オケアン・エリズィのスラヴァ・ヴァカルチュクは、2月24日以降繰り返し、「自分のいるところで、自分のできることを」と呼びかけてきました。彼にとってそれは、自ら運転して物資を運ぶことであったり、またより組織化されたボランティアのメンバーとして、各地に支援物資を届けたり、病院や一時避難所を訪問してミニライブをしたり、ということでした。その模様は本人のSNSアカウントで公開されているのですが、ギター一本で、また、楽器がなければ声だけで、強い想いのこもった歌で人々を力づけていました。

 

今お隣では、マリウポリ攻防をめぐり、製鉄所に取り残されたアゾフ部隊と民間人の救出が至急の課題となっています。この「アゾフ部隊」というのが、発祥が過激派だったため、国外では今でも黒い噂が絶えませんが、お隣の人々に言わせれば、「(昔はならず者だったが)正規軍に編入され、今では軍の精鋭部隊」なのだそうです。製鉄所の地下に頑丈なシェルターがあり、そこに避難している民間人を守り、マリウポリ最後の砦として絶対に降参しないというアゾフ部隊は、愚かでしょうか。当地側が用意している「人道回廊」を使えば、「命は保証」されるかもしれませんが、プロパガンダに利用されたり、21世紀にシベリア送りにされたりと、尊厳の保証は全くされません。最終的には命のほうが確かに大事かもしれませんが、尊厳を尊重し・させるべく、最後の努力をしている彼らに、頭を垂れるのみです。

 

オケアン・エリズィは今日、そのマリウポリとアゾフを歌った新曲を発表しました。数日前、マリウポリ救援を自分のアカウントで訴えたヴァカルチュクが、「自分のいるところで、自分のできることを」したのだと理解しました。そのメッセージを共有したく、歌の紹介と、翻訳をしてみました。

 

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アゾフから日が昇る

風が砂埃を巻き上げる

冷たくとも、春が匂う砂

疲労がなじんだ眼

その理由は語りつくせない

君と再び、幸せになる日を夢に見ているから

 

そう、船の大砲などで

僕の夢は打ち壊せない

僕の心は決して、裏切らないと信じて

永遠にそびえる

高潔なマリアの街

誇り高きアゾフの上に

日が昇る限り

 

アゾフの空をつんざく音

敵の砲弾が撃ち込まれる

昨日からコンクリートさえ、戦争が臭う

明日のことを考える

時間も、理由もない

心も、手も、すっかり戦いに慣れてしまった

 

そう、船の大砲などで

僕の夢は打ち壊せない

僕の心は決して、裏切らないと信じて

永遠にそびえる

高潔なマリアの街

誇り高きアゾフの上に

日が昇る限り

 

残ったのは僕たちだけ

夜に包まれて

動く唇を、痛みに噛みしめ

地下深くにいても

ふたたび光が差し

新しい日が来たと、自由に向かって叫ぶ

 

そう、船の大砲などで

僕の夢は打ち壊せない

僕の心は決して、裏切らないと信じて

永遠にそびえる

高潔なマリアの街

誇り高きアゾフの上に

日が昇る限り

 

 

 

日に日にVPN様の威力が弱められております。書いたもん勝ちなので、書き残しておきます。

 

当地では今、大本営発表しか報道してはならないことになっております。お隣では、「特別軍事作戦」を展開しているのであり、「せ」からはじまる漢字二文字の言葉は、禁句となっております。その如実な例が、国連司法裁判所の停戦決定(16日)について、ロシアの新聞はどこも報じませんでした。例外が、昨年ノーベル平和賞を受賞された方の新聞です。

 

もし当地内だけにいて、情報ソースが当地のものだけだとしたら、まったく別の世界が出来上がります。それは、お隣が過激派の麻薬中毒者を首領とする政権で、8年間にわたって東部の当地語話者をなぶり殺しにしてきた、ならず者国家であり、しかもNATOの軍隊を配備して、当地を襲おうとしている侵略者である。EUと米国は、このならず者国家を傀儡化し、ロシアと敵対しようとしている。ならず者国家は歴史を書き換え、言語を否定し(→当地語のことです=何度も申しますが、お隣にはれっきとした独自の言語があります)、自分のルーツを忘れている、国民は虐げられているから、ならず者政権から解放してあげなくてはならないー

 

