『そしてな・・・』



『病気も貧乏も争いも、人間の不幸と呼ばれるものはすべてこの心の糸を、ほどけたままにしてしまうことが問題なのじゃよ』


『この糸がほどけたときには、自分の力で結び直してゆくことが必要なのじゃ』



『自分は結び直す力があるのだと自分自身に思い込ませるきっかけが必要なのじゃよ』



『そ、出来るだけ早く、スパイラルに入り込む前に自分の力で結び直せれば、心の病は治せるのじゃよ』




『でな、その新薬とは、な、この心の糸をほんの少しの力で結び直すように働きかける効力が絶大なのじゃ』



『心の病の根源を理解することによって、わしは新薬を見つけ出すことが出来たのじゃよ』





『先生、わたしも今、そのほどけた糸と戦っているってことなのね』

小枝子は目を潤ませながら言葉を続けたが、常子は俯いたままであった。





『お、もうすっかり朝になってしまったなぁ』


『わしは午後から予定を組んでいるので、もう帰らないといけないわい...』と云って、この街から電車で1時間ほど離れた地に住んでいる古池は横に置いてある小さな台から、コートと帽子を手に取った。




『あ、ママ、小枝ちゃん、今日は楽しかったよ、また来るからな』



『今度来るときは、わしの新薬を持って来てあげるから飲んでみなさい』

古池はそう言い残して影を消した。