「クローズアップ現代」

6/2(火)19:30~19:56、
再放送6/2(火)25:00~25:26


No.3661
「増える原因不明死 ~死因解明が追いつかない~」


MC: 国谷裕子さん

出演者: 久保真一さん(福岡大学医学部医学科教授・日本法医学会理事)、他。


【NHK解説委員室 関係解説】
ここに注目! 「死因究明の法案 国会提出へ」(2012/04/19)
ここに注目! 「犯罪死の見逃しを防げ」(2011/07/27)


【その他の参考資料】

厚生労働省2015(H27)死亡診断書(死体検案書)記入マニュアル
 


「MT Pro」 乳幼児突然死症候群(SIDS)対策

 

【番組あらすじ】


 

年間120万人以上が亡くなる日本。
そのうちの「死因不明」の数は、犯罪に関わるものも含めて、この10年で3割増の17万件超、実に、亡くなる人の7人に1人の割合だ。

▼ 働き盛りの「突然死」
▼ 1人暮らし高齢者の「孤独死」
▼ 乳幼児の「不審死」
など、死因が不明な「異状死」の数が急増している。

ところが、その死因を究明しようにも解剖などを行う医師の数は、不足し、全国各地で深刻な事態を招いている。

NHKのアンケートからは「過酷な労働環境」や「大学の人員削減」など、解剖医を取り巻く厳しい現実が浮かび上がっている。
解剖は大学の医学部法医学分野の教官が主に担っているが、現場の負担が増えるばかりで
超人的に働かないと、今、やって行けない状況になっている。

今年に入って、
青森県では、唯1人の担当医師が、3月末で退任し一時解剖ができなくなる事態に陥った。
鳥取県でも、鳥取大法医学分野の医師が退任し影響が出始めている。

生命の最期の状況を明らかにすることは、亡くなった人の尊厳を守ることとされる。


和歌山県で唯一、解剖を行っている県立医科大学。
この日、警察によって男性の遺体が運び込まれて来た。執刀する近藤稔和教授は県内で唯一人の解剖医。
通常通りの生活をしていて突然亡くなった、亡くなったところを誰も見ていないと聞いている。
一人暮らしをしていた30代の男性。県警は事件性は無いと判断したが、死因を詳しく知りたいとの両親の希望によって解剖が行われるようになった。3H後、執刀を終えた近藤教授によれば、心臓による死と推定。その後、血液や諸臓器組織の精密検査によって、心筋梗塞に見られる急性の虚血性変化が認められた。

年間の約半数がこのような突然死が死因となった解剖。
この男性のように、詳しく調べないと死因が判定できない「異状死」が増えている。

今年4月、青森県で解剖が滞る事態が起こった。弘前大学大学院医学研究科では昨年度、二人居た解剖医が相次いで県外の大学へ転出した。大学では全国へ法医学講座教授候補の募集を掛けたが、応募は1人もなかった。(その後、幸いに1人を迎え入れることができた。)
なぜ、解剖医が集まらないのか? NHKでは全国の医学部が在る大学にアンケートを行ったところ、75%が不足しているとの回答。不足理由として、①休日もなく日々の大学の業務を行いながら執刀もしなければならない過酷な労働環境、②開業医と比べて1/3程の低収入、などが挙げられた。
県警では事件性が疑われる解剖すら滞った。隣県の岩手・秋田の大学に遺体を搬送したが受け入れは容易ではなかった。岩手医科大学の出羽厚二教授を訪ねると、その日は青森2件、岩手1件。責任感から全て引き受けているが負担は大きい。年間約150体を2人体制で行って来た。解剖だけで終わらず組織検査など時間を要するものもある。そこに青森まで入って来て、時間短縮となればやるべき検査をやれないと検査精度が低くなる可能性がある。

福岡大学・久保真一教授に話を聴く。
この10年間で亡くなる人数は3割増、法医学解剖の人数は7割増。福岡大学では10年前60人⇒昨年131人(福岡大学も増えたのに解剖医が居なくなった佐賀大学の分も引き受けた)。
原因不明死が増えた背景には、一人暮らし、病気の母を介護し疲れ切って心中、など。

「異状死」は、①犯罪、②事件性(犯罪かどうか不明)、③犯罪ではないに分類される。
①と②は解剖。
②と③のボーダーラインが難しくなって来ている。一人暮らしだと直ぐに病院へ搬送されない場合が多いので、③と判定し難くなり②が増える。つまり警察案件が増え解剖が増える。解剖医は大学教官の業務が圧迫される。

現状、「異状死」のうち死因究明されているのは11.2%に止まっている。
人口の規模に拘わらず県単位の大学認定という分布の問題(1県に1大学しかない県が在る)があり、認定制度の改革が必要。

国は、死因究明を推進する体制作りを進めて来たが、解剖率は先進国の中でも低いままだ。
多死社会を迎え、今後も増え続ける「異状死」にどう対応すれば良いのか? 課題と対策を考える。

スウェーデンの制度改革例
人口950万人。解剖医が100万人当たり5.4人(日本1.3人)。
死因究明を専門に行う法化学研究の行政機関が在り解剖率が9割。DNA鑑定・毒物検査の専門家を抱する。
過去には日本と同じく解剖医が不足し、忙しさの余り若い医師たちが長続きせず、悪循環を繰り返していた。
そこで6年前、スウェーデン政府は解剖医を増やす「法医学庁プロジェクト2008」を立ち上げた。
法務省--法医学庁(新設)--6つの地方支部。人員確保のため予算増額(3億円)、離職防止のため労働環境改善(就業時間20%を自由研究)。その結果、解剖医6年間で25%増。
中央で統括し、各地で同質対応によって死因究明の質を維持している。

