これは妄想です。まだBL要素はありませんが、これからそういった要素が濃くなってきます。腐要素が苦手な方、嫌いな方はスクロールしないで下さい。
当然ですが、実在の人物、団体、地名等とは全くの無関係です。ご了承の上、お読みください。



























 「おい、大丈夫か?」
ジュンはサトシと呼ばれた青年の傍らに跪くと、そっと身体に手をかけて、揺り動かした。
「っ……」
揺すった振動が辛かったのだろう、苦悶の表情を浮かべて僅かに呻く仕草をする。意識はありそうだ。しかし息苦しそうに浅い呼吸を繰り返している。
「どこか怪我を?」
ジュンの質問に、サトシは自分の胸の辺りを指差した。
「少し触るぞ」
そう一言断ってから、ジュンはサトシの身体を、掌で確かめるように擦っていく。軍隊では、任務中の怪我に備えて、ある程度の応急措置が出来るように、それぞれが訓練を受けている。勿論あくまでも応急措置であって、軍医のような専門的な知識や、治療が出来るわけではないが。
 注意深く、痛いと言った胸の辺りを軽く押す。するとサトシは余程痛かったのだろう、ジュンの手を払い除けて顔を歪めた。
「痛かったか?すまない……。だが、もしかしたら肋骨が折れているかもしれないな。少々手荒くなるが、一応固定して酷くならないように応急措置をさせてもらうぞ」
ジュンのその言葉に、サトシが小さく頷いた時
「サトシ、大丈夫?」
と、先ほどの青年が2人の傍にやって来た。右手に包帯を巻かれた彼は、マサキが応急措置をしたのだろう。年の頃は二十歳前後くらいだろうか。サトシもそうだが、この青年も随分と若く見える。
「君は?彼の友人か?」
「友人ていうか、顔馴染み?まぁこの街では、友人みたいなもんかな」
「この街では、とは?」
「あぁ、俺ね旅してんの。吟遊詩人でね、色んな国を回ってんのよ。吟遊詩人のカズって言ったら、この世界じゃちょっとした人気者よ?で、サトシとは5年くらい前にこの街で知り合ったんだよね。俺の音楽と歌をとても気に入ってくれてね、広場で演奏してるんだけど、毎回一番前で観てくれてさ、熱心に聴いてくれるの。それでそんなに熱心に聴いてくれるなら、一緒に歌わないかって誘ったら、歌は歌えないけど躍りは出来るって。それからは俺がこの街に来た時は、サトシが俺の作った曲に合わせて踊ってくれるようになったんだよ。だからねぇ、俺も人気者だけど、サトシも人気者なんだよ。この店に来る人達って、大体サトシ目当てだからね」
「へぇ……」
5年前といえば、ジュンが士官学校を卒業して、この街に赴任して来た時期だ。それにしてもこの街に、こんな若い吟遊詩人が訪れているなんて、知らなかった。尤も、訓練に明け暮れてばかりだったから、娯楽なんて興味がなかったのだが。
 しかし、それにしても随分若い吟遊詩人だ。しかも腕っぷしもそんなに、強いようには見えない。護衛を雇う吟遊詩人もいるらしいが、どうもこのカズとやらは、護衛はつけていないようだ。
とそこへ、他の怪我人の手当てを終えたマサキぐ、やって来る。
「おーい、ジュン。こっちは終わったけど、そっちはどう?」
「あぁ、マサキ。彼はどうやら肋骨を骨折しているらしい。固定するから手伝ってくれ」
「彼?随分と華奢でちっちゃくて、女の子みたいだねぇ。……ところで、吟遊詩人のカズくんは、この子と知り合いなの?」
どうやらカズは、マサキにも自己紹介済みらしい。
「うん、この街に来た時は、必ずこの店に来るんだ。ここ、宿屋もやってるからさ。サトシが踊ってくれるお礼に、ここで飯食って泊まることにしてんの」
「なるほど、だから顔馴染みなのか。……じゃあマサキ、ゆっくりと身体を持ち上げて、そっとだぞ」
「判ってるって」
 マサキと2人でサトシの応急手当てを始める。なるべく身体に負担をかけないようにしているが、それでも痛くないはずはないのに、サトシは一切声を出さなかった。余程痛いのだろうか。ここまで泣き言を言わないのは、我慢強いからなのか、痛すぎて声すらも出ないからなのか。何だかここまで無言だと、心配になってくるレベルだ。
「君の家はどこ?ここに住み込んでるの?」
マサキの質問に、サトシは僅かに首を横に振る。するとサトシの代わりに
「サトシの家は、この店の裏通りを少し行った先だよ。場所知ってるから、俺が案内するよ」
と、言ってこっちこっちと、手招きをして歩き出す。
「じゃあオレが彼を家に連れて行くから、マサキは医者を呼んできてくれ」
「判った、馬飛ばして医者連れてすぐ戻ってくるから」




 サトシを抱き抱え、カズの後に着いて行く。店の裏口を出て、50メートルも歩かないうちに、カズは
「ここの2階だよ」
と言って、裏通りのカフェの2階を指差した。
「本当にすぐ近くに住んでるんだな。ところでサトシは一人暮らしか?家族は?」
「サトシに家族はいないよ。小さい頃に両親は亡くなったって。亡くなったのとは違うのかな、捨てられたんだってさ。それをあの店の親父さんと女将さんが拾って、育ててくれたんだって」
「それは……」
なかなか波瀾万丈な人生を送ってきたようだ。しかし両親がいないという点は、ジュンと少しだけ境遇が似ているのかもしれない。
 それにしてもこのカズは、よくサトシのことを知っている。サトシに質問しているのに、さっきから答えているのはサトシではなくカズの方だ。それと気になることがもう一つ。
「カズはたった1人で旅をしているのか?護衛もつけずに」
どう贔屓目に見たって、絶対に山賊や盗賊団に出くわしたら、勝てっこない見た目だ。それに街の外の森や山には獣だっている。
「俺は基本1人だよ。あ、もしかしてこいつ弱そうなクセに1人で大丈夫なのかって思ったでしょ?」
「あ、いや……」
「その辺は大丈夫。俺、魔法使えるから。軍隊みたいな大群で襲われたらそりゃ、勝てないけど。まぁ大抵の輩はどうにか出来るから」
人は見かけによらないものだ。まさか魔法が使えるとは思っていなかった。
「若いのに大したものだな」
「若いって言っても25だし。自分の身ぐらいなら自分で守れるよ」
「え、オレと同い年か!」
「あら、軍人さん、俺とタメなんだ」
「じゃあ、サトシは?いくつだ?」
「サトシは俺より3つ上だよ」
今度もサトシではなくカズが答える。何とも言えない違和感を覚えて、ジュンは思いきってカズに訊ねる。
「さっきから全部カズが答えているんだな」
「だってそれはしょうがないよ。サトシ喋れないもん」
「え?」
驚いて腕に抱いたサトシの顔を見下ろすと、彼はカズの言葉を肯定するように頷いた。