東野圭吾・著 「虹を操る少年」


SFファンタジー・タッチの長編ミステリー小説。

刊行から約20年も経っているが、未読だったので図書館から借りて読んだ。


【感想】


■ 近年では、素材の光学技術はレーザーやLEDの発達によって当り前になっているが、
20年前の当時では、斬新な感覚で読まれたに違いない。流石、"理系男(リケダン)"(笑)の作家さん。


■ 本作の着想ヒントには、1990年代序盤の「オウム真理教」台頭に対する懸念があったように思う。


本作の主人公・光瑠(ヒカル)少年は、天才レベルで純な"光楽"による悩める若者相互間の新コミュニケーションを追求している。


一方、エセ秀才の麻原彰晃は、悩める人たちを食い物にして、邪教による"享楽"からテロリズムへのイニシエーションを追求した。
しかしそれは薬物を投与するなどの偽装の塊だった。
ここでもまた、大マスコミが持て囃(はや)したり認知度を後押ししたり、そして刺激された邪悪が跳ね上がったりする役目を果たしていた。


1990年、真理党を結成し衆議院議員総選挙に、麻原と上祐ら幹部信者24人が集団立候補し全員落選した。
派手なパフォーマンス(被り物・ソング・ダンス)など奇抜な活動や修行の様子などが雑誌・テレビで報道され知名度が上昇して行った。
1991年、山梨県上九一色村に進出開始。テレビ朝日「朝まで生テレビ!」にパネリストとして麻原・上祐・村井・杉浦が、幸福の科学幹部らと出演した。池田昭・島田裕巳などオウムに共鳴していた宗教学者も出演した。テレビ朝日「ビートたけしのTVタックル」に出演し、弄(いじ)くられたりした。
1993年、ライバルの幸福の科学の大川隆法などの暗殺を計画するも失敗した。山梨県上九一色村のサティアンにおいてサリンプラント建設を開始し、創価学会の池田大作をサリン襲撃する未遂事件を起こした。



*


実業之日本社・単行本1994年8月
講談社文庫1997年7月





【あらすじ】


主人公・白河光瑠(ミツル)は、極フツーのサラリーマン家庭に生まれ育った少年。
ところが彼は、幼少の頃より驚異的な色彩感覚を持っていて、成長とともにその才能は、学習能力に加え、光に関する特殊能力として現れた。


何色ものクレヨンを使って描いた冷蔵庫の絵は、100%と言っていいほど忠実に色を再現していた。


【・・・ 小学校高学年になると、光瑠は色を定量的に表現するようになった。「こっちは赤色が五パーセントに黄色が八パーセント、そっちは黄色が六に青が十五余分に入ってるね」。そして色に敏感である以上、光についても同様だった。光瑠はごくわずかな光でも感知する能力を持っていた。同じように空を見上げても、光瑠には自分たちよりも多くの星が見えているのだということを高行が知ったのは、光瑠が五年生の冬だった。・・・ 】(p48)


知能も並外れて高く学校内でも異彩を放っていた。どんなことでも一度聞けば内容を理解してしまい、教師からも疎(うと)まれるほどその学力は他を圧倒した。
そんな息子を当初は誇らしく思っていた両親:(父・高行、母・優美子)も、ミツルが成長するに連れ彼の存在を恐ろしく感じるようになった。


*


光瑠が高校生の頃に大きな異変が起きた。
毎晩深夜になると家を抜け出している。
そのことに気づいた両親がその後を追ってみると、そこには廃墟となった音楽ホールがあった。そこで彼は光と音による演奏会を行っていたのだ。

【・・・ 「光にメロディがあるの?」優美子が目を丸くした。「あるさ。みんな、そのことに気づいていないだけさ」「小学校の校舎の上で、僕は毎晩演奏を続けた。メッセージをこめてね。やがて光に気づいた者たちが、一人二人と僕のところへやってきた」・・・ 】(p99~100)

光を演奏することでメッセージを発信する。
苦悩する若者たちを導く光。操るのは高二の光瑠だった。
その美しい光の音色に魅せられた若者たちが、一人また一人と求めて光瑠の元に集まって来る。

【・・・ 高二の由香が不思議なコンサートの話をしているのを耳にしたのは、二週間ほど前のことだった。「コーガッカ?何、それ。授業の学科に関係あるわけ?」「何いってんの。違うよ。光をさあ、使ってえ、なんかやるんだって」「何をするの?」「演奏っていうか、コンサートっていうか、とにかく、すっごい奇麗なんだって」・・・ 】(p106)


光瑠は、光を演奏することでメッセージを発信、それを「光楽」と名づけた。
音楽に合わせ様々な光が点滅を繰り返す「光楽」に聴き入る。
彼の「光楽」に感応し集う若者たち。その影響力は絶大であった。
更に高い知識を活かし、独自に創作した光音を奏でる。
「光楽家」光瑠と同世代の若者たちは恍惚(こうこつ)としていた。

