アースルーリンド外伝。テテュス編。『幼い頃』 120 | 「アースルーリンドの騎士」

「アースルーリンドの騎士」

オリジナル  で ファンタジー の BL系小説。
そしてオリジナルのイラストブログ。
ストーリーは完全オリジナルのキャラ突っ走り型冒険ファンタジーです。
時折下ネタ、BLネタ入るので、年少の方はお控え願います。

ディングレーは剣を持つ腕を下げ、握られた右手首に一瞬視線を落とし、オーガスタスを真正面から睨んで怒鳴った。
「いい加減、放せ!」
オーガスタスは彼の手首を掴んだまま、やっぱり笑った。
子供達は目を、見開いた。
その大らかな笑いはまるでディングレーを気遣うようで、真っ直ぐな気性のディングレーをとても大切にしている様に、見えたからだ。そういう男は、死ぬべきでは無いと言うような。
ディングレーはファントレイユ相手に剣が振れるか?と言ったけれど、オーガスタスもそうみたいに。
テテュスもファントレイユもレイファスも、年下の駄々っ子を思いやるみたいなおおらかなオーガスタスの笑顔に、つい魅入った。
けどディングレーはぷんぷん怒り、ギュンターは思わず肩を、すくめた。
「ギュンター」
ローランデに呼ばれて、彼は反射的に振り向く。
その表情が、二人切りの時に恋人に名を呼ばれたような親しげな甘い表情で、皆がつい一瞬、その彼の甘い美貌を一斉に凝視した。
ローランデは男らしい輝きを放つ美貌を見せるギュンターを、困ったように見つめてつぶやいた。
「・・・レイファスの相手をしてくれるか?」
ギュンターは、ああ・・・。と思い出すようにその少し甘く隙のある表情を厳しく引き締め、彼の愛する端正で優しげなローランデの俯く表情を見つめ、その言葉に従ってレイファスに視線を移し、頷いて促した。
途端、レイファスは落胆を隠す彼に同情を寄せたものの、つい俯くと、ため息を、吐く。
ディングレーとオーガスタスが譲った場に立つと、ギュンターはレイファスを待つ。
「レイファス」
レイファスは進み出ようとして、ローランデに呼び止められて振り向く。
「短剣を使っていい」
レイファスは頷き様つい、ローランデの横に立つシェイルに視線を移す。銀の髪に被われたその見惚れる程の美貌の、だが射るような大きな緑の瞳をきっちり向けたレイファスのその指導者は、彼に向かって低い声で怒鳴った。
「・・・絶対!遠慮するな」
レイファスは、シェイルのその気合いの入り方につい、青く成って頷いた。
ギュンターは剣を下げて持つが、うんと小柄なレイファスは前に出るなりギュンターに横向き、右肩を突き出して右に握る剣を後ろに隠し、体を捻って剣をいきなり横から振り入れた。
ギュンターは、腰の辺りに小枝がいきなり弾かれて飛んで来たようなその剣を避けると、次の瞬間、間髪入れずレイファスの左手から放たれた、襲いかかる短剣を顔を振って避ける。
ほんの僅かでも避け損ねていたら、確実に顔を傷つけていて、テテュスもファントレイユもつい、その鋭さにぞっとしたが、シェイルは駄目だと言うように腕組みして唸った。
「・・・掠り傷くらい、作れないのか?」
ファントレイユはその辛口の評価につい俯き、テテュスは動揺して顔を揺らした。
続いてレイファスが突っ込んで剣を腹に突きつけるのを避け、ギュンターはまた短剣を警戒したがレイファスの剣は直ぐに横に振られ、ギュンターの腹を立て続けに、襲う。
「身長が全然足りないから、腹しか狙えないか・・・」
シェイルが言い、だがレイファスの剣捌きは素晴らしく器用だと、ファントレイユもテテュスも思った。
軽いんだろうが、切り返しが早い。彼の頭の回転の早さ同様に、素早く切り返しながらギュンターの隙めがけて次々に突いて出る。
ギュンターは相手が小さ過ぎて、それは手こずっていた。幾度か、剣を振るより足で蹴ろうとむずむずしてるのを皆が、感じる。
ディングレーがそれを見て、たっぷり頷いた。
「覚えておく。あんたもギュンターも、剣だけで戦う気が無いって事を」
オーガスタスが肩を揺らした。
「・・・まあ、次のお前との対戦が無いのを祈ろう。
同じ手が通じる程、甘くないしな」
ディングレーがその賞賛にそれでも上目使いで、思い切りオーガスタスを睨んだ。
「・・・根に持ってるな・・・」
その様子にオーガスタスはぼそりと、つぶやくように隣のアイリスに告げる。が、アイリスはディングレーを庇った。
「当然だと思う。彼としては、遊ばれたとしか取りようが無いだろうし」
オーガスタスはだが、肩をすくめた。
「こんな真っ直ぐな気性の激しい男と、真正面から斬り合うのはごめんだ。俺だって自分の腕が、可愛い」
アイリスが呆然と彼を見つめてささやいた。
「君でも、彼の剣を受けるのは、しんどいのか?」
オーガスタスは肩を、すくめた。
「・・・ずしんと来るし、腕だけで無く肩も腿にも、来るからな。打ち合い続けるなんて、問題外だ。捌けるんなら、拳を使うさ」
アイリスも思い描いて吐息を吐いた。
「・・・ごもっともな意見だ」
ディングレーが大きなオーガスタスを、呆けて見上げた。
「あんた程の力持ちが、俺の剣が重いって言ってんのか?・・・マジで?」
ローランデがそっと、ディングレーにつぶやいた。
「一番打ち合って耐久性があるのは、多分君かギュンターだろうね」
ディングレーが自分より頭一つでかいオーガスタスを指さした。
「あっちが上じゃないのか?」
シェイルもローランデを見たが、ファントレイユとテテュスも見つめた。
ローランデは戦ってる時とうってかわって、優しげに見えるその独特の色の髪を肩に背に流し、穏やかな青い瞳を、していた。
「オーガスタスは筋肉がしなやかだ。瞬発力に勝れているから、ヘタに打ち合って筋肉が硬くなると、彼本来の戦い方が出来なくなる」
皆がつい、感心したようにそう言うローランデを見つめた。
つづく。