芥川龍之介の中編「好色」


図書館から講談社の月刊文芸雑誌「群像」2014/10月号を借りて、
特集「変愛(へんあい)小説集 温故知新編」を読んだ。




○ 川端康成の「片腕」・・・私のブログ 「妖(あや)しき文豪怪談」#1川端康成「片腕」 感想
○ 芥川龍之介の「好色」
○ 泉鏡花の「外科室」
ほか2編の中短編が収録されていた。


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中でも、芥川龍之介の短編「好色」は、青空文庫として公開されて久しいが未読だった。

雑誌「改造」(1919~55年)の1921年10月号に掲載。
筑摩書房の全集本「現代日本文学大系43 芥川龍之介集」(1968年8月)に収録。
青空文庫1999年1月に公開。

 

芥川龍之介の中世王朝説話集・・・「宇治拾遺物語」「今昔物語」「十訓抄」・・・を底本とした中短編シリーズの一作。

「宇治拾遺(しゅうい)物語」
・・・成立時期は1213~21年説と1242年以後まもなく説がある。作者・編者は不明。
「今昔物語」
・・・成立時期は1120~1449年の白河法皇・鳥羽法皇による院政期。作者・編者は不明。
「十訓抄」(じっきんしょう、じっくんしょう)
・・・成立時期は1252年。作者・編者は不明。







主人公は、平好風(たいらのよしかぜ)の次男坊・平貞文であり、実在した有名人。
紀貫之・壬生忠岑・凡河内躬恒など「古今和歌集」撰者らと交流、中古三十六歌仙の一人。
色好みとしても有名で在原業平(桓武平氏の血統)と並び「在中」「平中」と称される程に好色男だった。業平の場合は「在原氏の五男坊であって中将」から。


平貞文[定文、たいらのさだふみ、通称・平中(へいちゅう)]
872年? に誕生。
桓武天皇の玄孫(孫の孫、やしゃご)に当たり、右中将・平好風の次男として生まれる。
874年、父・好風とともに平姓を賜与され臣籍(桓武平氏)。
891年、内舎人、右馬権少允・右兵衛少尉。
905~906年、「貞文家歌合」などの歌合せを3回以上主宰。「古今和歌集」(9首)をはじめ勅撰和歌集に計26首入集。歌物語「平中物語」の主人公。
906年、従五位下・外衛少将。その後、三河介・侍従・右馬助を歴任。
919年、左兵衛佐(主に武官)、922年、従五位上。
923年、三河権介。
923年9月27日に死去。


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父・平好風に三人の子があり、貞文は、その真ん中の子であるため "平中" と呼ばれていた。
平中は、色好(いろごの)みの男であり、女を口説く才能があって、
大概は、豊かな黒髪と福よかな(ふっくらとした)顔立ちの当節の美人。
二三通の手紙で口説き落とし、平中が惚(ほ)れている間はその女に人倫を絶した美人の姿を見い出し、次の女が現れると飽きてしまい乗り移るドンファン。
そうして、数多くの官女たちと浮名を流していた。


その平中がまた、例によって一目惚れした官女がいた。
彼女は侍従(律令制では男性の官職なので、侍従の娘または内侍)。
ところが今度ばかりは、惚れた女が真逆なのである。
髪は薄く顔も寂し過ぎる風といった様で、
周囲は平中が何故、惚れるか理解に苦しむ。
美女には飽きたという悟りに入ったというのだろうか? そんな筈はあるまい。


平中は平中で、自分が惚れてるのか惚れていないのか分からない心境にあった。
しかも、今度ばかりはどうにもならない。
何十通もの手紙を書いても一向に靡(なび)かない。


平中は、遂に、雨の中の夜這(よば)いを決行する。
しかし、失敗する。
侍従の部屋まで出向いたものの、侍従は巧くあしらって逃げた上に、部屋に閂(かんぬき)を掛けたため、平中は閉じ込められる始末。


手練手管、押しても引いても駄目。彼女の余りの連れ無さに、
とうとう平中は、この恋は諦めてしまおうか次に行こうかと思い始める。
だが、諦めようと思っても諦め切れない恋の定め。
それどころか、なかなか叶わないと思うと、尚更に募る恋しさ。
恋の病に苛(さいな)まれた平中は、このままでは狂い死んでしまうんじゃないかと、恐れ慄(おのの)く。


どうにかして侍従への思慕に区切りを着けたいと思案した平中は、やがて妙案(奇襲策)を思い付く。
今日的ストーキングの境地。
侍従の童(わらべ、下女)が、侍従の糞(まり、ウンコ)を筥(はこ、オマル)に入れて運んでいるのを目撃して、それを奪おうと心に決める。


変態性欲の極みかと思いきや、そうではなく(フツーの変態)、
いくら好いた惚れたの女性と雖(いえど)も、ウンコは臭くて醜いに違いない。
それを見てしまえば、やっぱり幻滅して百年の恋も醒め、踏ん切りが付く。
そう考えた平中は、愈々(いよいよ)、決行!


運んでいる童を襲い、オマルを奪い取る。
美化した侍従への妄想から脱出するため、平中が企てた起死回生の一手だった。
ところがところがである。


ああ、そこには何と芳しい香りを立ち昇らせて水に浮かぶ糞が在ったのだ!!
それを見た平中は、「侍従 ! 御身は私を殺したぁー!!」と叫び、ぱったと倒れて死んでしまった。
狂い死ぬ。。。


実は侍従は、平中の悪企みを察知し、筥には予め、糞に偽装した香木を入れていたのだった。




 
世の中には、馬鹿な男がいて逆恨みされることがありますので、DVなどで嫌いになったら、一切、接することができないよう最善策を尽くしましょう。