テテュスがそっと、俯くファントレイユの横に付いて彼を気遣うように見つめる。気づいたファントレイユは少し、その表情の無い人形のような綺麗な顔を揺らす。
ゼイブンは皆の視線が自分に集まるのを感じたが、それで態度を変える彼では無かった。
「・・・お前の方が父親みたいだな」
レイファスに、彼の真似をして腕組みし、屈んでそう告げる。レイファスはゼイブンを見たが、彼よりうんと大きなふざけた美男を睨み付けて言った。
「・・・いつか、絶対後悔するからな!」
ゼイブンは肩をすくめた。
背を向けようとする彼に、レイファスがとうとう怒鳴る。
「ファントレイユに、ちゃんと会いたくて顔を見に来たと、言ってやれよ!」
オーガスタスはファントレイユの為に大人に喧嘩を売るレイファスを見て、つい苦笑した。ギュンターとローフィスはそんな彼を見やった。が、確かにレイファスの気持ちは解るものの、どうやら相手が悪すぎるようだ。
ゼイブンはレイファスに振り向き、再び小さな彼の前で身を屈め、そのファントレイユとそっくりなブルー・グレーの瞳を向けてぶっきら棒に告げた。
「ファントレイユはちゃんと俺の息子だと、解ってる」
レイファスがとうとう、噛みついた。
「だがあんたに愛されて無いと、しょげてるじゃないか!」
ゼイブンがその言葉に釣られて、ファントレイユを見た。テテュスとより添う彼は少女のように俯いていて、悲しげだった。
「・・・ファントレイユ」
ゼイブンの言葉で直ぐ顔を上げる彼は、どれだけ父親を慕ってるのかを、皆に教えた。
ゼイブンは真顔で言った。
「・・・俺の息子で居る事が、気に入ってるか?」
ファントレイユは即答した。
「うん!」
ゼイブンは鮮やかに笑うと、
「それで十分だ」
と、レイファスに振り向く。が、レイファスはそのふざけた男に怒鳴った。
「・・・あんたの気持ちを言ってやれと言ったんだ!」
だがゼイブンはレイファスを覗き込んで告げた。
「告白は女にするもので、息子にするもんじゃない。
こんな人の多い所で男相手に『愛してる』だなんて俺に、言えって?
例え息子だろうが男相手にそんな事を言うのは、絶対にごめんだ」
全員がそう言う父親に、思い切り呆れ果てた。
ローフィスと、アイリスのため息が聞こえた。
「男だけど、息子だろう?
私はテテュスに幾らでも言えるが・・・」
ゼイブンはそう言うアイリスを、顔を起こして見つめ、眉を寄せてつぶやいた。
「あんたは博愛主義で告白相手が男だろうが、気にしないだろうが俺は、気にするんだ」
ローフィスも、ギュンターの腹に布を巻きながらつぶやいた。
「親としてでも、言えないもんなのか?」
ゼイブンはぶすったれて言った。
「親としてだろうが、ファントレイユは男だからな。
幾らセフィリアに過保護にされて女みたいだろうが。俺から見たら立派な男だ」
ファントレイユはそう言われて、まるで一人前の男扱いされたように嬉しそうに微笑んだりしたから、テテュスは目を、ぱちくりさせた。