好きでいてくれなくてもいい、と思ってる人には、意外と素直でストレートなのかも知れない。
 私が怒っている理由がわからないなら、話しかけるな、とかよく言えたと思う。
 朝っぱらから電車の中で私を泣かしておいて、その無神経さにはむしろ感心する。
 くだらないとか思ってるなら、どっか行っていただきたい。





 その誘いを、なんて言って断ったか覚えてないけど、次に一緒にご飯食べたりしたら、もう回避できない気がしているので、来週もどうやって別々に帰ろうか、今から頭が痛い。

 どうせすぐ飽きるだろうと思っていたのに、最近生意気になってきていてお前とか言われる。
 さすがに頭にくるんだけど、黙ってる。
 なんというか、この人怖くて、怒らせたらどうなるんだろうとか思うと、つい機嫌をとってしまう。
 怒っている男の人ほど、私にとって怖いものはない。
 
 

 その人が私に優しくしてくれる度、その人の優しさの残高と、私の幸福の残高が、同時に減っていくような気がして、いてもたってもいられなくなる。
 もったいないから、ゆっくりでいいよ、と言う。
 無限に続くことなどない。始まってしまったら、必ずおしまいが訪れる。
 その時に私が苦しくならないように、感情の出力レベルを最小限に絞って、伝わる熱の半分を幸福の貯金に振り込んでおく。そうすればその熱がなくなった時、急に寒くはならないだろう。

 
 私を気に入ってくれる人の多くは、マスカラのたっぷり付いた睫毛だったり、毒気づいた冗談だったり、ハイヒールを履いたつま先だったり、維持するのがわりと大変なものばかりを気に入っていて、それが出来ていないとあからさまに不機嫌になったりした。

 優しいのは最初だけで、後は泣いても笑っても特に興味がないのか、気が付くといつも夜道を一人で歩いていた。
 

 もしかすると、あまり人に好かれたことがないのかも知れない。
 他人から、何かをしてあげたいと思われたことがないのかも知れない。
 楽しませて欲しい、とよく言われた。
 楽しくないから会わない、とよく言われた。
 優しくしてくれそうな人からは、走って逃げた。
 






 心地よさは、罪だと思う。
 その人の全部を手に入れたいと思ってしまったら最後、麻薬のように求めてしまう。
 幸福の借金を繰り返して、きっと追いすがってしまう。