2000年代以降、わが国では「改革」という言葉が持て囃され、小泉竹中改革に象徴されるような大幅な規制緩和が断行され、経済の自由化が大幅に進められた。

特に景気が停滞していたバブル崩壊後の日本では規制緩和は「善」という風潮が強く、経済学者やメディアは「大幅な規制緩和で新規参入を増やせ」とか「規制緩和を行えば経済が活性化する」と規制緩和を肯定し、現在の安部政権が進めるTPPや構造改革路線も「成長力」と言い換えて賞賛している。

また、我々国民の多くも中学高校の公民で「景気が悪い時は規制緩和を行い景気を刺激する」と教わったこともあり大幅な規制緩和の弊害を知らずに、盲目的に良いことだと思いがちだ。

しかし経済学者やメディアが大好きな大幅な規制緩和は果たして良いことなのかどうか、その弊害もしっかりと認識しなければならない。特に、自分は反グローバリズム、反新自由主義のスタンスであり、世の中を勝ち組と負け組に二分化し、弱者切り捨ての社会を作る経済システムには絶対に許せないため、規制緩和の弊害についてしっかりと認識しないといけないと思う。

そのため、ここでは規制緩和の弊害をタクシー業界を例にして挙げてみたい。規制緩和に代表される新自由主義の悪い側面がよくわかるはずだ。

タクシー業界には道路運送法という法律があり事業のありかたが定められている。これが小泉政権下で大幅に改定されたのである。ここにタクシー業界の悲劇が始まった。

タクシーは気軽に乗れる電車やバスと違い、需要が限られているために道路運送法では過度な競争を防ぐためタクシーの台数制限が定められていた。しかし規制緩和の流れでこのタクシー台数の上限が撤廃されてしまい、タクシーの新規参入が大幅に増え、タクシーの数が倍増した。

しかし先に触れたとおり、タクシー市場は需要が限られているためにタクシー台数の供給が増えたことで過度の競争状態に置かれたのだ。それによって以下のような弊害が発生した。

①供給過多により何とか客を確保しようと駅や繁華街にタクシーが集中して渋滞を引き起こすようになった

②限られた需要を多くのタクシー業者が奪い合ったためにドライバーの収入が激減した。地方では平均年収が200万円前後になり、沖縄の那覇ではさらに酷く、まともな生活が不可能な90万円程度の年収に落ち込んだ

③収入が激減したために、少しでも収入を増やそうと労働時間が大幅に増えて、過酷な低賃金・長時間労働が常態化した

④タクシー業界は低賃金・長時間労働という職業(所謂ブラック)になったために若者がタクシー業界への就職を避けるようになり高齢化が進んだ。

⑤ドライバーの高齢化と過酷な長時間労働によりタクシーの事故が増加した。さらに低収入を補うためにタクシー運賃の賃上げが行われた。

こうして規制緩和によってタクシー業界がどうなったかを挙げてみたが、これだけでも本当に規制緩和が経済の活性化に資するのかどうかという疑問に気づくはずだ。タクシー業界のような悲劇は、様々な分野の企業で起こっている。

そして、経済云々という視点以外に過酷な労働環境を強いられる労働者を生み出すということにも気づく。大幅な規制緩和に代表される新自由主義経済では完全に自由な競争原理を導入するために、弱肉強食の市場を生み出して営利だけを求め、労働者を駒のように扱うようになる。

それが新自由主義の正体なのだ。新自由主義では競争と効率化、営利を最も重視して追求するために、労働者の権利や競争に敗れた者を救済するシステムすら軽視される。

例えば正規社員が減らされ、企業が駒として使いやすい(低賃金で働かせられる上、クビを切りやすい)非正規雇用が大幅に増えたり、大店法の改正でイオンなどの大企業が地方に進出したために地元の商店街が淘汰され、シャッター通りが増え地方経済が衰退したのも、これら完全に自由な競争原理を是とする新自由主義がもたらしたものだ。

こうした新自由主義のイデオロギーはアメリカ発のものであるが、日本でも急速に広まりつつある。このイデオロギーに則り大幅な規制緩和が断行された結果として過度の競争でデフレが深刻化し企業の倒産が相次いだほか、雇用の不安定化、賃金の低下、格差の増大、自殺者の増加という社会現象が起こった。


完全に自由な競争を是として弱肉強食の社会を作り出す新自由主義経済は、お互いに助け合い限りある資源を分け合って共生してきた日本の国柄には合わないのではないか。


皮肉なことに安倍政権下で発足した産業競争力会議には今の格差社会を生み出した元凶である国賊・竹中平蔵が入り込んで大幅な規制緩和などの構造改革路線を推し進めようとしている。


経済界やメディアは新自由主義の負の側面には触れようとせず、大幅な規制緩和を経済の活性化だの成長戦略という甘い言葉に言い換えて推進しているが、これ以上日本を新自由主義のイデオロギーに毒されるわけにはいかない。


大切なことは国民一人一人が小泉竹中改革を総括し、規制緩和で日本がどうなったのかをしっかりと認識して、財界優先・国民軽視の新自由主義経済の導入に断固反対の声を挙げて政治に反映させることだ。


たおやかな日本の国柄に新自由主義は合わないし、国民を不幸にする。このことを多くの国民に知ってもらいたいと切に願う。