「女性を気高く描きたい」。
上村松園はそう願っていた。しかし、大正期は、現実を見つめて、人間のリアルな姿を描く芸術がもてはやされた。上村松園展が10月17日まで東京近代美術館で開催されている。めちゃめちゃこんでいるが、みていて不思議と何度も目頭が熱くなってしまった。懐かしいような切ないような気持ちになる。
松園は、時に絶望感を味わいながらも、独自の画境を求めて、孤独な戦いを続けた。
ーーー(日経新聞:美の美」より引用ーーー
僕が上村松園の作品を知ったのは、小学生の頃。
当時、切手収集が流行っていて、既に使用済みの切手だったと思うが、
その中に上村松園の序の舞があった。
なんだか、印象に残っている。
本人も気に入っている「序の舞」
序の舞とは、能の中でも緩やかに進む品格ある舞いで、
白拍子や高貴な女性の霊などが舞うことが多い。
振袖姿の令嬢の凛々しい舞いに、松園は優美な中に意志を秘めた女性の理想像を表現したと言われる。
僕が大好きなのは「娘深雪」。
松園は浄瑠璃の「朝顔日記」の深雪が、日本の婦人では淀君と並んで好きだという。
すれ違いの恋に揺れる娘の、一途な恋心を、一瞬の仕草と表情に凝縮して表現していると言われている。
恋する人の歌が描かれた扇を、深雪が手文庫から出して密かに読んでいる時、
人の気配に気づいて、はっと隠す場面である。
深雪の表情、すこしばかり隠しきれずに覗く扇、仕草、目頭が熱くなるくらい素敵です。
一方、松園の代表作の一つが、「焔」である。
光源氏の正妻、葵の上の病床に生霊となって現れる六条の御息所。
髪を加える右手と、蜘蛛の巣模様の向こうに小さく覗く小指を曲げた左指の仕草に、
御息所の嫉妬の念が滲み出ている。いつ見てもゾッとする迫力の絵です。
能楽師、金剛巌からの助言で、眼の部分に絵絹の裏から金泥を加えた。
その裏色彩の効果で妖しい輝きが出ている。
もうひとつの代表作は「花筐:はながたみ」
謡曲「花筐」を元にした大作で、
越前の国で皇子に慕われた女が、天皇となった思い人を慕って錯乱状態となり、紅葉狩りの御幸の場で、形見の花かごを手に、舞い狂う姿を取り上げている。
松園は能の舞台を幾度も鑑賞し、また、精神科の病院を訪ねたりとしている。
上村松園は大正期にシングルマザーとして生き抜いた。
その人生の流れの中で、いわゆる美人画から負の部分、情念、嫉妬、
そして母の死以降の、日常生活の中の美人画。
古都、京都で今では考えられないほどの中傷や無理解、そして女性画家という職業を選び、
女性の心情を、女性の立場から、気高く表現する上村松園。
背景を知らなくても、その一つ一つの作品の中の女性たちは、見る側の心を揺さぶって仕方がない。