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図書館でゲット。
伊坂幸太郎 (著) 長編小説 「ガソリン生活」
朝日新聞夕刊2011/11~12/12連載、
朝日新聞出版・単行本2013/3刊行。
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★ 伊坂氏が日頃、苦々しく感じ憂いでいる社会問題や心の闇に対し、
車の擬人化を交えながら、健全な家族が果敢かつコミカルに取り組む。
【参考】 私のブログリスト
伊坂氏に関する私のブログ(2010年以降)
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【あらすじ】
主人公は、仙台市内に住む望月一家の兄弟。
語り手は、「車」、所有している愛車は緑のマツダ・デミオ、愛称・緑(みど)デミ。
つまり、全編で仙台の街を走る車たちが擬人化され、然ながらピクサー=ディズニーの「Cars(カーズ)」の世界で描かれる。
望月家の構成は、母兄姉弟の四人家族で、大学生の長男・良夫は名前の通りのグッドマンのだが、ちょっと間が抜けている。
小学生探偵「コナン」君のように、まるで大人びた小5の末っ子次男・亨、凸凹コンビの望月兄弟。
二人は緑デミでお出掛け。ハンドルを握るのは、免許取り立ての良夫。亨は助手席に座り頭が良くって可愛気がない。
望月家が事件に巻き込まれ、そして乗り越えて行く様子の全てを観察している、緑デミの目線で「吾輩は猫である」のように語られて行く。
望月家は、凶悪なトガリ一味によって起こされた犯罪、亨のクラスメイトが性悪な悪い友だちから苛められる問題に巻き込まれる。
実のところ、日々、車同士は排出ガスの届く距離で会話していたのだ !!
緑デミは車同士の情報交換により、例えば、駐車場や赤信号で停止中に周囲の車と世間話をして、望月家以外の様々な情報も入手するのである。
だが、飽くまでも会話ができるだけであり、当たり前のことだが車は自らの意思によっては動けず、人の手に依らないと動けないし、人に語り掛けたり働き掛けたりすることはできない。
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元女優の荒木翠の不倫騒動と不審な事故死、凶暴なトガリ一味からの脅迫、苛めの影----様々な問題や事件が発生。
亨は、翠の事故死の真相を見抜き、苛め問題には冷静かつ超然と退治するなど、健全な一家は、それぞれの個性を発揮して解決に向かう。
事件の経過とともに子供たちも成長していたが、既に、語り手であった緑デミは売り払われていた !!
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【印象に残る、ウイットや示唆に富んだ箇所】
▼ 一般心理
p19
僕は不思議でならないんだけど、どうして家族に隠していることをツイッターで発信するんだろう。
そんなことまで? 世界に公開しているのか !
p107
だいたい人間も車も、一時の名誉・自己顕示欲のために軽率なことをすると、あとで、大いなる負担を強いられることになる。自慢話は危険を伴う。
p238
自分たちがトガリの言いなりだから、自分たちの言いなりになる誰かを見つけて安心したいんじゃないか。
人間の心理ってのは、そういうものらしいぞ。それに、中間管理職と呼ばれる会社員は、暴走しやすい。ボスから受けるストレスを、自分より弱い人間にぶつけたくなるからな。
p248
教師ってのは少し生徒に手を出しただけで、非難されるんだ。小学生の肩を叩いただけで、セクハラと言われる可能性もある。
細見氏はいつだって前向きだ。与えられた条件の中で、専守防衛に徹する作戦に辿り着いた。
自分からは手を出さない。ただ、守るための防具は身に着けているし、攻撃を受ければ、その反動で相手をひっくり返す技ならいくつも知っている。
▼ パパラッチの心理
p41
彼女の死体は、仙台市内の西部に通じるトンネル内で横転し、燃え上がった車の中から発見された。浮気相手が運転する車に乗っていた。
消防車が来るまでは燃え続けたが、写真週刊誌の記者は、救助を試みることもなく、ただ写真を撮っていた。
p51
ダイアナ妃さんの時も、カメラマンがいたんじゃなかったっけ。まさに、正真正銘、本場のパパラッチと呼べる人たちだったんじゃないかな。その人たちは罪に問われたのかい?