優秀な医者になるために受験勉強に励む高二の志野政史。
最近は集中力が長続きせずスランプに陥っていた。
彼も、そんな或る夜、不思議な光を見つけた。

【・・・ 本当に僕は変わったなあ、と政史は思うのだった。端的にいえば、怖いものがなくなった。あの光のおかげだ。白河光瑠と出会い、彼の演奏する光のシャワーを浴びるようになってから、薄紙をはぐように雑念が頭から取り除かれていった。光を見ている間は陶酔感に浸れ、魂が自分の肉体から離れてさらに高い次元に達するような感覚がある。自我超越とでもいうのだろうか。全身の神経がとぎすまされたように感じる。政史の成績は飛躍的に向上した。何をやってもうまくいくような気がしていた。・・・ 】(p109)

中一の小塚輝美。
彼女は、家庭問題を苦に自殺を考え、飛び降りようと真夜中にベランダに出た。
その時、彼女もまた不思議な光を見つけた。

現代の社会構造に疑問を抱き、それを破壊することを究極の目標とするニュータイプの暴走族「マスクド・バンダリズム」。
その一員である相馬功一は、或る夜、暗闇に点滅する不思議な光を見つける。
その光は、まるで「こっちへ来いよ」と囁(ささや)きかけているかのようだった。

若者たちは光楽に魅せられ虜(とりこ)になって行くのだった。
恰も麻薬にも似た陶酔性と不可思議な求心力・・・。

*


光楽を世に広めようとする人間たちが現れ、光瑠は、否が応にも活動の場所を広げることになる。
そして次第に、光楽の認知度が高まって行き、その人気は留まることを知らず社会現象と呼ばれるまでに成る。

【・・・ 光楽の本格的なコンサートは、最初の夜からとてつもない反響を呼び起こした。新聞は揃って取り上げ、「今世紀最後の芸術」だとか、「究極のアート」といった讃辞を送った。またコンサートに招待された文化人や芸能人は、その感動を競って述べた。テレビの特番も組まれた。視聴率ははね上がった。・・・ 】(p166)

体から発するオーラの色を読み取り、相手と意思疎通を図れる能力を備えた光瑠。
それは言葉に変わるコミュニケーション手段と言えまいか。

*


若者たちだけではなく、広く大人たちにもにも知られるようになり、
光瑠の特殊能力の大きさを知った大人たちは、看破できない光楽を恐れ始め排除しようと動き出すのだ。
魔の手が忍び寄る。


【・・・ 自分の息子の異状を、医者である父親がどうにもできないでいることに対する言い訳。『光楽害対策研究会』となっていた。この研究会は、近頃話題の光楽が子供たちに及ぼす悪影響について調べている、主婦を中心としたグループだということだ。会長の女性は頷いた。「それは間違いなく光楽害ですね」「疑似麻薬中毒症と呼んでいます」「とにかく光楽を断たせることです。ただ、麻薬と違って現時点で違法なものではないから、完璧に断ち切ることは不可能なんです。それをするには白河光瑠の活動を完全に停止させるしかないでしょう」・・・ 】(p208~211)


*

異変が起き出したのもこの頃からだった。
初期メンバーの光楽を楽しんでいた者たちに禁断症状が発生してしまった。


そして事件が起こる。
光瑠の演奏を妨害しようとして爆発騒ぎがあり人が死ぬ。
この団体の正体は・・・。

*


【ラスト部分の抜粋】

【・・・ 「僕が自分の特殊性にきづいたのは、三歳ぐらいの時だったと思う。自分以外の人間が、色について大雑把なとらえ方をしていることを不思議に思い始めたのが最初だった。 色だけじゃない」「光だよ」「誰もが全身から光を発している。それが僕には見えている。それを見れば、その人に関する情報が手にとるようにわかるんだ」「人の心も読めるのか?」「読んでほしければね」「テレパシーとは違うのか」「僕の場合、その人の身体から発せられる光を見ないとだめだ」「要するに、言葉と同じってことか?」「まさにその通りだよ」「言葉とは音声だ。それを光で行うだけさ」・・・ 】(p291~292)


【・・・ 遠くで何かが光っていた。光は功一たちを目指して近づいてくる。それはまるで大津波をスローモーションで見るような光景だった。しかもそれは光る津波だった。よく見ると光の下には人がいた。数え切れないほどの大勢の若者や子供たちが、目指しているのは、無論光瑠だろう。功一は光瑠に向かっていった。「見えるぜ、光瑠。俺にも光が見える」 光瑠はゆっくり両手を上げた。「すべてはこれから始まるんだ」 その瞬間彼の全身を光の輪が包んだ。その黄金色のオーラはまたたく間に膨れ上がり、若者たちが発する光と合体した。・・・ 】(p342~343)