アースルーリンド外伝。テテュス編。『幼い頃』 122 | 「アースルーリンドの騎士」

「アースルーリンドの騎士」

オリジナル  で ファンタジー の BL系小説。
そしてオリジナルのイラストブログ。
ストーリーは完全オリジナルのキャラ突っ走り型冒険ファンタジーです。
時折下ネタ、BLネタ入るので、年少の方はお控え願います。

シェイルはその猛獣に間を空けると、笑って左手に握る二本の短剣を順に軽く上に放り投げて、一本ずつその手で受けた。ギュンターはまだ、眉を寄せていた。両刀使いと変わらない上に、もう片手から繰り出されているのは、距離を置いても牙を剥く短剣だった。
ギュンターがシェイルを睨み据えたまま、さっと左手で脇差しを引き抜く。その短い剣は、ローランデも使っていたが短く軽く、短剣をはたき落とす用の剣だと解った。
が、シェイルは短剣を握る左手を後ろに隠し、剣筋を読ませない。
ギュンターはざっ!と足を開き長剣を後ろに構え、左肩を前に出す。先に短剣が飛ぶと判断した構えで、左の剣で叩き落とす気だ。
ファントレイユもレイファスも、思わず息を飲んだ。
二人は明らかに、本気だったからだ。
シェイルは、笑った。
そして再びそのギュンターからは小柄に見える体を更に屈めて、突進する。
早い・・・。
だが・・・シェイルはその短剣を、走りながら右手に向かって放る。右手で短剣を受け止め、右の剣はいつの間にか左に握られ、その魔法のような一瞬の交換に皆が見とれ様、ざっ!
左から飛ぶ短剣を警戒していたギュンターは、腹を狙う短剣がシェイルの右手から走るのを、見た。
一瞬、ギュンターの判断が、遅れた。
剣で叩こうかと、迷った隙にもうその短剣は、腹へと入って行った。
テテュスは目を、閉じそうだった。
ギュンターの腹にそれが、刺さったと思ったがギュンターは咄嗟に体を横向けてそれを避けた。
皆が一斉にそのギュンターの素早さにほっとする。が・・・よく見ると腹の衣服が裂けてる。
避けたギュンターにシェイルは突っ込んで行った。
体勢の崩れたギュンターの、胴はガラ空きで、長剣を突き刺す勢いでシェイルは脇を閉めて剣を真っ直ぐ付き出し突っ込み、ギュンターは僅かに避け、皆に背を向けた途端それを、受けた。
シェイルの体が、背を向けたギュンターの懐深く入ってその体に隠れた瞬間、ギュンターの背が一瞬、びくん!と大きく震えた。
全員が思わず吐く息を止め、ディングレーがつい、走り寄り掛けて、足を止めてるオーガスタスとローランデに、振り向く。
アイリスはそっとローランデを見つめ、その判定を待った。
「・・・くそ!俺をローランデの寝室に入れたくないなしても、やりすぎだ!」
ギュンターが叫ぶ。シェイルは顔色も変えずにギュンターの腹から顔を、起こす。
その手に握る剣を下げるが切っ先に僅かに血が滴り、ギュンターが体を捻ると、彼は真っ直ぐ上に突き立てた左の剣を握っていた。が、その刃の奥の腹はやはり裂けたように衣服が破れ、その隙間から微かに血が滴るのを皆が見たが、掠り傷なのは明白だった。
ほっと安堵の吐息を一斉に、洩らす。
「・・・突っ込んで来る瞬間、腹の前に剣を突っ立てシェイルの剣筋を、変えて腹を庇ったのか?」
ディングレーがささやき、ローランデは頷きながら困ったようにシェイルを、見た。
が、当のシェイルはギュンターの腹の、破れた衣服から覗く掠り傷を見て、落胆して怒鳴った。
「・・・短剣が、一本も当たらない!」
シェイルのぶつくさ声にギュンターはかんかんだった。
「腹に付けた傷で我慢しろ!」
「それだって、避けやがったじゃないか!」
「避けるだろう!普通!じゃなきゃ・・・!」
「重体だな・・・間違いなく」
皆が後ろからのその声に、一斉に、振り向く。
見ると、ローフィスが項垂れきって、たたずんでいた。つい、シェイルがその姿に呆けてつぶやいた。
「・・・ローフィス・・・・・・・・・」
ローフィスの横に居る人物を見つけて、ファントレイユが嬉しそうに、叫んだ。
「ゼイブン!」
ゼイブンはファントレイユを見たが、訊ねた。
「・・・お前達の剣の、講習じゃ、ないのか?
どうして決闘してるんだ?」
全員、そのゼイブンの言葉に思わず、下を向いた。
つづく。