水先修業生になると、芦屋の海技大学校に入学して、7月下旬に行われる国家試験(筆記試験)を受けなければなりません。

筆記試験の問題は、1.気象、2、3.運用(操船)、計算問題、4.水先法、5.海上衝突予防法、6.港則法、7.海上交通安全法、という内容です。

丸暗記で対応するのですが、とにかく覚えなければいけないことが多く、また考えていたら解答時間の3時間半では終わらないので、問題を見た瞬間に答えを書く必要があります。

また、計算問題は10万トンの船を8ノットから4ノットまで減速するのに何秒かかった、これを完全停止させるのは何秒で何メートル進むのか、などといったもので、公式をいくつか覚えておいて対応します。

丸暗記なので、ノートに書いて覚えるのですが、結果的に朝から晩までひたすら書き続けて、A4、A3のノートが16冊になりました。

7月下旬、試験の行われる神戸の運輸局に来ました。

事前に2回ほど模擬試験が行われ、合格点数に達しているかチェックされますが、やはり本番では何が起こるかわからず、ものすごく緊張しました。

ここは、船員になる前に「乗る船ありませんか」と訪れたことがあったので、とても感慨深かったです。

昼過ぎに試験が終わり、同期の何人かと食事をとりながらビールを飲む。

最高に開放感のあるビールでした。

いい気分となり、神戸の波止場をプラプラと散歩。

 

学校では、操船の座学とシミュレーターによる訓練が行われました。

船員として乗船する場合、段々とその船に慣れていけばいいですが、水先人の場合毎日違う船に乗って、すぐに狭いところで操船しなければならないので、風の影響を大きく受ける自動車運搬船、エンジンの出力が大きく最後の減速が難しいコンテナ船、逆にエンジンが小さく止めるのが難しい貨物船、と色々な船種を、狭いところ、片側が浅いところ、風が強いとき、潮流が強いとき、とそれこそあらゆるシチュエーションで操船の腕を磨いていきます。

「腕を磨く」なんて書いてしまいましたが、いきなりうまく操船できる訳もなく、散々だったりして毎日学校に行く前は気が重かった。

 

8月に入る直前になって、筆記試験合格の知らせが届き、苦労した分とても嬉しかったです。

現役最古の木造灯台が近所にあるというので、見学に行きました。

兵庫県西宮市にある「今津灯台」で、1810年に大関酒造の当主によって、日本酒を運ぶ樽廻船のために建てられたそうです。

現在のものは、1984年に復元されたものだそうですが、後ろにある浜は江戸時代の海岸線そのものとのこと。

 

筆記試験が終わって一息ついたのも束の間、今度は口述試験(海図描画)という訳の分からない難関が待ち構えているので、難しいシミュレーター訓練と併せて、不安な毎日を過ごしていた。