さて。無謀です。校正きっちり済んでません。
見切り発進。
・・・ま、いっか。
幼い、頃
1 レイファスの言い分。
その日、レイファスはファントレイユの母親、セフィリアの出迎えを、受けた。
レイファスの母親は体調を崩して以来、病気がちになり、いいかと思えばまた悪く、療養地で過ごす事が殆どで、幼い彼は屋敷で乳母の手に預けられる事しばしばだった。
父親は彼の母にぞっこんだったので任務から帰ると、息子の相手もそこそこに療養地に、飛んで行く。
だが母親は息子を溺愛していて、療養地から帰るとその埋め合わせのように決まって、息子を抱きしめて離さなかった。
・・・だがとうとう、彼の母親の体調が悪化、姉、セフィリアに、息子の世話を頼み込んだのだ。
セフィリアは知的な美人で、女性にしては少し背が、高かった。・・・まあ、レイファスの母親は随分小柄なので、一般的には大きいとは、言い難いんだろうが。
彼女は五歳になったばかりの彼の手を握ると、部屋へと招き入れた。彼女の、心から労る感情が手から伝わり、今度ばかりは彼の母親は、もしかして命の危機すら迎えるかもと、セフィリアが心配している様子が、解った。自分もレイファスと同い年の、やはり赤ん坊の頃体の弱かった息子ファントレイユで、随分心を痛めたので。幼く心から愛している息子を残してこの世を去る事になったら、とても辛いだろうと、彼ら親子に心を寄せている様子に、レイファスは何も言えなかった。
部屋の戸口から、ファントレイユが姿を、現した。母親から事情を聞いているのか、いつも人形のように大人しい彼はやはりとても静かに、心配そうな表情を浮かべて迎え入れた。
レイファスは顔を上げて、頷いてみせた。ファントレイユはあどけないピンクの唇を、ほんの少し開いた。少女のような容貌だと、余所の人には言われていたが、レイファスはそうは思わなかった。あまり感情を出さない彼は、性別を超えて、とても綺麗な人形のように見えた。
自分のくっきりとした青紫の瞳や、明るい色のはっきりとした鮮やかな栗毛と違って、本当に淡い色のブルーの瞳で、髪の色も、淡い栗色にグレーがかっていて、彼がすました顔なんてするとその淡い色の髪や瞳の印象で人間離れして見え、どこか人外の者のように神秘めいて見えた。
彼はいつも決まって母親の前でそれは、大人しかった。その時も、セフィリアが気遣う言葉を彼に投げかけている間じっと、していた。
知ってる癖に・・・。レイファスは軽く彼を睨んで思ったが、彼が母親を遮る事は無さそうだったので、レイファスは少し、あくびをかみ殺す様子を、して見せた。
途端、セフィリアの言葉の内容が変わった。
「・・・とても、疲れているのね?」
レイファスは頷き、言った。
「いつもみたいに、ファントレイユの部屋に、行って、いい?」
セフィリアは彼に屈んだ。
「・・・でも今度は、長く泊まるから、貴方の部屋を用意させたのよ?」
だがレイファスは聞く気は、無かった。とても悲しそうな顔をして、つぶやいた。
「でも僕、この屋敷ではファントレイユの部屋が一番、落ち着くんだ」
セフィリアは直ぐに、折れた。
そのいたいけな、病気の母親と離れて心細い気の毒な少年の気持ちを、気遣ったのだ。
「・・・いいわ。彼と一緒に、いらっしゃい。後で、夜食を届けさせるから」
レイファスは、頷いた。一刻も早くこの、息詰まる気遣いから、解放されたくて、自分の部屋に促すファントレイユの、後に付いて行った。
部屋に入るなり、ファントレイユはやはり、気遣う様子を見せ、レイファスはつい、胸の内を、晒した。
「よしてくれ。君の母親がそれは大事だと大袈裟に君に言って、君は母親のいい子ちゃんだから、同じように僕に、同情してるんだろうけど」
あんな風に気遣われるなんて、うんざりだという顔を、でもファントレイユは、強がりなのかどうか、気遣う表情を崩さず伺ったので、レイファスは続けた。
「家の乳母と対決しなくて良くなったと思ったら、今度はセフィリアだ。君が唯一の息抜きなのに。
味方になってくれないのか?」
ピンクがかった肌に赤い唇をして、くっきりとした青紫の瞳も、鮮やかな栗毛もそれは綺麗で、とても可愛らしいレイファスの唇からそれが漏れても、ファントレイユはまだ少し、眉を寄せて心配げだった。
レイファスはとうとう、タメ息を、付いた。
「・・・アリシャは親父が面倒見てるし、僕は僕の面倒を、見なくっちゃいけない。セフィリアと来たら、女の子と君を絶対!間違えてる。僕の所のアリシャもそうだけど、セフィリア程管理がきつくないぞ!」
ファントレイユはようやく、ほっとした表情を、見せた。
「だって・・・彼女は僕が、噴水を浴びただけでも、熱を出すと思ってる」
レイファスはさっさと寝台に座ると、ファントレイユも横に座った。レイファスは彼の、真っ白な肌のとても綺麗な横顔を眺めて、肩をすくめた。
三歳の夏の事だった。やっぱりここに、母親アリシャと遊びに来ていて、暑かったしファントレイユに、水浴びしようと誘った。庭の中央の噴水が盛大に水を、吹き出していたので。
彼はさっさと服を脱いで水に浸かるが、ファントレイユと来たら、ぐずってた。で、つい彼は、ファントレイユの腕を掴んで引っ張り込んだ。彼は服毎ずぶ濡れになって、その後、仕返しに水をかけてきたから、その仕返しを、した。が直ぐにセフィリアが、飛んできて、ファントレイユを連れ去り、彼を着替えさせて髪を必死で、拭いていた。
「真夏なのに」
レイファスがぼそりと言うと、ファントレイユも、肩をすくめた。
「でもセフィリアは僕が熱を出したらと、それは必死だったんだ」
つづく。