というわけで、戦車や大砲をもって訪問し、ならず者国家軍をどんどん降参させて、国民に歓迎されている、という絵をTVや新聞に流したかったようなのですが、事態は真逆になりました。コリア系のルーツを持ち、当地語のほうがどちらかといえば得意なお隣の知事さんに言わせれば、あの日を境に国内のあらゆる党派が、共通の敵を前にひとつになったのです。

 

「花束やパンと塩(伝統のセレモニーです)で歓迎されている僕たち」の絵がどうもうまくいかなかったため、今度は「お隣とアメリカは結託して危険な生物化学兵器を開発している!」という報道をし始めました。コウモリが危険な病気を伝染させるのだそうです。2年ほど前にどこか東のほうで聞いたような気がします。だったらば国連の査察団でも呼べばよさそうなものですが、けしからんので問答無用だそうです。一応この件は、国連で審査すべきだと主張し、議題として提案しているようです。

 

空爆である都市を丸ごと殲滅させたのは、お隣の軍隊の自作自演だそうです。お隣の軍隊が、お隣の軍隊と、爆弾をうちあったり、女子供の逃げている病院にミサイルを撃ち込んだ後に救助作業をしているのだそうです。また、女子供を盾にして隠れている危険なテロリストもいるのだそうです。そんな危険で責任ある軍事作戦ですので、職業軍人だけが参加しているプロの仕事だったはずなのですが、なぜか「一部」、徴兵兵士が紛れ込んでいたそうです。その「ごく一部」の徴兵兵士が、捕虜になって、ようやく両親と連絡が取れて(以下略)というストーリーは、当地の新聞では報じられません。「ごく一部」が手違いで行っただけで、すでに回収は完了していて、あとは「プロの仕事」なんですから。

 

お隣で300万人の難民が発生してるのも、全部自作自演だそうです。彼らはいったいどこへ行くのでしょうか。助けを待っている難民は当地を目指すはずなので、300万人の欧州を目指す難民は自作自演のエキストラで、欧州でのボランティアも全部演技ーなのだとか。ハリウッドも真っ青です。ちなみに当初、人道回廊をお隣が許可しなかったとずいぶん大騒ぎしましたが、それは提案された人道回廊がすべて、当地に向かうものだったからです。泥棒の巣の方向へ避難路を作られて、誰が行くでしょうか。

 

こういうことを、TVや新聞で流してインターネットから情報を得ることに慣れていない層に鵜呑みにさせるほか、ご存じインスタグラムを通じて、有名ブロガーの口からも言わせています(言わせているのか、それとも本人がTVで見た情報を信じてるのかは定かではありません)。たとえば、自然治癒派があがめるトンデモ医療系ブロガーで、このプロパガンダをなぞった情報と、傍証するという「医学的証明」(雑誌の切り抜きなど)を垂れ流しにしているのがいます。年齢や主義主張問わずカバーするには、効果的かもしれませんね。

 

私が時々紹介しているお隣の音楽グループの投稿にも、自作自演乙みたいなコメントがついてしまうようで、リーダーの方が相当にお怒りでした。ごもっともです。当地のお母さんのバイブルだったお隣の小児科医師も、毎日当地の言語で(たぶんお隣の言語はあまり得意でない)、ビデオメッセージを発していますが、こちらにも同じようなコメントがつくそうです。こちらは年の功というか、辛辣な皮肉で返していて、泣き笑いが楽しめます。

 

二つのソースを見ていると、二つの別の世界に住んでいるような気がします。でも、お隣の人々の肉声が、当地の作ろうとしている世界がどうもずれているということを、明確にしてくれます。

VPNサービスのブロックが始まっているようですので、書けるうちに書いておきます。

 

今回のお隣の国との事件、国連国際裁判所から戦闘行為停止命令が入ったようです。お隣に対する攻撃は続いているようですが。しかし、この決議を勝ち取った時点で、お隣に点数加算です。ちなみに当地は国連至上主義を掲げております。

 

2回の対面と、毎日のビデオ会議の形式で行われていた和平交渉にも、一定の成果があるようです。和平交渉が「毎日行われている」ということは、妥協点が模索されているということだと信じたいです。善悪の対立構造に単純化されすぎだとか、お隣の大統領がヒーロー化されているとか、ロシアの言い分はどうなんだとか、ウクライナをサポートする世界の大きな波に疑問符をつける声もありまして、それはそれで必要な意見ではないかと思うんですが、ただ一点だけ個人的に譲れないのは、「他人の家に鉄砲をもって勝手に行ってはいけない」「他人の行き先を勝手に決めてはいけない」ということです。

