壊れた森の壊れた家で
怒り、争い、狡さ、欲、その他もろもろ・・・
この世の醜いものすべてをカードにして
テーブルに並べてシャッフルしてから
私はケルト十字を作り 自分の未来を占った
自分を正当化すること
正しさは常に揺らいでいる
不平等はこの世の常
無理解は残酷に人を切り裂く
欲が理性を超え他者の聖域を侵害する
それを私は無表情で聞いていた。
叫ぶ声は誰にも届かない。
夜は恐怖。夜は狂気。
私の左脚を這いまわる穢れ
私の背筋は凍りつく。
お母さんは自分だけが可哀そうなヒロインで、
お父さんはそれは自分の仕事ではないと思ってる。
お兄ちゃんは行き過ぎた悪戯で憂さを晴らし、
妹はいつもあかんべーをして逃げていく。
祖母は自由になる口で不平と命令と批判を印刷し続け、
祖父は優しい笑顔の下で別の顔を飼っていた。
そいつは言った。
「おまえはいい子で可愛い」と。
私には何も分からない。
いい子にしてたら、神様から好かれると思ってたのに。
いい子にしてたら、お父さんもお母さんも私を見てくれると思ったのに。
今私をいい子で可愛いと言うのは、おぞましい悪魔だけ。
誰も私を助けない。誰もここに来てくれない。
小さくて無力な私はただ黙って、布団の一番右端で、体を固くして、
お日様が来るのを待つ。
愛とは何か、愛とは何か、
この世で一番大切なのは愛
だけど誰も愛を見たことがない。
ねえ愛、私はあなたが知らないことを知っている。
そう、私は知っているの。
いい子にしてると、何が起きるか
ねえ愛、知ってる?
すごく怖いときも、すごく悲しいときも、涙は出ない
愛という名のまがいものを
いくつもいくつも重ねた後で
それらを全部ぶっ壊して、私は高い塔の中の長い階段を上り始めた。
その階段は壁に沿って作られた螺旋階段
私は窓の外に同じような景色を繰り返し眺めながら、進む。
塔はとても大きくて、一周にはすごく時間が掛かった。
だから、どれほど歩いても、少しも空に近づけない。
誰も助けてくれはしない。
自分は自分で守ると決めた、あの八つの春の日に
私は裏庭の蛇口で自分の脚を洗った。
誰も気づかない だけど気にしない
洗ったところで過去の穢れは無くなりはしないけど、
それが何?と言える強さを手に入れられる。
憧れのプリンセスになる夢はもう見られない。
美しい夢は私に言った
「お前など認めない」と
私は黙って白いサテンの長手袋を置き、
代わりに剣を手に取った。
愛は何も助けない、愛は何も助けない
どうして誰も知りもしない愛を
知ったふりして大切だというの?
そうして私は、ずっと何度も同じ景色を繰り返した。
時々違った人が現れ、すぐにまた景色は後ろに流れ、また新しい人が現れた。
だけど結局みんな同じで
痛みに麻痺した私は いつの間にか自分を見失い
誰かが合意を強要する価値を自分そのものと思い込み
そこに私はサインをした
目印の灯りを見失い
名前も無くしてしまった
意味のない称号、意味のない報酬
私は自分が誰なのか分からない
サインの意味は何だったのか
その効力は絶対なのか
誰でもいい もう誰でもいいから・・・
私は何も感じないから
素敵なものとも無関係だから
怖くない 悲しくない 苦しみからも遠くなった
その代償に
美しいものも 楽しいものも 安らぎも遠くなった
今私が一つだけ持っているものは 無機質な壁
その中で 真っ平らな硬い床に横たわっている。
そこには平穏があった。
何もない平穏があった。
私には、それで十分だった。
愛はどこにもない
愛はどこにもない
みんな幻を見ている
もう降りたいよ・・・
もう何万回もお日様が昇って
わたしは目が覚めた
本当はずっと眠っていたのか起きていたのかさえ分からないけど
とにかく わたしは ある朝 目が覚めた
幾重にも重なった白いベールの向こうから
かすかに声が聞こえていた
わたしはベールをそっと掻き分けて進み
赤ちゃんと天使のラジオを見つけた
赤ちゃんだから 入れないわけにいかないよね
もうどうにもならない程だけど
抱っこするくらいならなんとかするから
だから一緒においで
壁は消えていた
赤ちゃんはいつもたくさん笑った
赤ちゃんはいつもたくさん泣いた
そして考えられないほど強烈に怒ったりもした
たべて、たべものをたたいて、べちゃべちゃのうえでねむったりした
そのくせお布団に乗せると目を覚まして
少しの猶予もわたしに与えてはくれなかった
わたしは愛のふりをして 微笑むふりをした
わたしが思う「愛」なら きっとそうすると思うことを
ただ淡々と演じた
愛とは何か 愛とは何か
結局分からないまま
それでも愛がこんなだったらいいなと思うときもある
赤ちゃんはあんまり寝なかった
本はわたしを苦しめただけで役に立たなかった
赤ちゃんが寝ないのはわたしのせいだと言う人もいた
時々なぐさめてくれる誰かもいるけれど
なぐさめは毒にも薬にもならないことが多かった
わたしは万策尽きて 途方に暮れて
ふと思い立って天使のラジオをつけてみた
ラジオは歌う
愛は美しい 愛はやさしい 愛は温かい 愛は甘い
わたしには分からない
だけど天使のラジオがそう歌うなら
わたしは愛を演じてみたい 演じ続けてみせる
わたしは本を捨て
仕事を捨て
また振り出しに戻った
何年もたって 赤ちゃんは小さなこどもになった
数えきれないほど 何度も 一緒に歩いた
季節が巡るのを一緒に見た
香りを嗅ぎ、色んな話をし、歌った
だけど実は、そんなにきれいなだけの話じゃなくて
ほんとにほんとに何度もやめたくなるほど
苦しくなった
そのたびに 自分の未熟さを突き付けられ
頭を抱え 悲鳴を上げ 意味もなくウロウロした
だけど時々手をつないで歩きながら
この小さなこどもに何かを教えながら
実はわたしのほうが 何か大切なものを教えられている
ねじれた幻覚を見ていた
その幻の中でいつも
わたしは この子の横で跪き 深々と頭を下げていた
そして この幻想こそが真実なのだと理解した
この子は無限の忍耐力を持った教師
体を張ってリスクを承知で導いてくれる
そう思った瞬間
のどにつかえていた何かが胃に落ち、涙があふれた
色々と忙しく 毎日は考える暇を与えない
でもそれでよかった
もはや演じることも忘れていたし
愛が何なのか考えることもしなくても大丈夫だった
星の音が降り注ぐ夜に こどもは眠りについている
わたしは静かな部屋の中で やさしく温かく美しい夜の中で
「手放しなさい」とささやく甘い響きを聴いた
壊れた森の壊れた家でわたしが作ったカードは もう未来を占えない
わたしは小さく「ありがとう」と言い 窓の外へ手を伸ばした
ちょうどよく一陣の風が巻き起こり それは夜空に吸い込まれていった
あっというまに小さく 見えなくなって
あとにはただ無数の星たちが煌めき 歌っていた
愛よ 愛よ
あなたは美しく やさしく 温かく
誰かを甘く包み込む
だけど愛よ
あなたが愛であろうと必死になると とたんにあなたは傷だらけ
教えられた過去に問いかけるのをやめて
ただ 心のままに
なにも恐れなくていい
そのままであればいい
あなたは最初から愛なのだから
Fin.
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