シリアがまだまだ平和だった7~8年ほど前のことです。
そろそろ日中の日射しがきつくなってきた頃、私はハマとホムスの中間にあるラスタンという村のはずれにいました。シリア中西部に水のめぐみを与えてくれるアスィ川نهر العاصي(オロンテス川)のほとりをぶらぶらしていたのですが、対岸に火力発電所があるせいで外国人に対する地元住民の警戒心がハンパない。仕方ないのでしつこい住民に案内役になってもらい、途中から彼の車で移動していました。こちらも目的地まで徒歩というのは無理かなと考えていたところなので...
その目的地というのがまた発電所が見渡せるところでして、発電所を撮影してはいけない、あんまり長居すると面倒なことになるなどと干渉されながら、なんとか所期の目的を果たし、彼らの村まで戻ってくると、もう夕方6時を回っているではありませんか。街道沿いのラスタンまで戻ればハマ行きでもホムス行きでもミクロがまだ頻繁に通っている時間ですが、彼らにラスタンまであと5kmばかりを送る気はないようで、ここで待っていればだれか通るさと、シリア人にはありえない無責任ぶりで村の中心に放り出されたのです。
夕涼みをしていた他の村人と話をしながら待つこと1時間、ようやく通りかかった車を運転していたのは、まだ若い長身の男でした。ホムスまで行くということなので、便乗させてもらうことに。
陽の長い季節とはいえ、振り返ると太陽が丘の向こうに沈んで行くところでした。
ラスタン方向に少し進んだ、ヨルダンならドッキャーンと呼ばれるちいさな商店で車を止め、彼は「ちょっと待ってて」と店に入って行きました。なにか買い物かな、と待っていると、女主人と一緒に店を出てきます。ワゴン車の後部ドアを開けると、荷台にはスナック菓子などが山と積まれていました。女主人とあれこれ話しながら、「これはどう?」などと商品を薦めています。
10分ほど吟味した女主人は、チョコビスケット2箱と、ポテチのようなスナック菓子2種のつまった袋をお買い上げ。
彼はこうやって村々の小さな商店を回る、卸売り兼運送人だったのです。
ホムスまでの道中、なんだってあんな村にいたのか聞かれ、いなかの村の風景を撮るためと当たり障りのない返事をしたところ、「なら明日、僕の仕事を一緒に回らないか?」
なんでも、明日はホムス西方の丘陵地帯に点在する村々を回るんだそうで、風景がきれいなことは保証できるとのこと。
そのころ私が追っていた被写体とはやや異なるものの、たまにはそんなのもいいかと、翌朝に北バスターミナルの向かいで待ち合わせすることにして別れたのでした。