直に子供達はにぎやかな食事を終えると、サルダンを中心に浅い小川に下っていった。
「・・・何するの?」
ファントレイユが靴を脱いで川に足をつける子供達に訊ねる。ザックが振り返って微笑んだ。
「魚を、釣るんだ!」
「釣れるのかい?」
アイリスが訊ねる。大層立派だし、大貴族様だと両親から聞かされているし、ザックは彼にそう聞かれて頬を染めて俯いて、もじったが、チビのデニーもヨハンセもロッテンも『大貴族』が、解って無かった。
「・・・サルダンは一番上手だ!」
両脇から遠慮無く、アイリスにまとわりついてその腕を、引く。
レイファスが、少し高い縁から川に降りようとするので、サルダンが気づいて手を、貸した。
レイファスはその手を借りて川に、飛び降り、微笑んで感謝した。
「ありがとう」
サルダンは彼の見た事の無い品の良さと綺麗で可愛い顔立ちに、ぼっ、と成り、デングに思い切り、こづかれて叩き返した。
ロッテンがテテュスの横に来ると、言った。
「この間、バターで焼いたんだ。凄く、美味しかった。今日もバターがあるよ!テテュスはラッキーだ!」
ロッテンがそう、心から微笑む。それはテテュスの、固く寒々とした心を、溶かした。
「そんなに、美味しかったの?」
テテュスが微笑むと、ロッテンは、うん!と微笑み返す。
ザックはファントレイユに棹を作り、釣り方を教えた。何度も、何度も彼の綺麗な顔を直視出来なくて、でもまた見つめながら。でもザックの落ち着きの無い様子にとうとうファントレイユが、聞いた。
「僕、そんなに珍しいの?」
皆がつい、彼に一斉に振り返り、次いでレイファスを見た。見つめられてレイファスは、びっくりした顔を、した。
誰が言う?と皆が顔を見回し、ヨハンセが口を開いた。
「だって女の子だってこんな綺麗な子はいないのに」
デングもつい、本音を洩らした。
「見た事無い」
ファントレイユはぶっきら棒に、言った。
「だから?」
皆が押し黙った。
サルダンが、つぶやいた。
「テテュスはちゃんと、育ちが良さそうだけど人間に、見えた」
レイファスが、笑った。
「でも僕、本当は凄く、やんちゃなんだ!
暴れるとでも、魚が逃げるんでしょう?」
言われて、ザックがつぶやいた。
「そうだけど・・・・・・。でもどうせ、デニーはいつも、じっとして居ない」
サルダンもぼやいた。
「ヨハンセもだ」
途端、レイファスはテテュスの腕を引く。
「ヨハンセが、鬼だ!」
叫ぶと一斉にデニーもデングも、ロッテンもが、ヨハンセから逃げ出した。
ヨハンセは、一瞬躊躇するファントレイユを標的にし、ファントレイユは慌てて、駆け出した。
テテュスはレイファスに手を引かれて駆け出す。
「ヨハンセ一人じゃ、相手の数が多すぎるよ!」
テテュスがぼやくと、レイファスはもっと笑った。
「じゃ、ファントレイユも鬼だ!」
いきなり鬼にされたファントレイユはレイファスを標的に、ムキになって追いかけ始めた。
アイリスは釣りをするザックとサルダンの横に、来た。
サルダンがぼやいた。
「あいつら、はしゃぎ回った後、僕らの釣った魚を凄く美味そうに喰うんだ」
ザックがそれを聞いて笑った。アイリスは微笑んで申し出た。
「・・・手伝うよ」
ファントレイユの放り出した棹を川から拾い、アイリスも彼らに並んで釣り糸を、垂れた。
「今、誰が鬼?!」
デングが、デニーがその気満々で近づくのを見、叫んだ。
ファントレイユが怒鳴った。
「レイファスと、デニーだ!」
「わぁぁぁぁぁ!」
デングが叫び、デニーに触られ、デニーは逃げ出すと叫んだ。
「デングが鬼だ!」
つづく。