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鏡の前で自分の格好をチェックする。
これじゃあきっと、父は喜ばない。
「面倒くさいな。考えるの。」
チャン ヒョジュは呟いた。


「ヒョジュ!そろそろ時間よ。お父様がお迎えに来る前に下に降りてちょうだい!」
「はあい。もう少しよ。お母様!」

母はさほどヒョジュの格好に口出しはしないのだが父はうるさい。
ヒョジュはどちらかというと地味な服装が好みなのだが父としては年頃の娘があまりに地味なのが気に入らないらしい。
こういう風に大きな会合で両親とともに出席するときは特にうるさい。

ヒョジュはクローゼットをひっかきまわした。
嫁いでいった姉がきていた洋服も昔母がきていた洋服もきれいにクリーニングされそこには吊るされている。チョン家の女性陣はほぼ同じ体形だから便利だった。

クローゼットの奥深くヒョジュはいちまいのドレスを手に取った。

これならいいかなあ。これならきっとお父様も納得するわよね。
でもこれ、誰のかな?今まで見たことないけど。

ワインレッドのワンショルダーのドレス。
ウエストが締まったきれいなラインのドレス。

ヒョジュはそのドレスに着替えた。


「まあ!ヒョジュ!」
母ガンヒョンがヒョジュの姿を見て驚いている。
「お母様、何か変?」
「いいえ。そうじゃないわ。そのドレス。」
「このドレス?お母様の?だめだった?」
「いいえ。とても似合っているわ。ねえ、お母様が髪を夜会巻きにしてあげるわ。そのドレスは髪を上げたほうが素敵だと思うの。」
母がにっこり笑ってヒョジュの手を取ってドレッサーの前へと連れて行った。

「いつの間にかあなたも大人だわね。いつも会社に行くパンツスーツ姿しか見ないからびっくりしたわ。」
母はヒョジュの髪を丁寧に梳きながら科神の中のヒョジュを見てにこやかにほほ笑んだ。
「本当はいつものような格好が私はいいんだけどお父様と一緒のときはそうもいかないかなって。お母様がいないところで私に言うのよ。」
ヒョジュは口をとがらせた。
「お父様はあなたが心配なのよ。だってあなた男友達の一人も連れてこないでしょ?」
「男の友達がいないわけじゃないわ。ただ家に連れてくるような男友達は、、ね。」
ヒョジュは鏡に母から目をそらして俯いた。
「わかっているわ。お母さんはヒョジュが好きなようにすればいいと思っているから。でも、お父様としては、、ね。でもきっと今日の格好はびっくりするわ。」
「そうかな。」


父ギョンは母が大好きで今も母にゾッコンだ。
人から見ればウザイ程かもしれないけどヒョジュはそんな父が本当は大好きだった。
誰よりも家族思いでそして自分の大切な人たちのためなら一生懸命な人。
ちょっと空気が読めなくて外れたところはあるけどヒョジュにとっては最高だった。

