好きなことと得意なこと | WAS IT ALL WORTH IT ?

昔、あるお客様に、


「人の家を設計したりつくっている時に、『自分だったらこうしたい!』っていう気持ちに

なることありませんか?」


と、聞かれたことがありました。


その時は、周りにいろいろな人がいたし、お酒も入っていたので、長く話す余裕もなく、


「ないですよ。」


と、答えただけで終わってしまいました。


設計屋さんは設計が好きで、建築が好きで、この仕事をしている人が多いので、

人の家であるにもかかわらず、設計屋さん自身の好みをお客様に押し付けてくることが

多いというのは、よく聞きます。

もしかしたら、この方も、そのあたりのことを聞きたかったのかも?・・・・と、思ったのですが、

酩酊状態で難しい話はできなかった・・・・その時の私でありました。


私の場合はどうかというと・・・・結論から言ってしまうと、「設計が好きでも嫌いでもない」人間

ですので、お客様がお金を出して建てられる家は、お客様の好きなように建築していただきたい

ですし、そこに設計者が好みを押しつけるなどというのは、余計なお世話以外の何物でもない。


・・・・という考えで、この仕事をしています。


個人的に常々思うのですが、


「人間は好きなことを仕事に選ぶと必ず失敗する。」


「好きなことは、仕事ではなく、もはや道楽に近く・・・・自分のしていることを客観的に見ること

すらできなくなる恐れがある。」


・・・・ので、


「好きなことではなく、得意なことを仕事に選ぶべき。」


・・・という考えを持っています。


ごく稀に、「好きなこと」と「得意なこと」が一致するとても幸福な方もいる。

しかし、それは、本当に才能のある方の話であって・・・・私のような凡人は、

「好きなこと」=「得意なこと」というわけには、いきませんでした。



設計の仕事は、私の場合、間違いなく「好きではないけど得意なこと」です。


もともと大学も文系でしたが、まだ建築のケの字もわからん時期に、

なんでかさっぱしわかりませんが、いきなり設計図が理解できた。

でもって、なぜか設計図が短期間で作成出来た。


当時、務めて始めた設計事務所の本棚にある過去の設計図書や設計資料を見ると、

別に建築のことを勉強したわけでもなかったのに、何故か理解できて、どんどん設計図が

作成出来てしまった・・・・もちろん、間違いもありましたが、先輩に指摘される箇所は少なく、

設計図の作成・・・・という意味では、苦労した記憶がありません。



小学校の頃、こんなこともありました。

私の母親が刈谷市出身であったため、親に連れられてよく刈谷市に行きました。


ある日、外が真っ暗な夜、車の窓から外を見ていたら、暗い夜空に赤い光がいくつも

見えていた。


「依佐美の鉄塔がよく見えるなあ。」


と、父が言った。


夜空に、それも高い所にいくつも見える赤色灯・・・・正直、怖かった。

子供の目には、その夜空は、異常な光景に写ったのです。


 依佐美の鉄塔(愛知県刈谷市)


少し大きくなって、この鉄塔は8本あって、高さが250mくらいあって、戦争中、

海外に電波を(軍事用として)飛ばしていたということを聞いた。


その時、親が言った。


「あの鉄塔の根元・・・・球で、できとるんだぞ。」


この話を聞いた時、子供のくせに「なるほど!」と、ひどく感心した記憶があります。


構造力学的な感覚で、


「球で、できているから、あんな細長い形で建っていられるわけね。」


・・・・というのも、理解できた。



親のDNAかもしれませんが・・・・建築は好きではないですが(嫌いでもないですが)、

知らず知らずのうちに、設計屋さん的な頭の動かし方を、子供の頃からしていたのかも

しれません・・・・。



好きなことではないので、「建築オタク」にもなれず・・・・こうしてクールな気持ちで、

今の仕事ができているのかもしれません。



でも、世の中の人は、ほとんどがそうだと思います。


道楽半分で仕事をしたら、お客様にも、家族にも・・・・迷惑掛けますからね・・・・。