中東を旅する人へ 計画は変更される運命にある? | アーディで行こう

アーディで行こう

「普通」を意味する便利な言葉、「アーディ」 地元の足として、とことこ走るバスなんかを「アーディ バス」、エジプトではエアコンなし列車を「アーディ」 そんな方法での旅を紹介しましょう。
え、そんなの自分には無理だって? 大丈夫。「アーディ、アーディ」

そろそろ年末年始に向けて、旅の計画を練っている人が増えているのでしょうか。私のブログでも、ヨルダン国内交通を書いたページがよく読まれているようです。

最近、といっても1ヶ月くらい前になりますが、『地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人』という本を読みました。著者はNHKのアラビア語講座で講師をされておられたアルモーメン・アブドーラ氏です。不勉強な私はこの講座を見たことはなかったのですが(失礼しました)、この本の中に書かれていることは、アラブ圏や中東を旅する際の心構えというか、相手をより深く知り、自分の行動をよりスムーズに運ぶ上で非常に有用ですので、一部を紹介し、旅行者向けに私の経験で補足します。

『予定は未定
 アラブでは計画を立てるときに柔軟性が大事である。
 ①例えば会う約束をしたら、当日に予定が変更されることを予想しておこう。』
(同書より)

「いったん約束したことは守るべきである」という、日本の考えはあまり通用しません。もちろん、彼らも約束を破りたいわけではないのですが、予定の変更はしばしば。その理由としては

理由1 システィマティックな交通機関が発達していないので、きっちり行動を管理できないアーディで行こう
というのが、ヨルダンあたりだといちばんですかね。なにしろ、たいていのバスは運行時刻が決まっておらず、満席にならないと発車しないのですから、どこかへ出かけようにも経験から所要時間を割り出しますが、それでも「イベントリスク」(こんな言葉も市民権を得ましたね)に左右されるとことが多いです。私が経験したなかで最もひどかったのは、前にも書きましたが犠牲祭2日目にバスターミナルで朝7時から12時くらいまで足止めされたこと。ただ、逆にこの時は、感極まって泣きながら、途中からなぜか2人になって掛け合いながら話すムアッズィン(アザーンを告げる人)の説法を聞けるという、実に貴重な経験をしました。この時の彼らくらい感情移入された説法は、その後も聞いたことがないです。というように、前向きに受け止めましょう。
他に迷惑な「イベント」として多いのは、国賓の来訪ですね。かのアメリカ前大統領が来た時は、アンマン市内の交通は1時間ほどマヒしました。大統領の頭上を警護するヘリコプターで、ああ、今あの辺にいるんだなと分かりましたが、それって警備の観点から見ていいんかな? 影武者よろしく、おとりのヘリをもう3機くらい飛ばしてもよかったんじゃない?

右上の写真は、週末木曜の夕方のアンマン・ムジャンマジャヌーブ(南バスターミナル)、なかなか来ない南部各方面行きバスに業を煮やして、その場にいる運転手やコントローラーと代替の車両で臨時バスを出せ、出さないで揉めだす人々。私も2時間ほど待たされましたが、こうやって人間観察しているのも面白いです(もちろんバスの観察もしてしますが)

理由2 仕事より家庭や自分の生活を重視する人が多い
これは国民性というより、日本人が仕事を重視しすぎるんじゃないかと思いますが。なにがなんでも仕事の約束を優先するという人は、まずいません。わりとあっさりキャンセルしてきます。



『③アラブには綿密なスケジュールを作る習慣がないので、綿密なスケジュールを作らせてもあまり守られないことを頭の隅に置いておこう。』(同書より)

アーディで行こう上に挙げた理由1のこともあって、綿密なスケジュール立案にあまり意味がないこともあるのですが。これに対して日本人は計画立案が好きですよね。それは日本人のいいところなのですが、世界中誰もがそうではありません。また、計画を立てたら、逆にそれに固執する人も多いですが、現地で柔軟に変更する方が大事です。私がこのようなブログを書いているのも、さまざまな情報をより多く持って、AがだめならB、それがだめならC、といった具合に、現場での選択肢を増やして旅をスムーズにしてほしいという思いからです。

バスが途中で故障して立ち往生しても、右の写真のように記念撮影するぐらいの心の余裕が欲しいですね。このとき彼女たちは、デザートハイウェイの途中で私たちのバスに乗車して合流する予定だったのですが、内心かなりはらはらしたそうです。まあ、「ダメなら次のバスにする」と携帯で連絡取り合っていましたが。

現地で仕事をしていると、期日を決めた仕事の工程管理がまずできないので、これには困りました。
Aの仕事は今外注しているから(だれか他の人がやっているから)、こっちはBの仕事を進めておいて、Aが仕上がったらBと合わせてすぐにCの仕事にかかれるようにしよう、といったことが難しく、Aが仕上がるまでなにもせず待っているということが一般的。

教育などでも計画→実行といった訓練を受けていないので、いまさらこうだと言われても、なかなかうまくいかないんです。パレスチナ和平のキーワードにもなった「ロードマップ(工程表)」という言葉も、現地では新鮮で斬新な考えだったんじゃないでしょうかね。まあ、今や日本政府のやることも、工程管理というものが抜けているような気がしますが。


『④体調が悪い、急用ができたというときには我慢せずにすぐ伝えよう。計画通り進まないのは当たり前なので、快く了解してくれるはず』(同書より)

はい、大事なことです。逆に「こっちが我慢しているのに」などと思っていると、相手の落ち度にも厳しくなってしまいますから、いいことないですね。

『「この世のすべての出来事は最終的にはアッラー(神様)の御遺志によって決まる」というのがアラブ人の考える運命である。そしてアッラーのその決定に従うのが、真のイスラム教徒とされているのである』(同書より)
アラブ人にとって、イスラム教は宗教というより、生活全般のよりどころです。今の日本人は宗教を意識していない人が多いと思いますし、キリスト教徒などでは教えと実際の生活がかけ離れていることも多いですが、多くのムスリムにとっては、アッラーの教えに沿った生活をするのが重要です。ま、ムスリム社会でも人それぞれなのには違いありませんが、私には教えがより濃く生活に投影されているように見受けられます。
ですので、『アラブ人と約束する時は、運命があるから何が起きるか分からない、ということを前提としよう』(同書より)
その結果、約束の拘束力は弱くなるのです。

同書に取り上げられているアラブ人の思考回路や行動様式を知ることは、彼らと付き合う際にたいへん有用です。これから中東へ出かける方はぜひどうぞ。振り返って私たち日本人を考える際にも、さまざまな示唆を与えてくれます。

地図が読めないアラブ人、道を聞けない日本人 (小学館101新書)/アルモーメン・アブドーラ

¥735
Amazon.co.jp