ではカイロからルクソール、アスワンなど、上エジプトへの列車の種類をご紹介しましょう。
1 アベラ・エジプトの寝台列車
エジプトで唯一の寝台付き列車です。エジプト国鉄ではなく、アベラ・エジプトという民間企業が走らせています。停車駅にあるアベラ・エジプトのオフィスで切符を購入できます。私が見た2008年夏にはエナやエドフといった途中停車駅にもオフィスがありました。公式HPでも予約ができるようですが、どのような手続きになるかはわかりません。個人的には、よくこんなアドレスが取れたなと、そっちの方にびっくりします。
さて、列車はカイロ~ルクソール~アスワン間に2往復、アレキサンドリア~カイロ~ルクソール~アスワン間に1往復が設定されており、2008年夏にはちゃんとアレキサンドリア便も運転されていましたが、今公式HPを見ると、アレキサンドリア便は運休中(再開時期未定)となっています。
全車が2人用個室寝台車で、2人使用で1人60USドル、シングルユースで80USドル、4~9歳の小児が45USドルの均一料金になっています(夕朝食込み)。公式HPには書いていませんが、エジプト国鉄HPによると、同性なら見知らぬ人とのシェアも可能とのことです。個室は隣の部屋へのドアがあるので、2部屋コネクティングルームとして使うこともできます(もちろん普段は鍵がかかっています)
設備は公式HPをみてください。2段ベッドが枕木方向に並ぶ、日本のかつての1等個室のようなつくりです。ただ、幅はやや広めです。クラブカーがついていますが、食事は個室に運ばれてきます。公式HPではさぞかし風情のある食事だろうと思われるかもしれませんが、実際は国際線のエコノミークラスのミールのようなものらしいです。
写真はルクソールに着いたカイロ発の列車。外観がこんな黄色に塗られているので、ほかの列車と区別できます。エジプトではこれ以外の列車に寝台がついていないので、横になって移動したい人は選択肢がないのですが、中東で夜行列車の旅情を楽しみたいのなら、トルコで乗った方がレベルは格段に上。この程度の設備や雰囲気ならイランなら2000円くらいで乗れます。1000円以下で乗れるシリアの夜行に慣れた身からするとべらぼうな値段です。一時期、何を勘違いしたか日本でも「オリエント急行」として宣伝されましたが、さすがに今はだれもそんなことを言わなくなりましたね。
2 エアコン付き急行
多くの旅行者が利用するのがこのエアコン付き急行です。アラビア語で急行はسريعサリーアといいますが、エジプトの国鉄には後述するエアコンなしの急行もたくさん走っているので、区別するためにمكيــفムカイヤフ(エアコン稼働中の意味)と呼ばれることが多いです。なお、エジプト国鉄の公式HPでは、エキスプレスسريعサリーアといわずに、スピードسرعــةサラアと表記することがありますが、現地ではほとんどサリーアの方を使っています。語源は一緒なので、どっちでも通じるでしょう。
この列車は全て1等+2等で10両程度の編成からなっています。車両は写真のスペイン製と、アルミボディのフランス製がありますが、上エジプトだと9割方スペイン製の編成です。スペイン製の1等車内は写真のとおり、2+1列のゆったりしたシートで、シートピッチも広く、リクライニングもかなりします。ちょっと前までのビジネスクラスの座席と思っておけば間違いありません。
なお、鉄道関係者はこれをイスパーニー(スペイン製)と呼ぶ場合もあります。これに対してフランス製はフランサゥイーです。エジプト国鉄の列車種別を解説したHPでは、両者を別物のように扱っていますが、車両はともなく、最高速度や停車駅設定、運賃など営業面では両者に違いはありません。
時刻表上ではスペイン製列車に V フランス製列車に ف (英語のFに相当するアラビア文字)が付き見分けることができますが、他の注記文字がアラビックなのになぜスペインだけ英字なのか、イスパニョールがなぜVになるのかは、いまだ謎です。
右の写真は、エジプトの駅に貼られている時刻表。これはカイロ発アスワン方面のものの一部で、一番上の駅がالقاهرة つまりカイロ(この場合は書いていないがラムスィース)駅です。列車番号を表す上の項目に、スペイン製を意味する V があるのがわかりますね。 ちなみに、その上の扇風機マークは、エアコン車を意味し、これが2つあると外国製のエアコン車両です。左の2つ、目のマークはエアコンなし、アーディのエクスプレスです。これにも2種類あって、目の位置がタテだとSpecial、ヨコだとAdvanceと英語に訳せばそうなる呼称が付いていますが、いまのところ、両者の違いは私にはわかっていません。
2等は右の写真のように、座席がしょぼくなりますが、これでも日本の在来線の特急普通車並みといえるでしょう。エアコンもたいていちゃんと効きますし、アスワン~ルクソールといった昼間の数時間の移動なら、これで十分です。ただ、夜行なら座り心地や、客層による騒がしさが違いますので、1等をお薦めします。2010年11月現在、カイロ~アスワンで1等109LE、2等55LE、カイロ~ルクソールで1等90LE、2等46LEとなっています。2005年末にはカイロ~アスワン1等81LEでしたので、ここ5年で3割くらい値上げされています。
なお、2等は外国人に販売しないといった情報もありますが、すべては流動的なアラブ社会ですので、販売規制がかかったり、かからなかったり、知らない係員が売ってしまったり、規制解除を知らなかったりということが往々にしてあるので、実際にその場になってみないとわかりません。カイロのような駅員がたくさんいるような駅では特にそうです。アスワン駅などは、利用者に占める外国人の割合が多いので、駅窓口に英語で列車制限を掲げていることがあります。そういった場合、アスワン~ルクソール~エナ間くらいなら、間違いなく空席がありますので、希望する列車に乗ってしまいましょう。ただ、アスワン駅、ルクソール駅には発車時刻表は掲示されていません。事前にエジプト国鉄のHPで列車を検索しておきましょう。このHPに出てくる列車は全て、エアコン付き以上なので旅行者にも安心です。
このHPによると現在2010年11月時点での検索は、2009年5月ダイヤ改正のものと表示されています。実はこの09年5月ダイヤ、一時公式HPからエクセル形式での時刻表がダウンロード可能でした(アラビア語) 今も探せば数カ所の旅行社のHPからダウンロードできますが、残念ながら駅名がアラビア語になっています。これを基に昨年秋、英語版を作成し、ヤフオクで売り出しましたが、売れ行きは芳しくありませんでした。残念。アーディも載せていたのにね。
長くなったので、エアコンなし2等や各停の話は次の機会に。