わたしが小学生になったばかりの頃でしょうか。

弟が生まれる前です。
家出をしていた妊婦の母が、
突然、朝に帰ってきて、
リビングで父と喧嘩をしていました。

何を言っているのか、
あまり分かりませんでしたが…

(なんなのよ、これ)と、母が言っていたのは聞きとれました。

ふたりの喧嘩には、もう慣れっこでした。

二度寝しようとしたら、
わたしの部屋の押入れから、物音がしました。

ん?

なんだろ?と思い。
 
押入れを開けてみたら、胸を両手で隠した女の人が居ました。

(………)

とりあえず、母にバレたらダメだということは分かりました。

静かに押入れを閉めて、わたしは寝ました。

空気が読めるようになったのは、この頃からでしょうか。

(なんなのよ、これ)と、
母が言っていたのは、その女のブラジャーのことでした。


父が愛人を隠した場所は、正解でしたね。

まさか、娘の部屋の押入れに愛人が収納されているとは、
母も思わないでしょうから。

寝てるだけで、波瀾万丈でした。