ここはダルダガール王国の首都スワンタール。
街は周りを石垣の頑丈な城壁で囲まれ、その中心には巨大なサンメイズ城が堂々と天に向かって聳えている。
城はいたるところに豪勢な装飾が施され、見るものを圧倒させた。
だが、なにも綺麗だけというわけではない。
大きさも相当なもの、ある吟遊詩人なんかは「山にも劣らぬ大宮廷」と称したほどだ。
さて、宮廷前の広場では大市場が開かれていた。
この広場では週に一度市が開かれるのだが、今回はいつもとは比べ物にならないほど賑やかだ。
どこの店もこれ以上ないくらい張り切っている。
中には鉢巻をしめ、こぶしを振り上げて国歌を歌っているものさえも居る。
なにせ、今日は年に一度催される「ドラゴン祭り」の日だ!
皆、大忙しで準備していた。
ドラゴン祭り。
これは、竜の神ドルジャスターをたたえる祭りだ。
実はこれには深い理由がある。
―――大昔、このドラスティオ大陸では北東に大きく領地を広げたゴスドラという帝国があった。
当時は軍事力最強の国と言われ、恐れられていたある時、そのゴスドラ帝国が周りの国々に戦争を仕掛けるようになった。
攻撃された国はその強大な軍事力の前に手も足も出ず、同盟を結んだり、隣の国にの国久次々と占領されていってしまう。
しかし、それだけでは収まらず、ゴスドラ帝国は次第に遠くの国々にまで侵略の手を伸ばしていった。
またも結果は同じで、大陸の国々は次々とゴスドラ帝国に呑み込まれていた。 ―――そして、南部に位置する小国ダルダガードも戦火の渦に巻き込まれようとしていた。
小国なだけに軍事力弱小のこの国が、見る見る領地を拡大し力を強くしていっているゴスドラ帝国とまともに戦って勝てるはずがなかった。
人々はさらに南に移住したり帝国側に付いたり、中には自ら命を絶つものまでいた。
ついにこの国も終わりか……と誰もが諦めていたのだ。
それは国王ファンドも同じであった。
もう、いつ敵の軍隊が責めてきてもおかしくない。
そうしたら、この国はあっという間に滅亡の道をたどるはずだ。
長かったダルダガードの長い歴史もついに幕を閉じるのだ……。
だが、そこで見るも疑う出来事が起こる。
実は周りを山で囲まれたダルダガード王国は、はるか昔か竜の神ドルジャスターを熱く信仰してきた。
彼らにとっての神はドルジャスターだけであったのだ。
ドルジャスター自分の信者たちの集るダルダガード王国を見捨てる事ができず、ある日国王ファンドの夢に現れると、
〈おお、ダルダガードを治める者ファンドよ。余は偉大なる竜の神ドルジャスターなるぞ。
さて、お前たちは今、強大な危機にさらされているようであるな。だが、心配する必要はない。余が僕のドラゴンを五体お前たちのところに向かわせたからな。明日には着くだろう。厚く歓迎せよ、国王ファンドよ。彼らは繊細でプライドが高いからな。それがお前の役目だ。よいな?〉
と告げ、消えた。
そして、翌日。
ドルジャスターの言葉通り、天空から五体の巨大な竜が姿を現し、宮廷の前に舞い降りた。
今朝、あらかじめ集会を開き、
「今日五体のドラゴンが現れるが、厚く歓迎しろ。彼らは我らが偉大なるドルジャスター様の使いだ」
と告げておいたので、忠実な家来たちはファンドの仰せの通りにした。
五体のドラゴンが国王ファンドの前に頭をたれると、命に代えてもダルダガードを守ると誓った。
そして、彼らのおかげでダルダガード王国はゴスドラ帝国の侵略の手から逃れることができた。
いや、それどころか五体のうち最も大きなドラゴン〈テイタカウス〉がゴスドラ帝国に出向いて、次々と敵の領地を攻撃していった。
そして、最後にゴスドラの王都ミラヴェンの上空から本拠地のイクラーム城を焼き尽くしてしまった。
ダルダガードは〈テイタカウス〉のお陰で見事ゴスドラを倒す事ができた。
その為、今では年に一度、竜の神ドルジャスターと〈テイタカウス〉を代表とする五体の竜を崇める祭り「ドラゴン祭り」が開かれる。
これには市民は全員参加するようにと国王のお触れが出ていた。
今晩はすごい人ごみになるだろう。
広場の一角に店を開く店主メイスは思った。メイスは主に外国の物や薬、珍しいものを並べていた。
「手が大きくなる薬」、「密かな恋が叶うクリーム」、投げたら火を噴出して爆発する「火炎爆弾」、一見蜂蜜に似ているが、食べると三日間は眠ってしまう薬……しかし、何といっても「小さくなる薬」だ!
この薬は飲むと言葉通り体が小さくなってしまう薬だ。
効き目は一時間。うっかり誤って飲んでしまうと大変だが、役に立つ時もある。
それになにより非常に珍しい薬なのだ!
つい一ヶ月ほど前にこの街を訪れた旅人から買ったものなのだが、聞くところによると遠い遠い北の海に浮かんでいる洞窟で見つけたらしい。
試しに一口飲んで見ると、たちまち体が親指ほどの大きさになってしまったという。
さて、そんな事もありメイスは今朝早くから理髪店に行き、清楚な服を選んだりと腕をまくし立てて張り切っていた。
今日は街の人が一人残らずこの広場に集まる。
ということはその分、客も増えるという事だ。
今回は例年よりも品揃えが良い。
そして、そこに幸運の「小さくなる薬」だ!
今夜は袋一杯に金を持ち帰る事となるだろう。
メイスは思わずつりあがる口の両端を右手の親指と人差し指で元に戻した。 ―――嫌らしい顔は厳禁だ。
その分だけ現金が寄り付かなくなる。
……寒い。
「って、つまらん洒落を考えている暇なんぞない!」
メイスは再び作業に戻った。
ところで、その頃広場に並ぶ店々の陳列台の下を一人の少年が物凄い速さで駆け抜けていた。
手を伸ばし、片端から品物を掴んでは、背中に担いだ大きな袋に投げ入れていく。
そのあまりの速さに店主はおろか周りの人々でさえ少年に気付かない。
そして、少年はついにメイスに店の下まで来た。
今までどおり品物を掴んでは袋に投げ入れていく。
しかし、メイスは全く気付いていない。
鏡で自分の顔をうっとりと眺めていたのだ!
時折、「ああ、なんて俺は……」などとつぶやいている。
道行く人達は、彼の方を見ないようにしていた。
いい年した男がこんなことしているのだから、気持ち悪くて仕方がない。
少年はメイスの店をあっという間に過ぎていった。
そして、袋が一杯になるとさっさと広場から去っていった。
……それから暫らくして、広場では「畜生っ!やられたっ!」という呻き声があちこちから飛び交った。
メイスなんかは髪の毛を引っ張り、地団太を踏んで声にならない叫び声をあげていた!