日本の内閣府も検討に乗り出した。3年前に「死因究明等推進計画検討会」発足。
千葉大学・岩瀬博太郎教授たちは、死因究明を統括する組織(法務省・警察庁・厚労省・文科省が予算分担)を提案した。各大学の各法医学教室がバラバラに運営されていて、質もバラバラ、給与指針もない現状を抜本的に改善するため。
各省庁とも、現在の役割を超える支援は難しいと主張。
警察庁の意見・・・死因がはっきりしないものを全て警察がやって行くものではないだろう。
厚労省の意見・・・国として全部引き受けてしまうのは制度的に難しい。
結局、岩瀬教授らの提案は合意に至らず、2年間の話し合いは終了したため、内閣府は、新たな組織を作るのでなく地方毎に今の制度を使いながら議論を深められたいだった。<内閣府は制度改革する必要なしと考え、現状で工夫を話し合えと>
岩瀬教授は、「推進計画検討会」という名称で、日本政府も遂に乗り出してくれたか!!と解剖医の明るい将来を夢見て参加したけれど、今は逆に失望している。今のうちに手を打っておかないと、慢性的な人手不足から復活するのに相当な時間が掛かってしまうと、国の行先を心配している。

福岡大学・久保教授は、当面の考え方として、
警察庁は検視官を増やし臨場率を上げて犯罪者見逃しを避ける(偽装を食い止める)、厚労省はCT撮影経費を出す、などの改善となろうが、
人手不足の大学解剖医としては、①犯罪、②事件性(犯罪かどうか不明)の「異状死」の解剖、つまり警察庁案件に集中したいので、
③犯罪ではないの「異状死」は、家族が死因を調べてほしいと願い出たら必ずやってもらえるよう、厚労省と都道府県で新しい対応態勢を考えて欲しい、
と述べた。



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【参考資料】


■ 2015/03/18付け読売新聞報道

法医解剖、地方の人手不足がさらに深刻  ~警察庁目標に遠く、若手育成が課題

秋田県警が2014年に扱った明らかな病死や交通事故死などを除く「異状死」の遺体1564体のうち、法医解剖に回ったのは199体。すべて秋田大学の医師2人でこなしている。
解剖率12・7%は全国平均を上回っているものの、警察庁が掲げる目標には遠い。4月からは、法医がいなくなる青森県の分も一部代行することになっており、人手不足はますます深刻だ。
警察庁のまとめでは、14年に全国の警察が扱った異状死の遺体16万6353体のうち、解剖されたのは1万9392体で、平均の解剖率は11・7%。
近年は犯罪の多様化で自殺か他殺かの判別が難しいケースが増え、解剖の必要性が高まっていることもあり、同庁の有識者研究会は11年4月の段階で全国平均を20%にする方針を打ち出している。
東京23区や大阪市などには、専従の法医が解剖する「監察医制度」があるが、秋田県など制度のない地域では、大学の法医学講座の教授らが授業を持ちながら行う。
法医は全国に154人(2013年度)しかおらず、東北6県では各県に1~4人。
日本法医学会庶務委員長で和歌山県立医科大の近藤稔和教授は「外国の事例などを考えると、法医1人が行う解剖は年間50件くらいが理想」だが、遺体が見つかればすぐに対応しなければならない。
青森県では、弘前大の准教授が今月末で退職するため法医が不在になり、後任が決まるまで解剖が必要な遺体は秋田大や岩手医科大で代行することになっている。
青森県では09年11月~11年3月にも法医不在となり、秋田大ではこの間、約100件を代行した。
一方、警察庁は犯罪死の見逃しを防ぐため、09年から法医学の専門教育を受けた検視官(警察官)を増員しており、遺体発見現場に立ち会う(臨場)機会も増えた。
警察庁によると、増員前の08年に全国平均14・1%だった臨場率は14年には72・3%に上昇。秋田県警でも13年に検視官が4人から6人に増員され、10年の22・1%から14年は74・4%に急上昇した。
ただ、検視官は主に遺体の外見や体温を観察して犯罪死かどうかを判断するため、例えば、薬物や毒物が投与されていたとしても外見に異常がなければ見落とすこともあり、解剖しなければ死因が判明しないケースがあるのも事実だ。
秋田大の美作みまさか宗太郎教授は「解剖で死因がわかることで、事件や事故の予防策を示せる。
勤務状況を改善して、人を救うだけでない医学の重要性を若い医師や医師を目指す人に伝えないと法医がいなくなる」と危機感を募らせている。
<法医解剖> 犯罪の疑いがある遺体の死因などを調べる司法解剖と、行き倒れなど犯罪性なしと判断された遺体について、伝染病予防といった公衆衛生上の目的、身元確認のために行う行政解剖がある。
2013年に施行された死因・身元調査法で、死因の究明が特に必要な場合は「新法解剖」も可能になった。いずれも遺族の承諾は不要。
行政解剖は東京、大阪など監察医制度のある地域で行われ、秋田県など制度のない地域で同様の解剖をする場合は遺族の承諾が必要(承諾解剖)。


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■ 2012/06/20付け札幌弁護士会所属・猪野亨弁護士さんのブログ

不審死と解剖~解剖医の不足を招いているものは?