 

もし、隣家の人が、包丁持って家に入ってきたら、どうしますか。警察を呼ぶとか、襲われたら応戦するとか、何らかの抵抗をすると思います。すぐ降参して家を明け渡す、ただ殺されるほうを選ぶ人は、どのくらいいるでしょうか。また、隣家の人が、「あなたの洗濯物の干し方はおかしい、私のやる通りにしなさい」と命令したら、どう思いますか。いう通りにしますか?自分のやり方で干しますか?

 

ものすごく世俗的な問題に落とし込みましたけれど、実態はそういうことだと思うんです。それと、朝の4時に攻撃開始、というのは、第二次世界大戦のときのドイツ軍侵攻と同じ時間で、「ものすごく悪趣味な冗談」です。強烈な悪意が感じられる行為です。お隣の軍はクーデターを起こすだろうと、その呼びかけすらされていましたけれど、逆にお隣は一致団結しました。お隣大統領を馬鹿にしていた人でさえ、「僕らのブーバチカ(そういう軽蔑的なあだ名がついていたらしいです)に手を出すな!」と、大統領を中心に団結して、抵抗することを選びました。ナチスの行為というのは、遺伝子レベルで忌み嫌われている行為です。それと同じことをされたのは、ものすごく愚弄された、筆舌尽くしがたい侮辱を受けたのと同等です。お隣が即時団結を見せた要因の一つだと思います。それと「なぜ兵役が必要か」ということが実地で証明されてしまいました。

 

当地もお隣も、徴兵制があり、お隣はどう変わったか知りませんが(たぶん基本路線は同じ)、18歳になったら軍に入って1年間訓練を受けます。近所のお兄さんは行きまして、職業軍人にスカウトされたんですけど、お断りして帰ってきました。大学に入ると、軍隊に行くことなく、大学で軍事教練の授業が必須科目です。戦争の経済的側面ということも学ぶし、銃の扱い方も習うそうです。うちの息子は、軍隊に行くつもりはないので必死に勉強してます。が、入ればそういう授業も受けなくてはなりません。

 

それでお隣が非常事態宣言と国民総動員宣言をかけたことが、国民を殺す気か と受け止める方がいらっしゃるようですが、男子は全員、上記の兵役を経て、潜在的軍人です。武器を渡して、ゼロから教えるのでなく、覚悟と素養がある前提で訓練できます。個人的には徴兵制度は反対です。が、追い詰められたとき、正規軍に潜在的軍人が合流してマンパワーが増強できる―ということなのかと、唸りました。きわめて悪意の強い殴り込みをかけられたお隣にしてみれば、潜在的軍人が武器を取るのも自然な行為でしょう。もちろん、非戦派もいるとは思いますが、正直そんな呑気なことを言っている暇は、呼んでいないミサイルの飛び交う戦地にはありません。

 

お隣は西隣や海を越えたお隣に大声で助けを求め、総動員体制の抗戦をはじめました。その抗戦が、国民一致団結のもと行われていること、国や言語や文化を奪われるという危機感に由来することは、これまでにもご紹介した通りです。お隣はすぐに、使えるツール(国連安保理や国際裁判所など)は起用し、諸外国に要請を求め、一方では直接の和平交渉にもあたりました。お隣は情報発信力では訓練されており、その効果は絶大だと思います。大統領の就任以来のインスタなどを見ても、やわらかい内容から固い内容まで、また、夫人とのツーショットや、ジムでのトレーニングなど、非常にオープンかつわかりやすい。今回の件についても、お隣の情報供給は質量ともに優れていると思います。盛っている部分もあるのでしょうけれど…

 

かたや大本営発表と、最新ツールを駆使した効果的な情報発信。

どちらが効果を発揮したでしょうか。

 

話がずいぶんそれましたけれど、武器を持って押しかけるのは、いかがなものか。それと、自らの存在をかけて必死に抵抗している人たちに、その胸の内も考えず、焚きつけるのも、水を浴びせるのも、いかがなものかと思います。とはいえ、私も時々お隣のお友達と話をして、生存確認をするくらいしかできないのですけれど。和平交渉が一日も早く実ることを、願うのみです。