アースルーリンドの騎士外伝。『幼い頃』晩餐での冒険209

登場人物紹介

が、ローフィスが列の十人程向こうの一団を顎でしゃくり、そちらに目を移すとファントレイユとレイファスを見つけた。
ローフィスが隣のエリューデ婦人に挨拶をし、アイリスを促すのでアイリスはテテュスの手をそっと握る。
見上げるテテュスは、ローフィスの意向に気づいて尋ねる。
「みんなの所に行くの？」
アイリスは微笑むと、愛しい息子に屈んだ。
「ファントレイユやレイファスとも、踊りたいだろう？」
テテュスが笑みを満面に浮かべ、そう優しい声でささやく父親を見上げて、思い切り頷く。
アイリスは軽くエリューデ婦人に会釈をすると、テテュスを連れて列を、離れた。

ローフィスはシェイルの横に並ぶと、耳元にささやく。
「ギュンター相手に殺気立ってたな」
シェイルは罰が悪そうに義兄を見上げた。
「…仕方無いだろう？」
言って、隣のローランデにチラと視線をくべる。
ローフィスは思い切り吐息を吐くと、楽箏に合わせて皆が一斉に左拳を胸に、深い礼を取るのに反射的に合わせ、左拳を胸に引き上げ頭を垂れた。
テテュスとアイリスが向かいの列に加わるのに視線をくべてシェイルにつぶやく。
「テテュスを楽しませてやれ」
シェイルは時折アイリスを無邪気に見上げるテテュスをそっと見つめると、頷いた。

ゼイブンは連中が一斉に周囲に入って来るのに一気にむさい気分に襲われて、そっ。と、まだソファにアリシャと座っているセフィリアを盗み見てはため息を吐き、列の遙か向こうに、胸の開いたドレスの美女達がわんさか居るのを瞳に、また吐息を吐いた。
晩餐の舞踏の席でどうして男に、しかもよりによって近衛の体格のいい男達に囲まれて踊りなんか踊ってるのか、自分の境遇の情けなさに涙しそうで、救いの、隣で無邪気な微笑みを浮かべる可愛い息子、ファントレイユに出来るだけ視線を向けると、彼の踊りを導く事に徹した。

つづく。