おい、白石、帰るぞ
山田くん
何時だと思ってんだ
え?...もうこんな時間だったの
まさか、気づいてなかったのか?
ええ、この本がとても面白くて
ほんと、お前ってすげぇな、どんな風に世界が見えてんのか知りてぇよ
私が読んでいた物理学の本を取って、パラパラとぶっきらぼうにさらいながら、私に微笑みかける。
...山田くんには絶対見せたくないわ
え!なんでだよ!
ムッとしたかと思ったら、すぐ傷付いたような表情になる。
そ、そうだよな!あの時はしょうがなく入れ替わってたし...本当は嫌だよな。男と入れ替わるなんて
ははは、と頭を掻いてる優しい山田くん。
違うわ
え?
私が見てる世界は、毎日あなたで埋め尽くされてるから。
私を好きだって全身で表現してる山田くんを見逃したくなくて。
ずっと見ている私がいるから。
恥ずかしいじゃない...
見せられない。
頬が熱い。
見ないで、私を。
俺は見てぇよ、魔女うつしの力が無くなってもったいねぇって、思うよ
しらいし、と呟く声が私に走り抜けていく。
硬くて熱い指先が触れる頬に全身の感覚が集まる。
山田くんを見ていられなくて、目を閉じた。
白石...キス、してもいいか?
私の顔をじっと見つめているのがわかる。
山田くんは付き合ってからも変わらず、キスをする時は必ず断りを入れる。
乱暴なくせに、紳士的な振る舞いは私の胸を苦しくさせる。
すきにして...
え?
...山田くんが好きな時にキスしていいわ
私はあなたのものなんだから。
断らなくたって。
もう入れ替わることが出来なくたって。
私たちが別のものだからって、私はあなたにキスされたい。
山田くんとキスがしたい。
私とキスして?山田くん
し、しらいしっ、
動揺して後ずさった彼の後ろで椅子も音を立てた。
っ、
付き合ってから山田くんは唇が触れてから、キスの間はそっと私の顔を見るようになった。
愛おしいと全身で伝えるようにキツく私を抱きしめるようになったことも。
入れ替われなくなってから。
やまだく、
しら、...うらら
好きだ。
蕩け合う唇の間で音もなく、呟く。
入れ替われなくなったから。
あなたとキスができる。
私を見つめる私を独り占めできるから。
私を見つけてくれて、好きになってくれて、ありがとう。
何も言わずに彼を見つめて、もう一度キスすると。
俺も好きだよ、うらら
もう一度引き寄せて、彼は最高の笑顔で私にそう言った。