ギリギリ75点で実技試験もパス | it' my america

ギリギリ75点で実技試験もパス

 そして日本では見かけない、「DIP」「YIELD」といった道路標識もある。

  DIPは、スピードを出すと危険な住宅地や駐車場などでよく見かけるもので、辞書には「落ちる」とか「潜る」とか「沈む」とあり、道路に溝が掘ってあるか、帯状の小山が設けてあるので車を徐行させればよい。

 もう一方のYIELDは、「許す」「与える」「譲る」といった意味で、曲がった道の後方に車両がない限り、一時停止しないで合流してよい標識である。
 試験管に言われた事で少しだけ理解に苦しんだのが、「スリー・キック・ターン」という指示である。その意味も分からぬまま、「ターン」の言葉を頼りにハンドルを切りつつ、Uターンが無理な幅員の狭い道で、ハンドルを切り返すこと3回でやっとターンでき、いまの動作に間違いなさそうなことに気がついた。
 結局、車庫入れも縦列駐車もしないまま、時間にして15分ほどでDMVに戻ってきた。日本では、これが出来ないために試験に落ちる人が多いという、一番難しい車庫入れと縦列駐車がなぜないのか、その理由を聞いて納得した。
「車庫入れはほとんどの場合、あなたの車をあなたのガレージにしまうのだから、ぶつけて傷をつけたり壊し
ても、その責任はあなた自身にあるわけでしょ。だから、あなたが壊さないように馴れればいいわけで、私が
わざわざ教える必要もない。車のサイズもガレージの形もそれぞれ違うし、それを試験にして採点の対象にするのは間違っている」
 聞けば聞くほど、「ごもっとも」と納得する他ない。縦列駐車にもこんな理由がある。路上のパーキング・
メーターに停めるより、ちゃんとした駐車場が至る所にあるし、その場合、停めるのは前からが原則。バック
で停めると、排気ガスを建物の壁や植え込みにかけることになり、その結果ビルの耐用年数を早め、植物に害を与えてしまう。
 そして何よりも、前から停めたほうが時間も早いし、ぶつける可能性も大幅に減るはず。反論の余地がない合理性が、ここにも活かされていた。
 実技の試験結果も、その場で出された。結果は75点でギリギリの合格。

 返された用紙には、「左折時に膨らみすぎ」とか「レーン・チェンジのタイミングは注意が必要」など、12項目中6項目に「改良を要す」または「拙劣である」の欄にチェックが入っていた。
 さらには欄外にも走り書きで、「ハンドルの切りすぎ」「完全な停止の不備」など、減点対象になった要注
意事項がメモされていた。
 ここで言い訳をさせてもらうと、オーバー・ステアリングとされたのは、先のスリー・キック・ターンに原因がある。ターン中に対向車が来たら迷惑だろうと、張り切って思いきり素早くハンドルを切ったら、減点の対象にされてしまったわけで、こちらとしては心外である。
 もうひとつの、停止のあいまいさに関しては、確かに迷いがあったと感じている。交差点ギリギリにバンパーを合わせて車を停止させると、左右が見えない。安全第一と考え、見える状態まで徐行させながら停めたのがいけなかったようだと、こちらは素直に反省している。
 100点満点で70点以上という、合格ラインすれすれで試験はパスしたものの、本物の免許証を受け取らないうちに帰国してしまった。浮き浮き気分で待つことひと月、T君から届いたエアメールのなかに、待望のドライバーズ・ライセンスが入っていた。
 42歳にして手に入れた宝物である。嬉しさと人に見せて自慢したいという、極めて幼稚にして無邪気な動機から、誰彼かまわず見せびらかしては、ひとり鼻高々。はた迷惑を考えずに、歳を忘れてはしゃいでいた気がする。
「アメリカの運転免許証、見たことある? これ、向こうで取ってきた本物。ほら、見て見て、格好いいでし
ょ」
 ちょっと見は、写真入りのクレジット・カードといった感じである。どの州で取得したかひと目で識別できるように、一番目立つのがカリフォルニアの文字。日本と違うのは、住所・氏名・生年月日・性別の他に、身長・体重に加えて髪の毛と目の色まで書いてある。

 さすが多民族国家である。髪の毛の色の黒(ホントは白髪交じりだが)はともかく、自分の目の色は生まれてこの方、黒だとばかり思っていたのに、「茶色」であると初めて知らされた。
 またドライバーズ・ライセンスを見た人の半数から、こんなことを言われた。
「これ、日本で通用しないの。アメリカで国際免許にすればいいのに・・」
 アメリカはビザが不要になった代わりに、普通の観光客が滞在できるのは3ヶ月に限定されている。一方、
国際免許の発行は、3ヶ月以上滞在した人に限られている。つまり、留学生や駐在員のようなビザ発給者じゃなければ、国際免許も発行してもらえないわけである。それを知ってか知らずか、こんな悪知恵を授けてくれる人もいる。
「アメリカの国際免許なら、警視庁のコンピュータに登録されてないから、日本で違反しても点数減らないし、免停や取消しもなくて罰金だけですむよ」
 そんなことは重々承知なのである。しかし、何重にもかけられた税金を払って車を買い、家賃並みに高額な駐車場を借りなければならない都会に住んでいて、なにが悲しくて車を持つ必要があるのか、と常々思っている。
 さらには言わせてもらえば、慢性的に渋滞する道路に、停めるところのない駐車禁止だらけの道、バカ高い高速道路に利権を生む車検制度。加えて、石油を99.8%を輸入するこの国で、限りある資源としての化石燃料を、個人的な理由で使用するのもあまり好まない。時間があれば電車のひと駅やふた駅なら歩くし、タクシーに乗るのも年に数えるほどしかない。
 つまり便利とか快適性以前の問題として、日本の車社会を冷静に見つめたとき、なにひとつ良いところがないような環境のなかで、車を運転したいとは爪の先ほども思わないのである。ましてや、そんな姑息な手を使うのも私の好むところではない。

 そしてクルージングの醍醐味を堪能するなら、やはりアメリカである。それも都会を離れて田舎へ行けば、渋滞なんてどこ吹く風。1日中走り続けても赤信号で止まらないどころか、信号機そのものに1度も遭遇しないなんて芸当が、いくらでも可能な世界が広がっている。 免許証を手に入れた以上、1日も早くハンドルを握り思う存分車を運転したい、と考えるのが人情である。そんな気持ちが原動力になったのか、意外に早くそれが実現することになる。