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太宰治『人間失格』を愛する29歳の葉太。
初めての海外、ガイドブックを丸暗記してニューヨーク旅行に臨むが、初日の盗難で無一文になる。
間抜けと哀れまれることに耐えられずあくまで平然と振る舞おうとしたことで、旅は一日4ドルの極限生活に 。
命がけで「自分」を獲得してゆく青年の格闘が胸を打つ傑作長編。



わかる、わかる、わかる、わかる。

ニューヨークは3回行ったことがあるので街並みや雰囲気が想像できて楽しい!
そこに浸りたくなるのも分かる!

そして何よりも、
自意識過剰で、周囲の目を気にして、自分自身に対して演技をして、そんな自分に嫌悪を抱き、でもやめられない。。
そんなループをしてしまう主人公の気持ちがよく分かる!

まぁ私の場合、人様の前でお金を戴いて踊ったりをしているわけだし、初めから自分は浮ついた恥ずかしいことをしてるぞ〜!という意識があるから、彼のように過度な「恥の意識」を持つことはあまりないんだけど、

コミュニケーションにおいて「正解」を探してしまうところは、特に分かるなぁと。

例えば飲み会などに参加したあと自宅で、
「あー、あのとき、もっと別の言い方ができた方が良かったなぁ...」とか、グズグズ一人反省会をしてしまうことが、20代中盤くらいまではよくあった。

みんな、そういうことあるよね!!?(強引)


今思うと、思春期が遅かったのではないか...
と、自分を滑稽に感じたりもするんだけど、
当の本人は、至って大まじめで生きづらいんだよね、葉太くん(主人公)。



この物語に出てくる登場人物たちは皆、人生という舞台の中で演じている俳優だ。

父親は有名小説家で、生まれ育った田舎を捨てて、しゃらくさく生きている。

母親は、そんな父に見合うように、いつまでも女でいられるように、今日もべったりと赤い口紅をつけている。

主人公はそんな二人にとてつもなく嫌悪を抱いている。

でも、私は人間らしくて愛おしくていいじゃないか!と、思う。
みんな多かれ少なかれ、演じているものでしょ!
「ありのままな人」も、それを演じていたりもするし。
自分が求められていることに応えようとする、それは優しさや思いやりが根本に流れているのものだと思うから。



【舞台】を読むと、
演じている自分やあの人を愛おしく思えてくる。

自意識にがんじがらめになり、ちょっとしんどいなぁと思っているあなたに、
読んでみてほしい一冊です。



追伸:
この物語では、
「はしゃいで調子にのるとバチが当たる、だから気をつける」という主人公の教訓がキーポイントにもなる。

私も実は、子どもの頃は同じことを教訓にしていた。

でも大人になった今、思うんだ。
はしゃげるって、調子にのれることがあるって素晴らしいと。


リカちゃん人形を買ってもらったことが嬉しくて、力いっぱい腕を振り回していたら電気にぶつけて骨折した小学生時代を、

夕飯がチーズハンバーグだと知り、イエーイ!と足を蹴り上げた先にたまたまロケット鉛筆が落ちていて左足の親指に突き刺さった幼少時代を、

冬場になると少し痛む右腕を感じるたびに、
今なおホクロのように埋もれている鉛筆芯を眺めるたびに、
素晴らしかったなぁ〜と、思うのでした。