『ご結婚なさっていらっしゃられたのですね』

自分でもわかるほど興奮して、かなり上ずった声で、優子に言葉を発した。


『ぇぇっ』
『いえ、まだですけど...』



『だってお名前が、結城さんから吉岡さんに変わっていらっしゃるではありませんか...』


『あぁ~』
優子は微笑みながら声を洩らした。
『あのお花屋は叔母のお家で、私はそこに住まわせて貰っていたのですよ』
『母と一緒に...』



『あ、そっ、そ、そうだったのですか...』




当時、父親の居ない優子は高校に上がったばかりで、母親の姉の嫁ぎ先である、結城花店に母親とふたりで住まわせてもらっていたのである。が、とある事情で母親と共に都内のアパートに引っ越し、星美空女子大学を卒業したあと、全本空の国際線スチュワーデスになっていたのであった。


そしてこの日、9年振りに、芳雄と優子はこの機内で再会したのであった。



『いやぁ~参ったなぁ』
芳雄の口癖である “いやぁ~参ったなぁ”を、頭に手をやりながら何度も繰り返していた。


『あの時に教えて戴いた飯田さんのお名前、今でも覚えておりましたのよ』

『ふふっ』

『私もあのときに、名前を名乗っておけば良かったかしら...』


当時の可愛い少女の優子から、眩しいくらいの美しいおとなになっていた優子は、あのときと同じ笑顔で微笑んだ。



と、なんだか嬉しくなり、到着までの数時間が...
急に明るく楽しい時間に感じられ、まるで雲の上にいるような気分になった芳雄だった。

『いやぁ~参ったなぁ...』