NHKスペシャル(Nスペ)
「明治神宮 不思議の森 ~100年の大実験~」

5/7(木)深夜、再放送を観た。

NHK-G 初回放送5/2(土)21:00~21:49、再放送5/7(木)25:30~26:19




【概要】


 

東京に世にも不思議な森が残されている。
巨大都市・東京に、ポッカリと残された緑の秘境「明治神宮の杜(森)」。
神域として立ち入りが禁止され、100年に亘って守られて来た明治神宮の森は、100年がかりで人工的に作られた太古の原生林なのだ。
世界でも例を見ない秘密が隠されている。それは都市に広がる人工の原生林ということ。


3人の天才林学者が、10万本の樹木を使い、100年以上かけて原始の森を完成させるという壮大な大実験を始めた。
それから1世紀、高層ビルの中に、日本のどこにもない不思議な森が出来上がることになった。


この森の全貌を解明しようと、延べ140人もの植物学や動物学の研究者が集結し、初めて生物多様性の調査が行われた。
1本1本の樹木まで測定する詳細な調査の結果は、驚きの連続だった。
この調査によって、哺乳類のタヌキから、生態系の頂点に君臨する猛禽類・オオタカ、東京で絶滅したはずの生物たち、奇妙な粘菌まで------
3,000種近い動植物が記録され、森は命溢れる世界であることが確認された。




【独占密着取材】


学術調査「鎮座百年記念 第二次明治神宮境内総合調査」(※)に独占的に密着し、記録した映像。
その詳細な記録から100年に亘る壮大な森作りの大実験の結末。
生物の宝庫を特殊撮影を駆使して捉えた神秘的な映像とCGで描き出して行く。

ここに、100年前、本多静六博士とその弟子2人が設計した明治神宮の森の現在の姿と、博士が目指した永遠の森作りの全貌を紹介する。


(※)
日本学術会議公開シンポジウム「神宮の森・これまでとこれからの100年―鎮座百年記念・第二次明治神宮境内総合調査から―」(2013/12/12)

 





【あらすじ】


明治神宮の入り口は森に囲まれている。
解剖学者の養老孟司さんによると、ここは天道と人道の堺なのだ。
明治神宮の面積は約70ha、森は神域だとされている。
森にはクスノキやイヌシテなどの大木が生えている。


明治神宮の森、100年前の姿を紹介。
100年前は荒れ地のような場所になっており、森は荒れ地に作られた人工の森だった。
当時書かれた森作りの計画書が残されており、そこには理想とする森の記述がある。


日本を代表する植物や動物の研究者らが明治神宮に集結した。
調査に関わったのは総勢146人、明治神宮が鎮座100年を迎えるのを記念して特別に神域の森の調査が許可された。


*


明治神宮は、明治天皇と昭憲皇太后を祀るために1920年に創建された。
この時、鎮守の森も一緒に計画された。
この計画には、林学博士の本多静六とその弟子の上原敬二・本郷高徳が当たり、人の手が加わる前の東京にあった、アカガシやスダジイなど常緑広葉樹の森を目指した。
「杉林がふさわしい」とする時の総理大臣・大隈重信を説き伏せ、認めさせた。

東京駅が完成した1915年、森作りが始まった。
献木は全国から10万本に達し、延べ11万人の青年団が作業のために集まった。
樹木や資材は、原宿駅から専用線路を敷いて運び入れた。

先ず、痩(や)せた土地に強い松を植え、その間に広葉樹を植えた。
その後は、人が手を加えることはない。
成長の早い広葉樹に押され、針葉樹が消えて行き、150年後には常緑広葉樹が主役の原生林のような森になると本多博士は予言した。

 

植樹には6年の歳月を費やし、1920年10月1日、明治神宮は鎮座の日を迎えた。



*


調査団が、100年間、放って置かれた森に入った。

菌類班の細谷剛さんは、キノコの傘に生えたコゲイロサカヅキホウライタケに驚いた。
日本で3度目の発見だという。見つかったキノコは、150種類以上に及んだ。

一面に咲くカントウタンポポは、日本固有種。
森が壁になって、セイヨウタンポポの種子が飛んで来るのを防いでいた。

(カントウタンポポ)

(アカボシタツナミソウ)



水生生物班は、絶滅危惧種のミナミメダカを発見。
川口貴光さんは、「他所(よそ)から持って来たのではなく、本来、関東地方にいる生き物」と話す。
クロダハゼやモツゴなどもみられ、ブラックバスなどの外来魚は全くいなかった。

(アカツノカニムシ)
 

(カジカガエル)
 


昆虫班は日本蛾類学会の岸田さんを筆頭に調査、餌で蛾を引き寄せる作戦を立てた。
夜になると明かりを付けて虫を集め、カブトムシなどの整体を確認した。
切り株を見つけて皮は剥がす養老孟司さん。中には、コカブトムシがいた。

今回の調査では、タマムシやウラナミアカシジミ、トゲアリなどの絶滅危惧種や東京で初めて見つかったもの、新種まで3,000種もの生き物が発見されたのだ。

(トゲアリ)
 

参拝者に人気の「清正井」(きよまさのいど)の周辺にはタヌキなどの野生生物が暮らしていた。今回は複数の家族が住んでいることが初めて明らかになった。

(清正井)
 

(タヌキ)
 


過去3回の樹木調査で、直径10cm以上の樹木の総数は、一度増えたものの1970年には4分の3に減っていることが分かっている。
それが今回、さらに減っている。


明治神宮で落ち葉を「掃き屋さん」は、集めた落ち葉を捨てることなく、全て森の中に返している。
明治神宮宮司の中島精太郎さんは、「次の世代へ次の世代へのサイクルが、鎮守の森の大切な心だと思う」と話した。
落ち葉を返し続けた森の土には、ヒメミミズやトウキョウコシビロダンゴムシなど多様な土壌生物の存在が明らかになった。
タマゴタケ、ザラエノヒトヨタケ、100種以上の粘菌などの生育の様子を、早送り映像で紹介した。

  (掃き屋さん)
 
 (オオタカ)

 
(カワセミ)


明治神宮では1947年から毎月、参道で鳥の観察会が開かれ、その記録が残されている。
調査により、キジやホオジロなどは80年代に姿を消し、コゲラやオオタカが増えていることが分かっている。
川内博さんは、森林性のオオタカが都会に来ることは誰も予想していなかった。
繁殖までするようになったのは驚き。
森林度が深まっていると言えるのではないか」と話す。


今回の樹木調査で、100年前に半分以上あった針葉樹は1割以下に激減し、代わりに常緑広葉樹が3分の2を占めるようになったことが分かった。
樹木の数は、100年前に比べて約半分に減っていた。
しかし、過去の調査では皆無だった直径1m以上の常緑広葉樹が244本見つかった。
また、実生(木の赤ちゃん)が40万本も記録された。
本田たちの予言通り、自然に世代交代できる常緑広葉樹の森になっていたのだ。
しかし、一つだけ予想とは違っていたことがあった。
完成から150年と予想していた世代交代の森が、完成から100年の現在、既に出来上がっていたことだ。


養老孟司さんは、「鎮守の森の造営に関わった人たちは、東京がこれだけ変わるとは考えていなかったのではないか。でも、それだけ変わってもここは自分のルールで営んでいる。こういう森を今見ることができるのは幸せなこと」と話した。


100年の時を経て東京は、有数の大都市へと成長し、人が創り出した森は逆に原子へと帰って行った。
こうして世界のどこにもない森が出来上がった。
人の営みと野生の世界が隣り合う明治神宮。
今日もまた、森の一日が始まる。