居候先は、鍵7個のアパート | it' my america

居候先は、鍵7個のアパート

 なぜだか覚えてないが、空港には国際電話をかけてきたYさんと、中学高校の同級生Iの2人が出迎えに来てくれた。エアポートから車に乗り、連れて行かれたのは、空港から少し北に走った所にある、世界最大のヨットハーバー、マリナ・デル・レイだった。

 そこで長旅の疲れと時差呆けの頭を抱えたまま、カリフォルニアの青い空の下、テラスでお茶した事だけ覚えている。大学のドミトリーに暮らすYさんの所に転がり込むわけにはゆかないので、Iのアパートが取りあえずの居候先と決まった。

 通りの名前で言うと、ピコとウエスタンの交差点近くのアパートに着くと、門扉を開ける鍵に始まり、アパートの入り口の鍵に続いて、部屋の鍵がふたつ、ガレージに続く裏口の鍵に、ガレージの鍵に、ランドリールームの鍵と、アパートの一部屋を借りるのに、合い鍵が7個必要というのは、かなりのカルチャーショックだった。日本も近頃物騒になってきたが、銃社会のアメリカでは用心するに越したことはないが、これが当たり前というのも、どこまでも不安がつきまとう。

 しかも部屋は北側にあり、一日中陽が差し込まない。外出するなら、車でアパートの前まで送ってもらえる時以外は、「日没前に帰宅した方がいいぞ」とアドバイスされ、日中の外出先は徒歩5分のスーパーマーケットが、とりあえずの行動範囲になった。

 しかしやることのない日は、テレビのCMを見るか、アメリカではOKだが、日本では禁止されている強力なエアガンを、分厚い電話帳に向けて発射するしか、暇つぶしの方法がない。せっかくアメリカに来たのに、映画『BIG』で一夜にして大人に変身したトム・ハンクスが、心細い感じでマンハッタンの安ホテルに泊まっているような心境だろうか。

 こんな状況を打開するべく、電話帳に載っていたバス路線図を破り取り、行動範囲を少しずつ広げていった。