ロスアラモスの思い出 | it' my america

ロスアラモスの思い出

 少し話しがそれるが、このロスアラモスという町も、「初めて見たアメリカの田舎町」という意味で、とても思い出深い。

 翌早朝、あたりを散歩して分かった町の様子といえば、メインストリートにカフェと雑貨屋とガソリンスタンドが、それぞれ離れ離れにポツンとあるだけという、殺風景さ。他に店らしいものが見当たらず、信号もないどころかその必要性さえ感じられないほど閑散としていた。
 町というより、「集落」といった方が当たっている感じで、目抜き通りの突き当たりは牧場になっていた。
15分ほど歩いてみたが、時間が早いせいもあってか、出会ったのは犬と猫と牛だけ。さすが、人口150人の町である。日本では、3000人でも“過疎”と騒がれる村があるのに、アメリカで100人未満の町を捜す
のは、そう難しいことではないらしい。
 しばらく町を歩いていて、「あれ、変な建物がある」と思ったのが、そこだけぽつんと1ヶ所、西部劇に出
てくるような板張りの歩道付きの木造家屋が、歴史を語る記念物のような風情で建っているのを発見。近づいてみると、古ぼけた看板には「ユニオン・ホテル」とある。ユニオンとあれば、南北戦争では勝利した北軍側についた事を意味する。

 創業は19世紀末。詳しい年代は忘れたが、確か明治維新と10年と違わない年だった。人の気配はまったくないが、ガラス窓に顔を近づけて薄暗い室内をのぞいてみたら、当時のファッションを身に着けた婦人の蝋人形が1体、ソファに腰かけていて一瞬ドキッとした。周囲の調度品も昔のままで、タイムスリップした世界がガラスの向こうにある。
 廃屋だとばかり思っていたこのホテル、現在も週末のみ営業していて、ガーデン・パーティ形式の結婚披露宴に使われているらしい。他には、遠目に見ると営業しているのかどうか不明の、アンティーク・ショップが数軒あることがわかった。大きい所は巨大な納屋をそのまま利用している感じで、体育館ほどの店内にはストーブや柱時計などの家具から、街路灯まで所狭しと並んでいた。
 どうやらロスアラモスは、知る人ぞ知るアンティーク・タウンのようだ。20マイル足らず南にあるソルバン
グは、デンマークからの移民が作った町として、観光スポットになり尋ねる日本人も多いが、ロスアラモスに
はその後4回立ち寄っているが、いつ訪れてもひっそりとしている。たぶん21世紀になっても、同じたたずま
いで迎えてくれそうな、なにもないことが印象的なアメリカの田舎町のひとつである。

 ロスアラモスと同名の町が、ニューメキシコ州にあり、その町こそ第二次世界大戦時に広島と長崎に落とした原爆を作っていた町と知ったのは、帰国後しばらく立ってからのこと。また町外れは、どこまでも牧草地帯だったのに、21世紀になった頃からブドウ畑に変貌し、今ではセントラル・カリフォルニアの一大ワイナリーエリアになってしまった。