「さあ、このアクセサリーを付けて出来上がりよ。」
母の声にヒョジュは鏡の中の自分を見た。


わあ。なんだか自分じゃないみたい。
こんな姿、もしも、、、
ヒョジュの脳裏に懐かしい姿が浮かんだ。
元気かな、、、。


「お父様が来たようよ。さあ、行きましょう。」
ヒョジュはその声にあわてて立ち上がって母のあとに従った。


「ガンヒョン。用意はできたかい?」
「ええ。見てのとおりよ。」
「うん。さすがガンヒョンだ。今日も美しい。ヒョジュは?」
その声に母はヒョジュの前から横にずれた。
「ヒョジュ!」
父の驚いた声が響き渡り父の動きは止まった。おしゃべりな父から言葉は出てこない。
「お父様、どうかした?何か、おかしい?」
ヒョジュは父のそんな状況に恐る恐る口を開いて聞いた。
その声に父ギョンは我に返ったように答えた。
「いや。そうじゃないよ。すごくきれいだ。昔のお母さんに本当にそっくりだ。一瞬、昔に戻ってような気がしたよ。」
「その服はね、お父様とお母さんの思い出の服なのよ。」
「そうなの?」
ヒョジュはそう言われて初めて二人の驚きの理由がわかったような気がした。
「ええ。ねえ、お父様。」
「ああ、そうだ。」
「お母様、もしかしたら着ないほうが良かった?」
ヒョジュは少し不安になって聞いた。
「いいえ。着てくれてうれしいわ。ねえ、お父様。」
「ああ。もちろんだ。すごくうれしい。それに娘がこの服が似合う素敵な女性に育ってくれたことがとてもうれしいよ。とても似合っている。今日の集まりの中でもきっとヒョジュが一番だ。お父さんが太鼓判を押すよ。」
「まあ、お父様ったら。でもうれしいわ。そんな思い出のお洋服を着る機会が持てて。」
「これでお前にピッタリないい男が見つかれば最高なんだがな。どうなんだ、ヒョジュ?誰かいないのか?」
「お父様ったら。そういう人がいたらすぐに連れてくるわ。でも残念だけど今は仕事も楽しいしまだ、、ね?」
「そうか。そうだな。誰よりも素敵な仕事もできるヒョジュには私の目に適った男でなければやる気はないしな。さあ、そろそろ時間だ。」
「あ、ごめんなさい。バッグを部屋に置いたままだわ。すぐとってきます。」
ヒョジュはあわてて部屋に戻って行った。


「まいったなあ。あの時のガンヒョンが目の前にいたよ。」
ギョンはゆっくりうなずきながらガンヒョンの肩に手を置いた。
「ふふふ。忘れたかと思ってたわ。」
ガンヒョンはギョンの顔をいたずらっぽく見上げた。
「そんなわけないだろ?あの日のことは今でもすべて覚えてるさ。」
ギョンは少し口をとがらせてガンヒョンに目をやった。
「そう?私もよ、ギョン。」
ガンヒョンはそう言ってほほ笑んだ。


「そういえば今日極秘でソン殿下が帰国するそうだよ。会合に非公式で出席するそうだ。」
「まあ。そうなの?もう何年になったかしら?」
「かれこれ4年か?高校3年の時だったはずだから。」
「もうそんなになるのね。そう。」
ガンヒョンはヒョジュの部屋に目を向けた。
「どうした?」
「ううん。何でもないわ。極秘なのね。じゃあ、まだヒョジュにも言わないほうがいいわね。」
「ああ。そうしてくれ。同級生だったし、まあ、あいつがどこかに漏らすなんてことはないだろうがいずれにせよ向こうでは会えるから。」
「そうね。」
ヒョジュが階段を駆け下りてくる音がガンヒョンの耳に届いた。


ヒョジュは階段を降りながらバッグの中身を確認した。

ハンカチ、ティッシュ、ルージュ。コンパクトミラー。それから、、あ、、これ。

階段を下りる足が一瞬止まった。


こんなところに入れてたんだ私。失くしたんじゃなかったのね。
私の大事な御守りで、宝物。よかった。ひょっとしたら今日はいい日かな?


ヒョジュはそれを再びバッグの内ポケットにしっかりとしまいこんでバッグを閉じ階段を急いで降りた。


「どうしたの?何か足りないもの?」
「ううん。そうじゃないわ。お待たせしました。」
「さあ、じゃあ、車に乗って。」
ヒョジュは母が用意してくれたピンヒールの靴を履いて車に向かった。


なんだかうれしいな。失くしたんじゃなくてよかった。

ヒョジュは走り出した車の後部座席でバックを開けてそれを取り出した。

星型の髪飾り。イメージ 2

『これは世界に一つだけだよ。だって僕が作ったんだもの。へへ。あのアニメでヒョジュに似た女の子がしてたやつなんだぜ。』

あんなときどう答えていいのか私は知らなかったしあんな風に屈託なく笑うあいつが妙に腹立たしくて。

『私だから何も言わないけどこんなもんもらってもほかの女の子は喜ばないし引くからね。よく覚えておきなさい!』

本当はすごくうれしかったんだけど。

『他の子にはあげないよ。だって星はヒョジュだもの。』

星―あいつは私を‘星’だって。
バカみたいよね。‘星’だなんて―
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