有名人のお宅訪問・・!? | it' my america

有名人のお宅訪問・・!?

 わずか数日間だったが、この旅で学んだことは、「アメリカは大いなる田舎の集合体である」ということだ。多くの日本人がイメージするアメリカは、ニューヨークやサンフランシスコやシカゴなどの大都市中心だが、アメリカは実は田舎だらけの国なのである。

 そして田舎を旅して分かったことは、「素朴」で「安全」で「安上がり」の3拍子そろった旅が堪能できる、ということである。テレビでは、「田舎に泊まろう」という番組で、芸能人が民泊するのに苦労しているが、アメリカを旅行中日本からの旅行者だと知ると、「モーテルは高いから、家に泊まりに来ないか・・?」という誘いを何度もされたことがある。

 「そんな危険な誘いに乗ったら、何が起こるか分からない」と反対する声も聞こえてきそうだが、その場の空気にそんな気配は微塵も感じなかったし、むしろ「お前がOKなら、家に電話してベッドメイクさせるから」と、遠回しに「俺はゲイじゃないから安心しろ」という、気配りさえ感じたものだ。

 それでも「OK」しなかったのは、語学力のなさから会話が通じない事や、既にチェックインしているモーテルをキャンセルする場合も、英語での交渉という普段の会話以上に語学力が必要になるからだ。いずれにしても、この旅を経験して以来、好んで田舎を旅することをくり返して、今日に至る。
 当時を振り返り手帳をめくって見たら、ドライブ旅行の終わった翌日が、10月の最終日曜日=ハロウィンになっていた。この日もYさんとT君と一緒にいて、なにかの話しの弾みで、Yさんの知り合いだという、“ヒロ”の愛称で呼ばれる緻密かつ極彩色の画を描くことで有名な画家の家に行ってみようということになった。
 住まいは、ビバリー・ヒルズにあるベル・エアに並ぶ高級住宅地のマリブ海岸。防犯対策上、ひとつしかない出入り口にはゲートがあり、なかは袋小路状態になっている。そこへ車を進め、家の前まできてチャイムを鳴らしたが、留守のようだ。
 門扉の向こうには、大型車が20台は停められる車寄せのスペースがある。家の内部や庭がどうなっているのか、前に来たことがあるYさんに説明してもらった。
「平屋の住宅の向こう側は、プールとテニスコートがあって、さらに奥にはもっと広い芝生のスペースが広がっているの。あそこは何に使うのとHさんに聞いたら、返ってきた答えがなんと『馬場』。さすが、アメリカの金持ちは違うと感心しちゃった。筋向かいは、ダスティン・ホフマンの家で、近所付き合いしているみたいよ」
 いわゆる、アメリカン・ドリームを手にしたリッチな人の暮らしが、闇に包まれた門の向こう側にあるのかと思うと、自分にはなんの縁もゆかりもないのに、夢の間近に居るというだけで心が豊かになるような錯覚に
包まれた。
 日本でも有名なこの版画家をまるで知らないT君に、後日ショッピング・モールのなかにあるギャラリーに入り、この絵がそうだと教えてあげたことがある。
 T君は、その絵の値段の高さには驚いたが、「へぇ、そんなに有名なの」と、あまり関心がない。
 そこに店の人が寄ってきて、とてもそんな高額な版画を買うようには見えない2人に、お世辞なのかそれと
も追い払いたいのか、声をかけてきた。
「メイ・アイ・ヘルプ・ユー」
 面倒臭いので、店員追い払いの常套文句である、
「ジャスト・ルッキング(見てるだけです)」
 ですますつもりだったのに、T君がすかさずこう答えた。
「僕たち、この絵を描いた人と知り合いなんだ」
 すると、こんなにも見事に豹変できるものかと感心するくらい、見る間に手のひらを返し、お前は浪花の商人かというくらい変身した。
「それはそれは、ようこそうちの店へ。ぜひぜひ、そのお友達を紹介してください」
 こんな歯の浮くようなお世辞を言いつつ、ほとんど揉み手状態で擦り寄ってきて、名刺を差し出すではないか。こんな態度の急変ぶりが、T君には一番分かりやすかったらしく、
「そんなに凄い人なんだ」と、やっと納得した。