夏の日の思いでです
朝起きて洗顔をしている時、その人は隣で髪の毛をセットしていた
ポマードをつけてオールバックに
夏だというのに黄色いジャンバーを着て黙々とオールバックにしている
(ここは病院なのに、、、そんな格好つけてどうするのか)
「お、おはよう」
先輩とはそんな出逢いであった
年齢は俺より8つ下、重度のアルコール依存のせいか歳のわりには老けて見えるが話すと面白い人だ、俺のことを年下と勘違いしているらしい
背丈は低く、緩慢な動きで、普段はめったに話さないが、
ギンギンに髪の毛をオールバックにして夏だというのに黄色いジャンバーをいつも着ているのは病院の中で一際目だった
煙草部屋で二人っきりでいる時は彼の武勇伝を聞かされた
「り、りっちぃ」
はい
「お、俺、昔、、、、この辺りを走っている族だった」
えっ、どこの暴走族ですか?
「か、関東連合、ぐ、群馬支部、み、水上方面特攻隊長だった」
(*´・д・)えっーーー すごーーーーーい
この辺りじゃあ、先輩に敵うやつは誰もいなかったんですね?
「あ、ああ、そうだ」
(ん?まてよ、この辺りで走ったとしても、、人はいなくて、、、バイクで爆音鳴らしても反応するのは牛しかいない、、、まっ、いいかぁ)
先輩、先輩はさぁ 矢沢の栄ちゃん好きでしょう?
「あ、当たり前だ、お、俺の神様だ」
ですよね、俺もぞっこんです
そういう話しをしている時、先輩は目は生き生きしていたが
肝臓が悪いのか目の色が黄色い
俺たちは、よく煙草部屋で不良だった昔話や矢沢の曲で何が好きだとか、看護婦のあいつはケツがでかいとか、仕事のこととか、これからどうしていくのかとか、ふりかけは何が旨いとか、亀虫のこととか、時々10円たまが無くなることや、よく話しあった
あの頃の俺は断薬したばかりで、手の震えは止まらず、不眠全開で、心臓の動悸がきつく、いつも頭にあったのはデパスをいつ飲むかだ
ある時、いつものように煙草部屋で二人で話している時のこと
それは8月のとても暑い昼前だった
メイちゃんという摂食障害のとても可愛らしい女の子が煙草部屋に入ってきて
しばらく煙草を吸う
煙草部屋は蝉の声だけが聞こえ、静かな時間が流れていた。
ちょっと緊張していた俺たちへ彼女は呟く
「ねぇ、教えてよ、あんたたち、なんで生きているのさぁ」
その目には涙がいっぱいだった