながらも成長して行く主人公・斉藤夕月。

バイクを飛ばしている最中にトラックに幅寄せされて事故死。気が付くと殺風景な部屋にいた高校2年生の鐘松孝平。
部屋の外には他にも、やがて「ヘブン」と呼ばれることになる理不尽に亡くなってしまった人たちが、集められた死者の町だった。
彼らは探検隊を結成し、町の外に足を踏み出し、そして秩序ある新しい社会を作り上げようとする・・・。



□ 「サージイッキクロニクル」のパート 

⇒ 「小説野性時代」11月号に掲載(p148~223)。


イッキ(逸輝)という青年が、サージ(過電圧・電流)されてヘブン(異世界)にタイムスリップしたクロニクル(遍歴)の記録。


冒頭 「ヘブンの諸君。これはとあるインチキ聖人の放蕩(ほうとう)の記録である。」

序章には、甘酸っぱい青春ラブロマンスが漂う。

美術の授業で絵を描いていると佐伯逸輝の隣に、クラスメイトの華屋律子が座った。
「彼女と私の肩は夏服のシャツを挟んで触れあっていた。」「女子がここまで接近してきたことは一度もなかった。シャンプーの匂いがした。」
華屋から、クラスメイトの一部で真夜中、学校の裏の公園で集まる計画に誘われる。
「中学生の恋の哀しさは、記憶の中では永遠になりこそすれ、現実では決して永遠にはなりえないということだ。」
結局、2人がつきあったりはしなかった。

華屋は、1980年、健康で自由な日々を送っていた。藤沢市の中学校卒業を機に離れ離れになった。
高円寺駅前の玩具屋「トイズ・キディング」で再会し交際が始まった
だが、二階堂恭一に別れ話でもめて華屋は殺されてしまった。
イッキは、思いを寄せていた女性の死から立ち直れない。片思いの相手を亡くし自暴自棄になる。

砂浜を歩いていた大学生のイッキは、出会った奇妙な白塗りの男(ピエロ)に勧められて籤を引くと、いつのまにか見知らぬ地に立ち、「10の願い」を叶えることができるスターボードを手渡された。
なんでも叶えられるスタープレイヤーになったイッキ。それからは華屋を生き返らせる環境を作ることを、己の目標にした。
己の理想の世界を思い描き、異世界を駆け巡って行く。
先住民や来訪者、そしてどんな願いを叶えることのできるスタープレイヤーが共存する広大な異世界で、イッキが実行したことは・・・。