集団的自衛権とは自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃を、自国が直接攻撃されていないにもかかわらず、実力を以て阻止する権利である。我が国は主権国家である以上、国際法上は当然に集団的自衛権を有しているが、実際にこれを行使することは「第9条の下で許容される実力の行使の範囲を超えるものであり許されない」(1981年 質問趣旨書に対する政府答弁書)とされている。


なぜなら自衛権の行使は我が国を防衛するために必要最小限度の範囲にとどまるべきと解されており、集団的自衛権の行使は必要最小限度を超えると考えられているからである。この指摘を表す典型的な例は「武力行使との一体化」論だ。



これは、我が国が直接攻撃を受けていないにもかかわらず、他国の武力行使と一体化するような活動を行うことは憲法上許されないと解する考えだ。こうした関係から、テロ対策特別措置法、イラク復興支援特別措置法などの法律は武力行使と一体化しない、戦闘行為が行われている地域では自衛隊は活動しないなどと法律で規定して、我が国が行う自衛隊の海外派遣は米国などの武力行使と一体化しないように明確にされている。 



ただ、こうした制約や集団的自衛権についての解釈や位置づけが他国の一般常識とはかなり乖離しているために、集団的自衛権の行使を可能にすべきではないかとの声も強くなっている。つまり権利は有しているが行使は許されないという一見矛盾した解釈はおかしいとの指摘等である。これらの声が強まっている背景には、将来想定される様々な場面で日米同盟の信頼性や日米が共同の紛争対処に当たる際に支障をきたすのではないかとの懸念やPKOやテロ対策などの国際貢献の拡大がある。



2013年現在、我が国政府も集団的自衛権の行使を認めるべきという声を受けて、解釈の見直しを行う動きが出始めているが、逆に集団的自衛権の行使に反対する声もあるのも、事実である。そうした反対派の懸念の多くは、平和主義を原則とした現行憲法が他国を守るための武力行使までをも認めることは許されないというものである。


しかし、現実に目を向ければ、そうした懸念よりも集団的自衛権の行使を認めないことの弊害のほうが問題であり、その弊害を指摘して集団的自衛権行使を認めることの必要性を説いてみたい。


まず集団的自衛権の行使を認めない弊害の例として頻繁に挙げられるのが、公海上を航行している米軍艦艇が第三国より攻撃を受けた際に、それが日本に対する攻撃でない限り我が国の自衛隊は米軍艦艇を防護、援護することが出来ずに見捨てなければならないのでは日米同盟は崩壊するというものだ。


これは日米同盟の信頼性にもかかわる問題であり、大きな問題となっている。ただし、これはあくまでも日米関係のみに集団的自衛権の問題を絞った議論である。


冷戦崩壊後の国際情勢変化は大きく地域間紛争、国際テロ発生の懸念など様々な状況が想定される。そのために平時の多国間共同訓練、国連平和維持活動(PKO)、在外邦人の輸送、周辺事態における各種支援、協力活動など決して日米間だけの枠組みにとどまらない広範な活動が要請されている。そのため、我が国は2006年に自衛隊の海外派遣を以下のように想定し本来任務として位置付けた。

①わが国を含む国際社会の平和および安全の維持に資する活動である国際緊急援助活動等、国際平和協力業務等、テロ対策特措法に基づく活動、イラク特措法に基づく活動

②周辺事態に対応して行うわが国の平和と安全の確保に資する活動である周辺事態法に基づく後方地域支援などおよび船舶検査活動法に基づく船舶検査活動など

③国民の生命・財産の安全を確保する活動である機雷等の除去および在外邦人等の輸送

このように自衛隊の海外派遣で行うとされる任務は多種多様であり、多国籍間の枠組みに参加することになる可能性も大きく、必ずしも日米間だけの問題とは言えないのが集団的自衛権の行使問題の本質なのである。


例えばイラク復興支援で自衛隊を派遣した際に、自衛隊と同じ地域で活動するオランダ軍が武装勢力から攻撃を受けた場合に自衛隊が攻撃を受けない限りはオランダ軍を防護できないという問題が発生した。


この問題についてイラク派遣部隊の隊長であった佐藤正久氏が後に自衛隊とオランダ軍が近くの地域で活動していたら、何らかの対応をやらなかったら、自衛隊に対する批判というものは、ものすごく出ると思いますと語っており、日本が集団的自衛権の行使が出来ないことが国際協調に影響を及ぼしていることを指摘した。つまり集団的自衛権は保有しているが行使は出来ないという我が国の特殊な解釈は国際社会では理解されないことを示している。


今後も自衛隊が海外で行動する機会は増加することが予想され、当然ながら治安情勢の劣悪な地域での活動も想定される上、我が国が地域の安定や国際テロへの対処などに積極的に貢献しなければならない時代になるであろう。そうした中で多国籍間での共同訓練や対処行動をとる場合に集団的自衛権の行使を認めないことが様々な事態への対処を妨げてしまい、国際社会での日本の信頼低下に繋がるのは明らかであることを理解したい。



集団的自衛権の行使が可能になるということは、日米間の防衛協力の進展や同盟の信頼醸成に貢献し抑止力が強化されるだけではなく、安全保障の問題が国際化している今日において国際情勢の安定化に貢献できるであろう。ただし、集団的自衛権を行使が可能だからと言って単なる対米追従であってはならず、行使についてはケース・バイケースで我が国が冷静かつ主体的に判断しなければならないことは言うまでもない。