ブォボンブォォボン!



明日から連休となる前夜、一夫はご自慢のRVX450のアクセルを軽く廻した。

『公三の奴、遅せぇな』

一夫は呟いた。




深夜零時、待ち合せ場所であった、環八通りから少し入った住宅街の傍の宝来公園で、一夫と忠士は、それぞれのオートバイに跨り公三の到着を待っていた。




今年25になる一夫は、高校時代からの仲間である忠士と公三と共に、未だに深夜暴走行為を続けていた。



その日は、第3京浜から1号線を走って江の島まで行くことを、宝来公園に先に着いた一夫がひとりで決めて忠士に告げていた。


『忠士、もう行くぞ』

約束の時間になっても来ない公三に痺れを切らして、忠士に言い放った。





一夫は、この宝来公園から300mくらい路地に入ったところにある、古びたアパート群の1棟の2階に母親と妹と3人で、ひっそりと暮らしていた。



この周辺は高級住宅街で知られるところでもあるが、そのアパート群のある一角だけが、モノクロ映画のロケ場所になりそうな、昭和初期の匂いを色濃く残す異空間であった。



生まれた頃からこのアパートに住んでいた一夫は、近くのビル管理会社に勤めはじめてちょうど1年が経過しようとしていた。



翌日から連休に入ることもあり、公三と忠士を誘って、いつものように深夜の道路を我が物顔で走る計画だったのである。



走っている時の秋の空気は、衣服の繊維の隙間からも肌を刺す厳しいものであったので、ふたりとも上下には真っ黒の皮ジャンパーを纏った異様な絵図で、忠士は一夫の直ぐ後に付けていた。


昼間のうちはとても交通量の多いこの道路も、さすがにこの時間帯に走る車は疎らになり、一夫と忠士は右手のアクセルを全開に操っていた。



そして1号線に入り、草宿の交差点を少し過ぎた辺りの、大きく左に曲がった道に差し掛かった。






そのときだった。。。