速度違反が分かれば、免停くらいにはなったんじゃないか。そんなもの? 因果関係が説明できないんじゃないか。カメラマンに追い回された人間が、全員、事故を起こすわけじゃない、ってことなんだろ。
そのカメラマンが仕事をしているのは、それを喜ぶ雑誌と、ゴシップを愉しむ人間がいるからだ。
p191-192
竜巻ではないけれど、ミスター・タンクローリーの血を引いているような、自分のことしか考えていない人間なんだ。自分の信号は全部、青になるべきだと考えているような。
僕はとっさに、「殺す」といった過激な言葉をわざと使う奴が嫌いと言っていたのを思い出した。他人を動揺させるために、強い表現を使うのはマスコミの得意とするところだと。
▼ 運転者の心理
p159-160
僕たち自家用車にとって生活の前提となるのは、人間は無茶な運転をするつもりはない、つまり、人間には常識や良識があるという点だ。
それが崩れてしまうと、もはや安心して走行できなくなる。それは人間にとって、明日も空気中に酸素があるという前提に近いかもしれない。
そいつが人間じゃなく車だったら、致命的な事故を起こす可能性があるという理由で、即刻、リコールだぞ。人間に車種や年式はないのだから、リコールといっても、その一人を回復するだけなのかもしれない。
p215-216
人間は二つのことを同時にできない。いや、正確に言えば二つのことを同時にはできるけれど、三つ目に出現した不意の出来事に対応できないのだ。
携帯電話で話しながら運転をしていると、横から飛び出してきた自転車には対応できない。そして重要なのは、自動車の運転では一瞬の見落としが致命的になるという点だ。
▼ 若者の心理
p57
思春期の別名、知ってる? 辞書に載ってるけど。「春機発動期」。ロボツトを発動させるような感じだよね。行け ! 「春機 !」。
p119-120
子供は目上に対して、まずは一目置くわけだ。『尊敬』と『信頼』を抱く。
それから少しずつ変わっていく。順番に言えば、『尊敬』→『信頼』→『反発』→『軽蔑』→『侮り』→『諦め』→『許容』→『同化』となるわけだ。
あれと同じだ。でかい駐車場にいると、新車のやつが少し優越感を浮かべている時があるだろ? 自分の設備を誇らしげに語って年式の古い車を小馬鹿にする。
p174-175
コンプレックスって劣等感っていう意味だと思っていたけれど、そうじゃないみたいだよ。ユングって人が言うには。
お金持ちでも、やたらお金のことに執着する人もいるみたい。お金にこだわるというか。それもコンプレックスというみたい。劣っているからコンプレックスがあるわけじゃないんだって。
きっと、こだわり、なんじゃないかな。お金にこだわっている人もいるだろうし、父親のことにこだわっている人もいるだろうし、それを全部コンプレックスって言うんだよ。
p192
中学生の時の同級生の男子を、数人で苛めた。その結果、死んだにもかかわらず、彼女は罰せられなかった。しかも、それを武勇伝のように披露していた。
あの女はこう言っていた。『苛めじゃなくて悪ふざけでしたと説明して、反省するふりをしたら楽勝だった。学校も責任取りたくないから、こっちの味方だったし』と。
p383
俺たちは運転手にアクセルを踏まれれば前に行くが、人間は前に行きたくても、自分で自分のアクセルを踏まないといけない。
決心するにも自分ひとりじゃ無理な場合があるわけだ。びびっている時はアクセルを踏む勇気がないからな。他人に後ろから押してもらいたい。
p385-386
三人でいるだけじゃつまらないから、別の誰かにちょっかいを出したくなる。アイディアがねえんだよ。
自分たちだけで遊ぶアイディアだよ。楽しい遊びが思いつかねえから、同じクラスの誰それを苛めようか、なんてなっちまう。完全にネタ切れだ。
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