扉が開くと、一斉だった。
やんやの大騒ぎで、ファントレイユはいつもグエンが、彼らにウケのいい事をする度にこの騒ぎを目にしたのを、思い出していた。
が、テテュスが長身グエンの後ろから姿を現すと、ファントレイユは一気に彼の前へと、飛んで行く。
心配げなファントレイユの顔を見て、テテュスは胸を、傷める表情を浮かべて顔を、傾けた。
「ファントレイユ」
「・・・・・・無事で、良かった!」
言って、彼は大事ないとこを、抱きしめた。
と、言ってもテテュスの方が大柄だったから、テテュスの胸に顔を埋めた。と言った方が的確だったかもしれない。
だが野次馬達は一斉に、ブーイングを始めた。
ギデオンは、他にも客が、居るのにな、と思い、この騒ぎに顔をしかめる数人の、彼らから離れた椅子に座る男達を、チラリと、見た。
「・・・冗談だろう?テテュスが無事だなんて!」
「間違いなく、やったんだろう?今度こそは!」
全員が、グエン=ドルフを、凝視した。
グエンは暫く、ファントレイユを抱くテテュスの、心配かけて悪かったという様子を眺めていたが、ほっ、と吐息を吐いてかつての悪友どもに、顔を上げて唸った。
「・・・まさか、賭けてたんじゃ、ないよな?」
一人が、叫ぶ。
「賭けて、無いわけ、無いじゃないか!!!」
グエンはうんざりしたように、言った。
「どっちなんだ」
「やっちまったんなら、俺の一人勝ちだ」
グエンは思い切り、肩をすくめた。
「ネイサン。俺の部屋に、ドスキュルの特級酒がある」
「勿論、頂く」
だがその他の野次馬達は、グエンの首尾に気づいた様子で、一斉に落胆のため息を吐いて、俯いた。
ネイサンの、まだ尋ねる顔に、とうとうグエンが、怒鳴った。
「いい加減、察しろ!!!」
だがネイサンは泣きそうな顔を、見せた。
「頼む!俺が勝ったと、言ってくれ!!!」
グエンは怒鳴り返した。
「・・・俺だってどれだけお前が勝ったぞと、言ってやりたいか解らないか?!!」
だがネイサンは引き下がらなかった。
「そんなにしたいんなら、手伝ってやる。今からだって全然遅くないぞ!」
引こうとしないネイサンに、皆が一斉に、呆れ顔を、向ける。
「・・・ファントレイユはどうする?縛り上げるのか?」
ターレフに聞かれ、ネイサンは言った。
「縛るんなら直ぐ口を塞がないと。あいつにしゃべられると、そりゃあ落ち込む言葉を山程投げつけられるからな」
ランクがつぶやいた。
「・・・きっちり、本気だな」
「グエン。お前だって本気なんだろう?!」
ネイサンのフリに、グエンは言葉を、詰まらせた。
イーライが、グエンの様子にネイサンを諭す。
「いい加減、察してやれ。あいつ、本気過ぎて手が出せないんだ」
が、隣の男は怒鳴った。
「・・・違うだろう?テテュスを犯そうとする度、父親のアイリスの、一見優雅なそれは恐ろしい顔がチラついて、怖くて手が、出せないんだ」
「じゃ、なくて!テテュス相手に迂闊にキス以上の事をしようとしたら、格闘になるからだ」
全員、色々な意見を捲し立て、ギデオンは呆れて頬杖ついて、見物に徹した。
「・・・グエンが本気なら、とっくだろう?」
「だから!本気以上の本気だからだ!」
「アイリスが怖いに決まってる!あいつ、呼び出されたんだろう?自分の息子に悪さしそうな奴は、呼び出しを喰らうんだぞ!」
ギデオンが見ていると、グエンは騒ぎを静めようとせずに、部屋を出て行った。
暫くは、怒鳴りあいが続き、テテュスとファントレイユがそれを聞いているギデオンの横に来た。
ギデオンが、テテュスを見上げて告げた。
「テテュス。私はまた、グエン=ドルフはファントレイユを口説きたいんだとばかり、思ってた」
テテュスはそれは、暖かに笑った。
「でもそれは、そうかも知れない。私の手前、絶対ファントレイユに、手なんか出せないし、出させないからね」
ギデオンは、やっぱり?とテテュスを見、ファントレイユを見たがファントレイユは、肩をすくめただけだった。ファントレイユはそっと、隣のテテュスに尋ねた。
「で?あいつ何て言ったんだ?」
「私の事が、好きだって」
テテュスが優しげな顔でさりげなく言い、ギデオンは目を見開いて、ファントレイユを、見た。
だろう?と言うファントレイユの顔を見て、ギデオンはテテュスに、聞いた。
「君は何と、答えたんだ?」
「私も、好きだって言った」
どこか、ヘンか?と、いう顔でテテュスが言う。
ギデオンの瞳が、もっとまん丸になった。
「・・・つまり、告白しあったのか?」
テテュスは、笑った。
「だってそれを言うなら、私はファントレイユは勿論の事、ギデオン。君の事もとても、好きだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。君の好きは、そういう意味か?」
テテュスは、驚いたようにギデオンに、聞いた。
「他に、あるのか?」
ファントレイユがつぶやいた。
「間違いなく、グエンの意図する好きとは違うとは、思う。で、乱暴はされなかった?」
テテュスは困ったように、肩をすくめた。
「それは無いが、犯罪者に、されかけた」
つい、意味を計りかねて、ギデオンとファントレイユは顔を、合わせた。
つづく。