オーガスタスは、肩をギュンターの胸の前に強引に入れ、飛びかかるのを塞ぐ。
ギュンターはオーガスタスのその先制の警告に、眉根を寄せて前を塞ぐ大柄な親友を、見上げ睨んだ。
ゼイブンは目を見開く。
そして隣のローランデにそっと、ささやいた。
「・・・飛びかかりそうだったのか?
そんなに、怒ってんのか?」
ディングレーがつぶやいた。
「喰い付かれないだけでも、感謝しろ」
だがローランデは、思い切りギュンターの態度に狼狽えるゼイブンに、唸った。
「私の合図を無視して女から離れないから、こうなったと、解って無いだろう?!」
だがゼイブンはローランデに振り向き、怒鳴った。
「今日は、息抜きだろう?
俺にだって、楽しむ権利がある筈だ!」
ギュンターがとうとう、オーガスタスの肩を押しどけて、怒鳴った。
「放任も大概にしろ!
ローランデが姿を現したら、息子の事だとどうして予測出来ない!」
ディングレーが顔を下げて吐息を吐き、オーガスタスが内心のうんざりした感情を殺して冷静に、告げた。
「ファントレイユが見つかったら好きなだけ、言い争え。
今はそんな場合じゃない」
ゼイブンは、その総大将の言葉に、慌てて怒鳴った。
「どうして消えたんだ?どうなってる!」
ディングレーが、体を開けて後ろの潜り戸を見せ、ローランデがゼイブンの腕を素早く掴むと、その中へ連れ込もうと進んだ。
ギュンターが途端、血相変えて怒鳴る。
「・・・おい!どうして一緒だ!」
ゼイブンはローランデに強引に引っ張られながら、食い尽きそうに追いすがるギュンターに振り向き、怒鳴る。
「俺の、意志じゃない!」
ギュンターはもっと歯を剥いて、怒鳴った。
「そこが問題だ!」
ディングレーが『何とかしなくて、いいのか?』とオーガスタスを見るが、オーガスタスはつぶやいた。
「ギュンターがあの狭い中で暴れられるか?」
ディングレーは、それはそうだが・・・。
と見ると、ローランデに連れ込まれて狭い入り口に頭を下げるゼイブンと、その後ろにやはり、思い切り身を屈めて入り込む、ギュンターの背を見て、言った。
「・・・あれだけ哀れだと、同情しか、沸かない」
オーガスタスがその、あまり感想を口にしない黒髪の大貴族を見つめた。
「ゼイブンか?」
訊ねられ、ディングレーは腕を組み、首を横に振った。
「相手にどれだけ袖にされ、罵られようが、格好良さを崩した事の無い男だろう?」
オーガスタスが、ため息まじりにささやいた。
「ギュンターか・・・・・・・・・・・・・・・」
つづく。

この連載を、始めから読む


ぽち。してね


こっちもね