「会えなくて寂しい」
そんなこと言ったら
軽蔑されちゃうんだろうな。
俺と翔くんは一緒に暮らしていたけれど
このご時世、万一のことを2人で考えた結果
翔くんが違う部屋を借りて
しばらく別々に生活している。
世の中大変なことになってしまって
胸が痛い。
俺たちは職業柄も含めて
身を守らなくてはいけないし
自分の身を守ることが
他の誰かの身を守ることに繋がると
信じている。
だから特に話し合いを重ねなくても
この結論はすぐに出た。
1人でいるリビングのソファは両手を広げてみても翔くんが手を握ってくれることはなくて
1人でキッチンで呟く独り言に翔くんが気付かず返事をしてくれることもない。
1人で横になるベッドは何度寝返り打っても翔くんが抱きしめてくれることもないし
1人でベッドの上で目を閉じても隣からイビキが聞こえてくることもない。
1人で生活するにはこの部屋は広すぎて
2人でいることが
当たり前になってたんだなぁなんて
この生活をしてみて気付く。
「翔くんは、大丈夫かなぁ。」
翔くんは生放送の仕事が多いから
リモート出演といえど
スタジオには出向くことがメンバーの中でも
ダントツに多い。
だからこそ
翔くんがちゃんとした食事を摂っているか
そもそも酒とつまみばかりになっているんじゃないか
翔くんがちゃんと干した洗濯物を畳んでいるか
なんなら洗濯機から出して干しているのか
翔くんがちゃんとベッドで眠っているのか
ソファに脱ぎっぱなしの服の上で寝てないか
翔くんがちゃんとゴミを出しているのか
いつもと違う部屋だから指定日を間違えてないか
そんなことばかりが頭を過ぎる。
いや、もはや生放送が多いという理由じゃない心配ばかりな気もする。
揺らめくカーテンに目をやると
外がとても晴れていて
俺はスマホと飲みかけの炭酸水を持って
バルコニーへ出た。
外出らしい外出はできないけれど
バルコニーで頬を撫でる風は心地いい。
よく晴れていて眩しくて目を細める。
いい天気だなぁ。
炭酸水を飲んで
一息ついたとき
スマホが鳴った。
翔くんだ。
テレビ電話に切り替える。
天気がよくて
スマホの画面がイマイチ見づらい。
『もしもし?潤?今いい?』
「いいもなにも。」
『ですよね〜。なにしてんの?』
「なんにも。」
『俺はね〜、コレ。コレ見える?』
スマホに直接日差しが当たらないように
角度を変えて持ち直す。
「なに作ったの?」
『うちのごはん♪』
翔くんの嬉しそうな顔と
料理が乗ったお皿が
画面に映る。
「え〜すごいすごい!」
『マジですごいでしょ?てか、すごいよ!これ豆腐だけでこんなの出来んだよ?』
「ふふふ翔くん料理が得意になっちゃうね。」
『いやぁ〜まさかこんなとこでも潤のお世話になるとは!』
「いやいや俺じゃないし。俺も翔くんの餃子食べたよ、この間。」
『マジ?てことはクリアアサヒが家で冷えてました?』
「そこはね、贅沢搾りで相葉くんにお世話になりましたよ。」
『ええ〜』
「うそうそ。餃子にはビールだよね。」
『発泡酒ですけどー!』
「ふはは、ちょっと前まで一番搾りだったのにね。」
『この際、贅沢は言いません!』
「うんうん。」
『贅沢は敵だ!』
「そうだそうだ。」
こんなやり取りをいつもなら
画面越しなんかじゃなくて
一緒にしてるのになぁ。
ふと寂しくなるけど
そんなことは言えない。
もっと大変な思いをして働いてくれてる人たちが
たくさんいるんだから。
『潤、大丈夫?』
「え?」
『寂しがりだから。』
俺が「翔くんは、大丈夫かなぁ」と思ったのは
その前に「俺は大丈夫じゃないけど」っていうのが隠れていて
でも此処で寂しいよなんて言っちゃったら
翔くんが心配するもんね。
「大丈夫だよ。」
『俺は大丈夫じゃないよ。』
「え?」
『うちのごはんより潤のごはん食べたいし。』
「翔くん…、」
『潤に触れられないのも抱きしめられないのも、いかに普段の当たり前の生活がありがたいことだったんだってヒシヒシと思い知らされてるよ。』
翔くんが画面から目をそらして
鼻を啜って照れ臭そうにしてこちらを見た。
『潤、いつも横にいてくれてありがとう。』
翔くんはいつも大事なことは
言葉で伝えてくれる。
俺はそんな言葉に救われてる。
「ね翔くん、今日はすごく天気がいいよ。」
『あ今日全く外出てねーわ。なんならカーテン閉まったままだし。』
「ほら。」
青空を映して翔くんに見せる。
『めっちゃ晴れてんじゃん。』
翔くんの声がして
ガサガサ音がして画面が一瞬真っ暗になって
一瞬真っ白になって画面に青空が映る。
俺と同じ青空が。
同じ空で俺たちは
ううん
みんな繋がってる。
『あっかいし風が気持ちいいね〜!』
こうやって、風を気持ちいいと感じて
そんないつもとは少し違う
いつも通りを繋いでいこうね。
そしたらまた肩を寄せ合って
見つめ合える日がくるんだよね。
「翔くん、こちらこそ同じ気持ちでいてくれてありがとう。」
こんな感じでお久しぶりの幸福論。
ちゃんちゃん。